地域人材マッチングサービス会社経営者・永岡里菜さんインタビュー

《Profile》ながおか・りな/1990年、三重県生まれ。千葉大学教育学部卒業後、イベント企画・制作会社に入社し、官公庁や大手企業のプロモーションを担当。その後、地域活性に携わる会社に転職し、農林水産省と和食推進事業の立ち上げにも関わる。2018年7月におてつたびを設立し、代表取締役CEOとして「お手伝い(短期アルバイト)」と「旅」を組み合わせ、地域が抱える人手不足を助ける仕組みづくりに尽力。『ウーマン・オブ・ザ・イヤー2025』『マーケター・オブ・ザ・イヤー2025 地方編』を受賞するなど、社会課題への取り組みが評価されている。
夜行バスで巡り続けた先に見つけた、人との出会いが生む化学反応
社会人として数年が過ぎ、これから先をどう生きていくのかを考え始めた20代半ば、「自分の人生を何に使っていきたいのか、そもそもなぜ存在しているのか」。そんな思いが、頭の中を行き来するようになっていました。新卒で入った会社では、プロモーションやPRを中心とした制作の仕事を3年間経験し、その後、地域活性化に関わる会社へ転職。社長から「ここで探したらいい」と声をかけてもらい、週4日勤務で働かせてもらっていました。考える余白はありがたかった一方で、平日はどうしても業務の進捗が気になり、一度きちんと区切りをつけて準備しようと、脱サラを決断しました。
退職後すぐに答えが見つかったわけではありません。ただ、前職で携わった和食推進事業を通じて全国を飛び回る中で、いつも頭に浮かんでいたのが、幼少期を過ごした三重県尾鷲市のことでした。自然や人の温かさがありながら、観光地と呼ばれる場所はなく、「どこそこ?」と言われてしまう。日本各地を知るほど、そんな〝無名の地域〟が数多くあることを実感し、「なぜ人が訪れにくいのか」「魅力はどうすれば伝わるのか」という問いが、尾鷲と重なっていったんです。

その答えを見つけるには、パソコンの中の二次、三次情報だけでは限界があると感じ、東京の家を引き払い、半年間、夜行バスで日本各地を巡りました。最初に訪れたのは、長野県上田市のトマト農家さん。畑仕事を手伝い、食卓を囲み、地域を歩く。生活は最小限に抑え、住まいも持たずに動いていました。同世代がキャリアを積む眩しい姿を横目に、不安を感じることもありましたし、「自分は二酸化炭素を吐いているだけなんじゃないか」と思う夜も。それでも各地を巡り続けたのは、現場でしか見えないものがあると感じていたからです。
8か月目から、少しずつ仮説検証を始めました。いきなり事業として形にするのではなく、まずは小さく試す。そうして生まれたのが、〝お手伝い〟と〝旅〟を掛け合わせた『おてつたび』の原型です。旅先で短期アルバイトをしながら滞在をすることで、宿泊費は無料。空き時間には観光や温泉なども楽しめる新たな旅のスタイルです。
最初に実証実験として手を挙げてくださったのが、長野県・山ノ内町のお宿さんでした。当時の人口はおよそ1.2万人。志賀高原にあり、冬はウィンタースポーツでにぎわう一方、高齢化・人手不足という課題を抱える地域でもあります。参加してくれたのは、建築を学ぶ大学生。掃除やキッチンのサポートといった裏方の仕事をしながら、空き時間には地域の方と自然に会話が生まれていました。あるとき彼が、「授業は座学が中心で、机上の空論にならないよう、もっと現場に触れたい」と話したことをきっかけに、「空き家がたくさんあるから、何か一緒にできないかな」という声が地域の方から上がりました。おてつたび期間を終えた後、彼は20人ほどの学生を連れて再びこの町を訪れ、空き家活用のアイディア合宿を開催。その取り組みは数年かけて実際の着工へとつながり、今も後輩たちに引き継がれているそうです。
岩手県八幡平市でも、忘れられない出来事がありました。東京育ちの大学院生が参加し、「〝都市部以外で生きる〟という選択肢を、初めて身近に感じた」と話してくれたんです。その思いを聞いた地域の方からは、「子供たちは早くここを出たいと言っている」という本音がこぼれました。それならば、と彼がこの土地で感じた魅力をチラシにまとめると、地域の方がそれを手に取り、配ってくれた。外から来た人の視点が、地域に新しい気づきをもたらしていく。人と人が出会うことの化学反応、偶然によって広がる可能性、潜在的な思いが顕在化する瞬間―そんな光景に立ち会うたびに、こうしたマッチングを、もっと増やしていけたらと思うようになりました。
とはいえ、受け入れ先を見つける道のりは、決して平坦ではありませんでした。当初は法人格もなく、実績もほとんどない状態。100件連絡して、1件話を聞いてもらえるかどうか。それでも、その1件が、次に進む力になっていました。

地道に育ててきたおてつたびは、現在、利用者数9万人を超えています。人手不足を補う仕組みであると同時に、人と地域が継続的につながる場でもあります。コロナ禍で一時的に動きが止まったものの、再開後に明確だったのは、おてつたびを通じて関係性を育んできた地域ほど、回復が早かったということでした。一見のお客さんやインバウンドに頼らず、顔の見える関係を築いてきた地域には、「大丈夫?」と会いに来てくれる人がいた。外的要因に左右されにくい強さを、現場で実感しました。
利用者さん側にも、変化が生まれています。「人生の選択肢が広がった」と話す人は少なくありません。旅をきっかけに転職したり、移住を決めたり。短期の関わりが、次の人生をひらいていくケースも増えています。同時に、地域からは「おてつたびがないと困る」という声も聞かれるようになりました。日本の観光や一次産業は、季節変動が大きい。人手が足りず、廃業を考えていた宿や農家が、踏みとどまれた例もあります。今では、求人募集を出してから平均17時間で、最初の申し込みが入るようになりました。20〜30代に限らず、40代以上の参加も増えています。家事力や仕事の経験、かつて身につけた語学力。それぞれの人生の中で培ってきたものが、地域で感謝され、力になっていく。その姿に、人生10 0年時代、「働く」はもっと自由でいいんだと思えるようになりました。
日本の地方は、今、瀬戸際にあると感じています。人口減少のしわ寄せは、都市部以外の地域に先に現れ、一度なくなった地域を元に戻すのは簡単ではありません。だからこそ私たちは急ぎたい。そのためにも、ひとりで抱え込まず、仲間と走る体制が必要だと考えています。失敗は、早いほうがいい。不可逆で致命的でない限り、上にいる者がフォローすればいい。そうやって挑戦と仲間の数を増やしながら、地域を消滅から守るために、できるだけ早く前に進んでいきたいと思っています。
都市圏に住みながらでも、地域と関わり続けることはできる。私自身、2年前から湘南に暮らし、東京のオフィスや各地を行き来する中で、一極集中しない働き方が、視点や思考をやわらかくしてくれると感じています。ひとり一役ではなく、二役、三役を担う生き方があっていい。「おてつたび」が流行ではなく、旅の文化として根づいていくこと。その積み重ねが、日本各地の未来につながると信じています。
地域の人手不足を支え、人生の選択肢をひらく『おてつたび』に各界が注目

永岡さんが手がける『おてつたび』は、2025年『新語・流行語大賞』トップ30、日経クロストレンド『未来の市場をつくる100社【2026年版】』にも選ばれ、旅と仕事をつなぐ新しい体験として期待を集めている。地域の人手不足を支えるだけでなく、参加者が地域で働き暮らす可能性に気づくきっかけにも。各地域のおてつたび募集や体験記は、公式HPで随時公開中! https://otetsutabi.com/
2026年Oggi3月号「The Turning Point~私が『決断』したとき~」より
撮影/石田祥平 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部
Oggi編集部
「Oggi」は1992年(平成4年)8月、「グローバルキャリアのライフスタイル・ファッション誌」として小学館より創刊。現在は、ファッション・美容からビジネス&ライフスタイルテーマまで、ワーキングウーマンの役に立つあらゆるトピックを扱う。ファッションのテイストはシンプルなアイテムをベースにした、仕事の場にふさわしい知性と品格のあるスタイルが提案が得意。WEBメディアでも、アラサー世代のキャリアアップや仕事での自己実現、おしゃれ、美容、知識、健康、結婚と幅広いテーマを取材し、「今日(=Oggi)」をよりおしゃれに美しく輝くための、リアルで質の高いコンテンツを発信中。
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