「ダブル・バインド」とは?
「ダブル・バインド」という言葉を聞いたことはありますか? あまり耳慣れない言葉だなと感じるかもしれません。しかし、「ダブル・バインド」は、ビジネスシーンや日常生活など、私たちの身の回りの様々なところに潜んでいる可能性があります。
まずは、「ダブル・バインド」の意味から一緒に見ていきましょう。
「ダブル・バインド」の意味
「ダブル・バインド」とは、日本語で「二重拘束」といいます。つまり、「ダブル・バインド」とは、矛盾した2つの命令に挟まれた状態のことを指しているのです。さらに、「ダブル・バインド」は、二つの矛盾した命令を指摘できないまま、応答しなければならないときに使われます。
このような状態は、人にとって大きなストレスとなり、「統合失調症」の原因といわれることも。
「ダブル・バインド」の提唱者
「ダブル・バインド」は、1950年代に文化人類学者のグレゴリー=ベートソンによって提唱された概念です。
例えば、子どもが母親に「早く寝なさい」と言われたとします。寝るためには、普段は愛情を注いでくれる母親から離れなくてはなりませんが、愛情を示してもらおうと近づこうとすると、「早く寝なさい」と命令されてしまう。
このように、いつもは愛してくれる存在への「愛してもらいたい」という欲求と、同じ対象から「早く寝なさい」と遠ざけられる命令が、子どもにとってどちらも叶えられることができず、身動きできなくなってしまう状態のことを、ベートソンは「ダブル・バインド」と指摘しました。
「ダブル・バインド」の定義
つづいて、「ダブル・バインド」の定義について見ていきましょう。「ダブル・バインド」は、以下の条件が揃うことで起こる心理的な現象だとされています。
・2人以上のやりとりであること
・1人が、もう1人に2つの矛盾する言葉を伝える
・伝えられた相手が、どちらにも従いたくないと感じる
・しかし、伝えられた相手は矛盾から逃れられずに、身動きが取れない「ダブル・バインド」状態であると気付く
・気付いたことによって、ストレスを感じる
「ダブル・バインド」の具体例とは?
「ダブル・バインド」の定義を見てみると、細かく定まっているように感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、日常生活において「ダブル・バインド」状態に陥ることは多々あります。どのようなときに「ダブル・バインド」になってしまうのか、具体例について紹介します。
1:上司など目上の人とのやり取り
ビジネスシーンにおいてよく遭遇する「ダブル・バインド」は、上司とのやり取りです。例えば、自分が何かミスをしてしまったときについて考えてみましょう。
「理由を説明しろ」と言われたら、ミスをした状況や理由を説明しようすると思います。しかし、今度は上司から「それは言い訳だ」と言われてしまう。このような場合、「説明しろ」という命令と、「それは言い訳だ」という否定によって、矛盾が生じてしまうため、身動きが取れなくなってしまいます。
他にも、上司に「何でも聞いてね」と言われたのに、実際に質問したら「自分で考えて」と言われるなど、気がつかないうちに「ダブル・バインド」を経験したことのある方は多いのではないでしょうか。
2:恋愛におけるやり取り
「ダブル・バインド」には、2種類あると言われています。いままで説明してきたのは、マイナスの「ダブル・バインド」です。今回は、プラスの「ダブル・バインド」を例に挙げてみましょう。
例えば、好きな人や恋人と、デートに行く場所について相談する場面を想像してみてください。「どこに行きたい?」という抽象的な質問では、選択肢が多く、逆に選びにくく感じるのではないでしょうか? 場所が決まらず、いつの間にか別の話になってしまったり、相手にうやむやにされてしまったりすることも考えられます。
そこで、「ダブル・バインド」を活用してみましょう。「遊園地と水族館、どっちに行きたい?」というように、あえて2択の選択肢にすることで、相手はどちらかを選択せざるを得ない状況になります。
意中の相手がいる場合は、高確率でデートに誘う方法として有効です。
3:親子のやり取り
ベートソンが「ダブル・バインド」の例として取りあげたように、「ダブル・バインド」の典型的な例が親子関係になります。子どものためを思って厳しくすればするほど、子どもにとっては「ダブル・バインド」状態が続き、ストレスになってしまっている場合も。
「ダブル・バインド」がエスカレートすると、子どもが親を信用しなくなったり、子ども同士のコミュニケーションにおいて問題が生じてしまったりなどの悪影響が考えられます。
「ダブル・バインド」をしないために気を付けることを紹介
最後に、「ダブル・バインド」をしないために気を付けるべきことを紹介します。具体例で取り上げた恋愛のように、上手に活用することができれば、非常に有効な手段といえますが、効果が強力な分、使い方には気をつけなければなりません。
1:相手に言う前に自分で考える
マイナスの「ダブル・バインド」をしないようにするには、言う内容を頭の中で反芻することが大切です。
例えば、子どもに対して、片づけをして欲しいことを伝えるのであれば、「早く片付けて! 片付けないとお菓子買ってあげないよ」というのではなくて「どっちが早くお片付けできるか競争してみようか!」など、表現を工夫するようにしましょう。
「これをしなきゃ、あれをしない」という強迫的な言い方は、子どもの自己主張の機会を奪ったり、自己肯定感の低下につながったりすることがあります。
また、この考え方は、ビジネスシーンにおいても同じことがいえますね。自分の言ったことが矛盾していないか、自分の発言に責任を持つことが肝要です。
2:ポジティブな言葉に言いかえる
「何でも聞いてね」とは言ったものの、調べればすぐにわかることや、何度も説明していることを何度も聞かれると、つい「自分で考えてよ」と言いたくなってしまうこともありますよね。
そこで感情のままに言ってしまうと、相手を「ダブル・バインド」に陥らせてしまうかもしれません。そこで、「本当に分からないことは協力するけれど、まずは自分で調べてみよう」「次は、自分でやってみよう」と相手に寄り添った言い方を心がけるようにしましょう。そうすることで、相手の反発心や「ダブル・バインド」を起こすことなく、改善することができるのではないでしょうか。
最後に
「ダブル・バインド」は、矛盾する二つの事柄によって身動きが取れなくなってしまう状況のこと。
耳慣れない単語だったかもしれませんが、実は生活のあちこちに潜んでいます。自分の言葉に責任を持つことで、「ダブル・バインド」から相手を守ることができますので、ぜひ日頃から意識するように心がけてみてください。
TOP画像/(c)Shutterstock.com