静けさと華やぎが共存する街、ミュンヘン

南ドイツ・バイエルン州の州都ミュンヘン。人口およそ150万人、ドイツで3番目の都市。BMWやシーメンスといったドイツを代表する世界企業が本社を構える経済都市でありながら、美術館や大学が点在する「芸術と学問の街」でもあります。華やぎと落ち着き、伝統と革新―― 相反するものが調和する、ヨーロッパでも指折りの洗練都市。
知の神殿のような秘密の空間

ミュンヘンの中心、マリエンプラッツにそびえる新市庁舎(Neues Rathaus)。ここは観光名所として有名ですが、その内部に多くの人がまだ知らない“秘密”が隠されています。それが先日ANA機内誌「翼の王国」で立ち寄った「法学図書館(Juristische Bibliothek)」。19世紀末、ネオ・ルネサンス様式で設えられた空間は「ヨーロッパで最も美しい図書館のひとつ」と称されるほど。扉を開けた瞬間、思わず息をのむ―― まるで知の神殿の中に迷い込んだような感覚に包まれること必至。
螺旋階段が誘う、思索のスパイラル

図書館の象徴ともいえるのが、天へと伸びるように美しく曲線を描く螺旋階段。装飾をまとった柱や高く広い窓から降りそそぐ光、そして整然と並ぶ重厚な書棚。そこには知の重苦しさというより、知と美が溶け合った洗練が漂っているかのようでもあり。この場所に佇むだけで、心の奥になにかのインスピレーションが降りてくるといったら言い過ぎか?
美と知性が息づく建築

この図書館の真の魅力は、その美しさの奥に宿る理念。空間を満たしているのは「法」と「理性」という普遍の知であり、その精神が建築の隅々にまで息づいています。知識は押しつけられるものではなく、市民とともに育まれるもの――。そんなドイツらしい哲学が、この空間をより輝かせているのでしょうね。
Travel Tips― 美との遭遇のために

この法学図書館を見学するには、市が主催するガイド付きツアー(約30分、英語・ドイツ語)が必須です。また「新市庁舎+法学図書館」90分ツアーに参加すれば、市庁舎の会議室や展望バルコニーも案内してもらえ、思わず写真に収めたくなるスポットにも出合えます。ツアーは市の公式サイトから予約可能。火・金・土・日曜を中心に実施されているので、旅行の予定に合わせてチェック。
“美しい知性”に触れる旅へ

美術館やオペラ、そしてビール文化…。魅力にあふれるミュンヘンですが、旅のプランに「静かな知」を加えてみるのもあり。法学図書館で過ごすひとときは、自分自身の内側を澄ませてくれるような特別な時間になるはず。華やかな街の中に隠された“美しい知性”に触れる―― ミュンヘンにはそんな旅の楽しみ方があるんです。

山下マヌー Manoue Yamashita
雑誌編集者を経て旅行文筆家に。渡航回数400回超、著作数は65タイトル。2022年よりANA「翼の王国」スーバーバイザーを務める。
After a career as a magazine editor, became a travel writer, embarking on over 400 journeys and authoring 65 books. Since 2022, has served as a supervisor for ANA’s 「Tsubasa no Ōkoku」