インタビュー前編
▶︎【川西賢志郎】お笑いコンビ解散後の初エッセイ。人気漫才師として生きてきた男が赤裸々に語る、芸・家族・これから|インタビュー前編
人生を大きく変えたいときに、必要なものは……
──少しOggiの話をしてもいいですか?お聞きしたいことがあるんです。
もちろんもちろん。
──Oggiは、30代からの働く女性のためのメディアなんですが、転職や、今の時代なら独立とか、さらに結婚や出産という、人生の大きな岐路に立つ世代が中心です。川西さんが、昨年コンビを解散されたときは40歳だったかと。
うん、そうですね。はい。
──とても大きな決断だったと思うのですが、同じように人生の転換について悩んでいる読者の方に、川西さんなら、どういうアドバイスをされますか?
うーん。
──たとえば転職して、今のポジションをリセットするとなると、やはりお金のことなどは、心配だと思うんです。
お金のこと。すごい現実的なところですよね。まず1個、それは絶対にあると思う。
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──川西さんにしても、漫才師としてすごく人気もありましたし、ご家族もいらっしゃいますし、普通は「このまま続けていれば安定」といった気持ちになってしまうかと。怖かったり、不安にはなりませんでしたか?
うん、もちろん不安……僕も結婚もしてますしね。不安はあります。でも僕の場合は数年、吉本っていうお笑いの大企業で、漫才師としてワーッて稼がせてもらった部分があるから。
──なるほど。
ちょっと余力があるっていうのも、現実の話をするとありますよね。まだ生活に切迫してないという。でもじゃあ「この現状が続けばどうやねん」は、もちろん関わってくるところなんですけど、何かを思いきるための準備は必要かなと思いますよね。
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──先ほどの、金銭面といった現実的なこととか。
そう。やっぱり思いきった決断にはお金が絶対かかってくるし、先々のことを見越したときに、そこはシビアなとこかなっていうのはあります。でも結局のところ、本当に自分が違うほうに進みたいと思ったら、そこも含めてになってくるから。「いやでも(金銭的に)厳しいか」で終わらせられるということは、結局そっちでいっかって、自分で思ってんやろなっていうふうにも、僕は思っちゃうかな。本気でどうにかしたいってなったときの、本気の度合いによるんじゃないかな。転職にしろ、結婚にしろ、生活を変えていくものすべてにおいていえることは。
──どれだけ自分が本気なのか、にかかっているということですね。
「本気でそうしたい」でもいいけど、「本気でイヤ」でもいいし。もうとにかく、どこまでの本気なのかっていうことで、自然と身の振り方は変わるんじゃないかなとは思いますね。漠然としてますけど。
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死んでるけど動いてる“ゾンビ漫才師”にはなりたくなかった
──川西さんも解散という決断に、本気だったということでしょうか。
もちろんです、もちろんです。逆に本気じゃなかったら、まだ漫才師やってたんじゃないですか。なあなあにして。
──実際に、そういう芸人の方もいらっしゃるのかな……と、想像してしまいますが。
あ、そういう方……ばっかりですよ。
──(笑)
この流れやとウケると思って言ってしまいましたが(笑)、少し訂正します。素晴らしい人もいますよ、もちろん。僕はロールモデルがあんまりいない道を、漫才師として進んでたつもりやけど、その中でも「この人たちはすごい、自分の中で意識するべき相手やな」っていう人もいましたし、また逆に、さっきの「そういう人ばっかり」は、ほんとに嘘やけど、実際いますよ。もうコンビ活動してなかったり、そこまでの熱量をもう漫才にもってないけど、そういった看板だけ掲げてる人って。これって、僕からしたら、なんかゾンビみたいに見えるんですよ。死んでるけど動いてる、みたいな。“ゾンビ漫才師”にはなりたくないっていうことは、僕はすごく思ってたから。そういう意識は強いほうやったと思うから、こういう決断になった。だから結局、本気で願ったことがあったから、本気で手放せたっていうところに落ちつくんやと思うんですけど。
でも結婚してて、子どもが生まれてとかなったら、またちょっと事情変わりますもんね。お子さんのことを、いちばんに考えなきゃいけないっていうのも、乗っかってくるから。
──確かに、その人の環境にもよるところは、大きいかもしれません。
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5年後、10年後の自分が見えるのは、すごくつまらない
──ちなみに一例ですが、私も38歳のときに勤めていた編集プロダクションを辞めて、フリーランスになった経験があります。
それは、何か引っかかりがずっとあったわけですか?
──すみません、個人的な話をして。
いや、聞きたいです。むしろ興味あります。
──会社の待遇は十分だったのですが、このままだと、この先もずっと同じ仕事をすることになる気がしたんです。
うんうん。
──でも、もう少しいろんなこともやってみたい。38歳なら、まだやり直せる気力も体力もある。ただ、これが40歳だとしたら厳しいなと……。
40やねん、俺!40なってもうてるやんけ(笑)。
──(笑)。それもあったので、40歳の決断は、本当にすごいと思いました。
でも、僕もわかるところがありますね。ある程度のキャリアを積んで、ある程度のところにきたときに、あ、あと5年やっていったらこんな感じになんのかなとか、あと10年やっていったら、この人らみたいな感じになんのかなとか。もちろん、そこでもコツコツと努力を積み上げてですけど、5年後、10年後、15年後の自分、みたいな漫才師が、もう現実におるんですよ。たぶんこうなるな、もうこのラインに乗ってんのかな、みたいなね。
──はい。
だから解散したわけじゃないけど、すごくつまんないですよね。それをつまんないと取るか、いやいや素晴らしいことやんかと取るのかは、これはもう、個人の気持ちによるところやとは思うんですけど。
──そうなりたい人も、いるかもしれません。
そうそう。で、自分もなりたかったはずやったと思うんですよ。たとえばNSC(吉本のお笑い養成所)に入学したときに、未来からタイムスリップしてきた自分に、「あなた将来、○○さんみたいになりますよ」っていわれたら、「やった!○○さんみたいになれる!テレビもいっぱい出れる!」みたいな、当時の自分はそれくらいの考えやったと思うんです。でもそれがやっぱり、いざ自分が経験を積んでいって、なんとなくの立場になったときに、どう思うかですよね。「その人みたいに、お前は本当になりたいか」というところって、やっぱ考えますよね。
──そうですね。
編集プロダクションを辞めて、安定したサイクルの中を抜けたいって思われたのも、結局そのサイクルをこなしていった先の5年後、10年後の自分が見えたときに、「このレールから降りるなら今しかない」みたいになられたっていうことなんだろうなと、理解しました。
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──ありがとうございます。ちょっと余談でした。読者の悩みに話を戻しますと、やっぱり「真剣に自分の将来をどうしたいかで、おのずと結論は出る」というのが、川西さんの答えになりますか?
うーん……。だと思いますよ。
──では人生のヒントとして、そう読者の方にお伝えできたら。
……ま、そうやな。いや、なんか口で「そういってても〜」みたいな人もいるじゃないですか。俺、そういう人の気持ちはごめん、わからへんわ、正直。なんかこないだも「職場でこんな上司がおってな、こんなこといわれるしな、仕事でもこんなことあってもうイヤやったわ」っていってる人がいたから、俺からしたら「そうなんや。ほな、もう辞めたほうがええな」って思うけど、「いや、なんか辞めるとかはちょっと……」みたいな人もいるじゃないですか。
──(笑)
なんか「こうやってん!ほんでこうやってん!しかもこうやってん!」っていって、全部ガス抜いてスッキリして、また次の日に職場に戻れる人っているじゃないですか。俺、絶対そっちのタイプじゃないんで。でも、もしかしたらそういう人のほうが多いんかなっていうぐらい、けっこういるから。
──いいたいだけの人ですよね。
そうそうそう。正直、そうなると僕にはもうわかんないですね。でもそれも、その人からしたら、「いや、本気で思ってんねん」っていうことなんかもしれへんし。それを本気じゃないっていうのは失礼な話やろうなと思うから。……種類。人間には種類があるとは思います。
──はい。
だから、あくまで1種類の人間がいっているアドバイスだっていうことを、種類の合う人だけ参考にしてもらえたらなと思います。
Oggi読者のことを、常に気づかいながらも真摯にお話ししてくださった川西さん。自分に正直に、本気で生きている人ならではの清々しい表情が、そこにはありました。だからこそ、発信する言葉にも説得力がある。エッセイもまた、読後に自分の胸に手を当てて、問いかけてみたくなる一冊です。
PROFILE
川西賢志郎(かわにし・けんしろう)
1984年1月29日生まれ、大阪府東大阪市出身。2006年からお笑いコンビ“和牛”のツッコミとして活動し、「M-1グランプリ」にて16~18年 の3年連続で準優勝を獲得する。24年3月にコンビを解散、その後も芸人活動を続け、ライブやテレビ番組、ドラマなどに出演中。 3月には書籍販売に伴う特別公演「ワンマントークショー ─はじまりと おわりと はじまりと─」を、大阪・東京で開催する。
「ワンマントークショー ─はじまりと おわりと はじまりと─」
3/7(金) サンケイホールブリーゼ(大阪)
3/20(木・祝) めぐろパーシモンホール 大ホール(東京)
INFORMATION
『はじまりと おわりと はじまりと ―まだ見ぬままになった弟子へ―』
川西賢志郎 KADOKAWA(発売中)
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撮影/松木康平 スタイリスト/神山トモヒロ ヘア&メイク/山内マサヒロ 取材・文/湯口かおり