社会を取り巻く環境は目まぐるしく変化していて、これから先、私たちの暮らしはどうなってしまうんだろう…… と、不安を感じている人も多いはず。
そこで、ジャーナリスト・池上彰氏の新著『池上彰の未来予測 After 2040』から、今からどのように行動していけばいいのかについてのヒントを探ります。
書籍より一部引用・再編集し、生成AI、仕事、物価、退職金、年金…… など、気になるトピックスについて、全7回の連載形式で解説。
前回の記事>>【池上彰氏が提唱】チャットGPTの脅威…どうなる? 優秀なアシスタントにするために人間側がすべきこと
雇用形態が大きく変わり、退職金制度もなくなる
業界の趨勢(すうせい)だけでなく、雇用形態も、2040年には大きな変化が起きているでしょう。日本でも多くの人が、今とは違う「新しい働き方」をするようになっているはずです。
日本では従来、新卒一括採用、年功序列、終身雇用などの独特な雇用形態が続いていました。
新卒一括採用のメリットとしては、4月1日に一斉に入社する同期たちとの仲間意識が育まれることが挙げられるでしょう。同期はライバルにもなりますが、いざというときには助け合う、独特の存在です。
それに日本には年功序列もありますから、1年先輩にも1年後輩にも言えないような仕事の悩みも、同期なら相談できるというメリットもありますね。
デメリットとしては、新卒一括採用があるために「就職のチャンスは1回しかない、レールから外れるわけにはいかない」と大学生が就職活動(就活)にプレッシャーを感じる点です。
「第二新卒」枠ができるなど、以前よりは企業も柔軟になりつつありますが、それでも「留学をしたい」「もう少し大学に残って研究を続けたい」といった希望を諦める大学生もいるでしょう。
私は今5つの大学で教鞭をとっていますが、今の大学生を見ていると、1年生の頃から就職のことを心配して熱心に情報を集めています。
特に私立の大学は、就活のサポートが充実していることなどを大々的に売りにしています。キャリアセンター、昔でいうところの「就職課」は広々としたスペースが費やされていて、いつでも学生のキャリア相談に乗りますと謳っています。
実際に就活をするのは大学4年生ですから、そんなに早々と就職情報を集めなくても、勉強をしたほうがいいんじゃない? などと思ってしまいますが、学生たちは「新卒で就職しなければ」という焦りや不安がぬぐえないようです。
終身雇用は、よっぽどのことがない限り定年までこの会社に居られる、という安心感が生まれます。
半面、それは「ぬるま湯」の環境にもなりかねません。能力のない社員も雇い続けなければならず「窓際族」が生まれたり、それを見ている社員たちの活力も削がれたりすることがデメリットでしょう。
ユニクロなどを展開するファーストリテイリングは「完全実力主義」を掲げ、給与体系も等級ごとに年収が定められています。退職金制度はありません。
そのため実力のある人は、基幹店の店長まで出世して年収3000万円といったことも可能ですが、実力のない人にとっては、何年働いても給与は上がらないし退職金もないしで、定年まで働くメリットはありません。
これは皮肉なことですが、退職金がないことで、「窓際族」を生まず、社員の転職も多い、人材流動性の高い職場になっているといえます。
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『池上彰の未来予測 After 2040』(池上彰 著/主婦の友社)
あなたは16年後の自分を想像できますか? あなたが今40歳なら、56歳。定年退職が見えてくる時期です。定年後、人生の節目を迎えてなお社会や家族から見放されないためには、過去の出来事から未来を予測し今から準備をする必要があります。とはいえ未来を考えると、暗い将来ばかりを思い描いてしまいがちです。たとえば円安がさらに進み、自分の収入だけでは生活できない経済状況になってしまわないか?大地震や富士山の噴火など未曾有の災害に襲われないか……などなど。不安というものは、いったん考え始めると次から次へと出てきて、思考が不安に支配されてしまいます。私はそうならないために、未来をなるべく楽観的に考えることを心掛けています。ですので、本書では明るい未来と暗い未来の両方を想像しています。あなたの未来が暗くならないために、今からどう行動していけばいいのか? 本書をそのきっかけにしてもらいたいと思います。