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新生活、犬の散歩係になる
常夏のマレーシアから飛行機を乗り継いで、ようやく到着したロンドンではもう耳たぶが冷たい。日本人と会うたびに「ビタミンDをとってね」と言われる季節。ロンドンの冬は日照時間が短くて体内のビタミンDが不足しがちになり、気分が落ち込みやすいそう。12月はもう、いつでも夕方みたいな光だ。
ようやく見つけた私の新しい住まいは、一家に間借りする下宿スタイル。日本人のマダムA子さんとアメリカ人の旦那さん、20代の息子氏、そして大きな白い犬が暮らすロンドンらしい白いフラットの中の一部屋だ。
イギリス式にいうと3F、日本式にいうと4Fの、小さなクローゼットとデスク、シングルベッドの広いとは言い難い部屋。だけど専用のシャワーと洗面台、トイレがある。専用の水回りがある部屋はロンドンだと貴重!
家賃は食費、カウンシルタックス(地方税)、水道光熱費(イギリスでも怒涛の値上げ中なのでかなり重要)すべて込み。シティからほど近いハイソなエリアにも関わらず、驚かれるほど格安で貸し出されたこの部屋。住む条件は、時々犬の散歩に行くことと、家族の不在時に犬の面倒をみること。
こんなに大事にされて、君はとっても幸せな犬だよ! と思いながら、おおらかな犬・さくらをなでくり回す。A子さんは日本人だけど、この家に20年以上住む一家の公用語は英語。5歳のさくらはきっと私より英語が得意だ。
アラサーだけど大学生だと思われがち
フラットフェアやエアビー基準での距離感を保った生活を想像していたから、「冷蔵庫にあるものは好きにしていい」「おやつとか、最後の一つを食べるときは教えて」と言われ面食らった。
食費込み、ということで毎日A子さんが丁寧に作るごはんを一家と共にいただく。“晩ごはんは家族みんなで食卓を囲む”という生活をまさかこの地で再びするなんて。ホームステイのような毎日。
重たい重たいスーツケースを自室の3Fまで運ぶのに、息子のJ氏が手伝ってくれた。言葉数は多くないけれど、彼は親の手伝いをしたり、さくらの世話をしたり、優しい人柄を感じる。
欧米人はアジア人より大人っぽく見えるというから、きっと私より若いんだろうなと思って年齢を尋ねたら、まだ大学生だった。「びっくりした! ちなみに私は29歳だよ」と伝えたら、彼も驚いていた。
旦那さんのM氏と初めて話したときに大学では何の勉強をするのか聞かれて、大学を卒業して久しい私は思わずきょとんとしながら文学部だったと答えた。ティーンの頃から大人っぽく見えると言われ続けてきたので、アラサーになった今大学生に間違えられるなんて、瞬時に気が付かなかったよ。もしかして今って人生のボーナスタイムなのか?
引きこもり体質は変わるのか
居住環境を良くすることに執念を燃やしているので、この部屋に住み始めた日に模様替えをした。
シングルベッドの位置は変えられなかったので、デスクを移動する。使わない暖炉エリアの上に置くと足元に段差が生まれたので、とりあえず段ボールで埋める(後日ちょうどいい高さのコルクレンガを入れた)。部屋は十分明るいから、デスクにあったライトはベッドサイドに移す。部屋の全ての収納を確認して、ざくざく物を入れていく。枕元にシルクカバーをかけて、好きな香りをワンプッシュ。
完成した快適な小さな部屋にこもっていたら、M氏に「うららの居住スペースはその部屋だけじゃないから、リビングを好きに使ってくれ」「囚人のように暮らさなくていいんだよ」と諭された(私は囚人のように暮らすのが好きなんですよ)。
海外に行ったくらいで、この引きこもり体質が変わるわけじゃないらしい。夕食の際、「家族と会話する」がマストな生活になったけれど、このくらいの強制力がないと日常的に社交できないかもしれない。
そんなわけで、アットホームな新生活が始まります。
#8につづく
小西 麗
1993年生まれ。日本女子大学卒業。モデルを経て、編集者・ライター。雑誌媒体を中心にインタビューや特集記事を作成。「男性同士のアツい関係」の意であるブロマンス好きが高じて、コラムの寄稿も。2022年、YMSビザで渡英。現在ロンドン在住。
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