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2025.03.06

シャープ公式Xアカウント〝中の人〟・山本隆博さん「だれかの〝好き〟を否定しないように」

選択の多い30歳からの人生に、決断は欠かせないもの。各界の第一線で活躍する先人はどんな転機を迎えてきたのか? 今回は、シャープ公式アカウントの〝中の人〟として80万人以上のフォロワーと接し、現在はコミチCMOとしてマンガの広告にも携わる山本隆博さんにお話をうかがいました。〈第一線の先人たちもアラサーで「選んで」きた The Turning Point~私が「決断」したとき~〉

マンガDX支援企業CMO/家電メーカーSNS運営・山本隆博さん

◆配属先で芽生え始めた“問題意識”

大学時代はサウンドアート活動に熱中して就活が遅れ、たまたま応募できたのがシャープでした。配属先の宣伝部では、テレビや新聞、雑誌といったマス広告を手がけていましたが、実際は〝ハンコ集め〟が仕事の大半。大規模な予算が動くだけに、必要なハンコは30個ほど。上司や役員に企画を説明して修正と承認を重ねる中で、渾身のコピーやデザインが削られ、完成するころには輝きが薄れてしまうこともしばしばでした。

だれが悪いという話ではなく、人は「どうでしょう?」と問われると、何か直さないといけない気がしてしまうもの。でも、提案してくれた広告代理店からすると、「うちの父が堅物で…」みたいな身内の感覚的な指示で修正させられるわけで。恥ずかしかったし、元の案のほうが明らかにいいとわかっているだけに苦しかったですね。

救いだったのは、不甲斐なさを抱える若造の僕に、大御所クリエイターたちが「日和るなよ」と暗に励ましてくれたこと。しだいに、「広告主だからってそんなに偉いのか」「製品に関係のない承認が本当に必要なのか」と組織の中で当たり前とされていた慣習への問題意識が芽生えていきました。

山本隆博さん

◆30歳目前の転勤とツイッター(現・X)の運営開始

そのうち、30歳を目前に栃木県のテレビ製造工場へ転勤。都会でも田舎でもない郊外の町で2年半ほど暮らし、「大部分の人の生活はロードサイドにある」と実感しました。CMの多くは東京の家庭に流れる前提でつくられている。日本の半分以上の人の心には届かないのが現実だろうと。

本社に戻るころには、広告の主軸がインターネットに移行し、SNSが新たな可能性を示していました。特に東日本大震災をきっかけに、ツイッター(現・X)が情報発信のインフラとして注目され、企業での活用も加速。僕も運営を任され、ハンコなしで直接伝えられるチャンスを感じて、「事前チェックなしで投稿できるなら引き受けます」と条件を提示してスタートしました。

最初は上層部に呼び出され、「これはいかがなものか」「クレームが来たらどう責任を取るんや」と怒られる日々。まだ起きていない問題を心配されるので、とにかく「結果として大丈夫でした」と示し続けるしかありません。信頼関係ができるまでは、バズった投稿に「何が面白いのか説明しろ」と言われることも堪えましたね(笑)。それに、自由に気苦労なくやっているように見えたのか、社内の友達も減りました。

PCを前に悩む男性
(c)AdobeStock

◆〝5000人リストラ〟報道とSNS投稿の変化

今でこそ83万人以上の方にフォローしていただいていますが、開設当初は会社の不調が重なり、お𠮟りの言葉が多かったです。株価が下がれば「死ね」「どうしてくれんねん」という声が何千件と飛んできます。この感覚は経験者としか共有できない大変さもありました。

ただ、ひとつ転機になったのは業績不振による〝5000人リストラ〟報道を受けたときのこと。自分も含め社員の多くがネットニュースで事実を知りました。社内に広がるざわめきを感じながら、「(´-`).。oO(きょうは眠れるかな…)」と空気感を投稿してみたんです。すると意外にも、数多くの応援コメントが寄せられて驚きましたね。フォロワーさんとのやり取りにも変化が見え始め、「SNSならではのコミュニケーションの可能性」を発見できた体験となりました。

投稿する上で決めているのは、「〝嫌い〟を表明しないこと」。好きなものの魅力を伝えるために、嫌いを引き合いに出すこともしかり。それを発信することで傷つく人がいるかもしれない。公式アカウントは企業の顔であり、扱うのは生活に密接した家電。だれかの嫌いが、別のだれかの好きであることは少なくありませんから。

僕自身のキャリアを振り返ると〝受注体質〟だと感じます。自分から動くタイプではなく、だれかに頼まれてから、「期待を超えよう」と気持ちが駆動する。広告やSNSの仕事もそうですし、書籍化につながった連載コラムも「書いてほしい」と発注してもらえたから始めたものです。好きや得意を追求するだけが仕事の形ではないし、受注体質で力を出せる人も多いはず。やりたいことが見つからなくても、焦らなくていいのではないかと思います。

書籍『スマホ片手に、しんどい夜に』とコミチのXアカウント画面

◆「あなただけじゃない」、そう伝えられる場をつくれた

14年近いSNSの仕事を通じて理解したのは、「人はいつでも怒っているわけじゃない」ということ。宣伝という職業はお客さん像が凝り固まりがちなのですが、多くの人は、ただ自分の状況や気持ちを共有したいんだと気づけたというか。平常時は「買いました」という報告や、次の買い物の相談がほとんどです。広告には、その声に応えていく営みが必要なんだと思います。人間の優しさや性善説をちゃんと信じられるようになったのも大きいですね。

支えになったのは『富士日記』(著:武田百合子)という暮らしの記録本です。淡々と綴られた買い物や食事の記録から、どんな人にも生活があり、それを尊重する視点が大切だと思える。この感覚がSNSにも通じるんですね。仕事で怒られるたび、「大丈夫だ」と証明してくれたのもひとりひとりのリプライで、僕を延命させたのは、間違いなくフォロワーさんです。

特にうれしいのは、「私もそうです」の表明が生まれるときでしょうか。以前、「死ぬほど嫌いな家事をおしえてください。私はアイロンです」とSNS上で尋ねたら、たくさんの人が言葉に出せずに抱えていたしんどさが可視化された瞬間がありました。「あなただけじゃない」、そう伝えられる場をつくれたことは励みになりましたね。

今やネット広告をお金を払って消す人が増えている時代。家電の情報って、故障や引越しのときには必要だけど、それ以外のときはノイズになりやすいですよね。広告が嫌われる存在になってしまったことに「いよいよ潮時かな」と力尽きたようなあきらめもありました。

◆コラムの縁でマンガDX支援のコミチCMOへ

山本隆博さん

ただ、僕は広告の仕事しか経験がない。それなら、押しつけではなく嫌われない広告を目指したい。その延長でたどり着いたのが「マンガ」です。マンガの広告は、怒られるどころか、むしろ楽しんでもらえることが多いんです。会社員時代に連載していたコラムの縁で、マンガDX支援のコミチに声をかけてもらい、CMOを担うことになりました。

昨秋からはシャープの公式X運営を外部委託で続けながら、コミチでは連載作品の広告・グッズ企画や編集部のアカウント運営をサポート。Webマンガ雑誌の読者を増やす、作品ごとのアプローチを考えています。今の広告には、忙しい人々の生活の隙間を無理やりこじ開けて注意を引く乱暴さがあると感じています。

そういう広告がなくてもモノが知ってもらえて、欲しいと思ってもらえる世界が成立するよう、自らも現場で関わりながら、その在り方を変えていきたいです。

日常を大事にしたくなるコラムが好評! おすすめマンガ作品も紹介

『家電としあわせ』

山本さんの人気連載『家電としあわせ』は、『おとなの週末Web』で掲載中のコラム(近日書籍化予定)。家電をめぐるなにげないエピソードから、日常の〝ちょっとした幸せ〟を紡ぎ出すその言葉には、SNS投稿でも発揮される人間味あふれる視点が光る。

また、CMOを務める創作プラットフォーム『コミチ』では、多彩なマンガ作品も紹介。同公式Xアカウント(@comici_jp)も運営し、マンガを読む日々を発信している。疲れを和らげてくれる出合いがあるはず!

2025年Oggi3月号「The Turning Point〜私が『決断』したとき~」より
撮影/石田祥平 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部

山本隆博(やまもと・たかひろ)

コミチCMO(最高マーケティング責任者)。シャープ公式X(旧ツイッター)運営。シャープにてテレビCMなどマス広告制作に従事した後、SNSを担当。ときに〝ゆるい〟と称される投稿が話題に。企業コミュニケーションと広告の新しい在り方を模索しながら、日々ユーザーと交流を続けている。主な受賞に2018年TCC新人賞、2019年「Forbes JAPAN トップインフルエンサー50人」、2021年ACCブロンズなど。2024年10月より現職、Webマンガのマーケティングに携わる。シャープ退社後も業務委託で公式X(@SHARP_JP)運営を継続。著書に『シャープさんのSNS漫画時評 スマホ片手に、しんどい夜に。』(講談社)。

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