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17時間遅れで常夏のマレーシアへ
ロンドンに張り切って移住したはいいが、家探しが難航。困り果てていたときに女神が舞い降りてきた。彼女は、マレーシアに駐在している女子大時代の友だち。マレーシアに来ればいい、部屋はあるというありがたい話。予定より17時間遅れでマレーシア・クアラルンプールに到着した私を空港まで迎えてくれた友人とは、もう10年来の付き合いだ。大学時代は同じ寮に住んでいたこともある。
彼女の顔を見て、ここに来るまで自分がずっと緊張していたことに気づいた。着込んできた防寒具をぜんぶスーツケースに仕舞い込んで、半袖になる。マレーシアの気温は年中30℃前後。雨季に入ったばかりで、空港の外に出るとむっと立ち込めるような湿度の高さ。もうすっかり冬の訪れを感じる乾燥したイギリスから来たから、この湿度が肌に良さそうでちょっと羨ましくなった。
クアラルンプールのシティはタワーマンションや巨大なショッピングモールが乱立していて、この急速に成長したであろう街並みをタクシーの中から眺めていると、大学の卒業旅行で行ったシンガポールを思い出した。綺麗なビルが立ち並ぶけれど、舗装が甘いのか道路にはかなり凸凹があってヒールで歩くのは大変そう。車に乗っていても大きく振動を感じる。
この街に駐在中の友人が住む家はホテルとレジデンスが一体化したいわゆるタワマンで、約40階建て。住人専用のジムと、ツインタワー(マレーシアのスカイツリー的存在)が見える絶景プールもある。彼女の部屋は22階で、主寝室のほかにゲストルームとしてベッドルームがもうひとつある。「いくらでもいてくれていいよ」という言葉も納得。最高の住居環境とはこのことを言うのかも。
多民族国家それぞれ
マレー系の民族が約6割、中華系が約3割、インド系とその他が残りを占めるという、ぜんぜん違う文化を持った人間たちが暮らす多民族国家のマレーシア。ロンドンの街でも、あらゆるバックボーンを持つ人への多種多様な気遣いを感じてきた。アレルギー食材の明記やベジタリアン、ヴィーガン対応のフード、絆創膏やストッキングなどのカラーバリエーションがかなり多いし、薬のパッケージには点字が打たれている。
マレー系はイスラム教の人がほとんどなので、多くの飲食店やスーパーがアルコールなしや豚肉なしのイスラム教向け=ハラル対応。日本にいてもロンドンにいても見えていなかった世界がここにあった。
ドラッグストアに行っても(あのSEPHORAにすら!)マニキュアがほとんど置いていなかったことに驚いた。マニキュアって、アルコールでできているものね。かわりに日本でもイギリスでも見たことのなかったハラル対応のコスメがたくさん。ネットで事前にリサーチしてもいまいち見つからなかったのだけど、意外とマレーシアメーカーのスキンケアアイテムは豊富だ。イギリスではほとんど化粧水が売っていないので、色々と買い込む。お気に入りのアイテムを見つけることができて嬉しい(マレーシア周辺国でしか買えなさそうだけど)。
中華系の人はお酒が好きなイメージがあったけれど、マレーシアでは飲まない人が多いそう。酒税が高くて、外食時でもフードメニューに対してアルコール飲料の値段がとても高かった(環境で人は作られていくんだな… と思ったけれど、酒好きの友人は相変わらずよく飲んでいた)。
カルチャーショックの極め付けは平均年齢。マレーシア国民の平均年齢は28歳で、日本と比べると20歳も若い。子どもが多いというのが大きな理由だそう。ちょうど選挙の前に滞在していたので、街中ではたくさんの選挙に関する張り紙を見かけた。若い人の政治への関心も強いらしく、友人が『ローカルの人はみんな職場でも普通に政治の話をする』と言っていた。日本にはない勢いを感じる。民家の軒先に国旗を飾っている家がたくさんあったのも印象的だ。愛国心を示すことも、日本よりずっとカジュアルな感じ。
マレーシアでの暮らしが快適すぎる
実はロンドン到着後にコロナにかかってから1ヶ月足らずで体重が3kg落ちた(主食が小麦であることに戸惑ったまま、何を食べるべきかよくわからないままスープを啜っていたからだと思う)。大学生ぶりに見る体重に戻っていたのだけど、食に対して並々ならぬ情熱を持った友人が、毎日おいしいご飯をアテンドしてくれたおかげで、3kgなんてすぐ戻った。
マレーシアはお米と麺が主食。純粋なマレー料理だけでなく、マレーシアナイズされた中華料理やインド料理、ベトナムやタイっぽいものまで、食べたいものがたくさんあるし、日本食レストランも、日本食が売っているお店もたくさんある(ロンドンで生き抜くためにたくさん買い込んだ)。
正直にいうと、ロンドンより快適だった。最高の暮らしだったと言わざるを得ない。
食のテイストもなんとなく馴染みがあるし、1ヶ月ほどイギリスで過ごしてからマレーシアに来たから尚更、やっぱり自分はアジアで生まれ育った人間だと痛感。物価もイギリスと比べるとかなり安い。彼女が住むタワマンの家賃は約9万円で、恐ろしいことに私がロンドンで見てきたどのシェアフラット(キッチン、シャワー共有)よりも安い。すごく不思議な気持ちだ。なぜ私はロンドンに住みたがっているのか? という思いが頭が浮かんでくる。
だけど、なんだかんだ一番の安らぎは友だちの存在なんだろうな。お風呂上がりに突然アイスが食べたくなって、閉店前のサーティワンに滑り込みデリバリーをして、ジャニーズWESTのYouTubeを見ながらだらだら過ごしていると、そういう時間って想像していた以上にすごく大事だったんだと感じた。
友人だけでなく、彼女の友だちにもすごく良くしてもらった。マレー人の友だちが車を出してくれて、私たちが知らないようなおいしいローカルごはん屋さんを紹介してくれたり、遠出した帰りに車でピックアップしてくれたり。なんでみんなこんなに親切なんだろう。
彼女たちがロンドンに来ることがあったら私もこんなふうにアテンドしたい。そのために私自身がもっとロンドンを楽しまなくては(と心に誓ったものの、ロンドンに戻りたくないよぅ、独りで行くのさみしいよぅと度々駄々を捏ねた)。
3週間も家に置いてくれてありがとう! You are my Bestie.
#7につづく
小西 麗
1993年生まれ。日本女子大学卒業。モデルを経て、編集者・ライター。雑誌媒体を中心にインタビューや特集記事を作成。「男性同士のアツい関係」の意であるブロマンス好きが高じて、コラムの寄稿も。2022年、YMSビザで渡英。現在ロンドン在住。
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