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2022.04.19

「選んだものを正解にしていく」建築家が思う仕事の面白さ〈連載 ザ・ターニングポイント〉

選択の多い女性の人生に、決断は欠かせないもの。各界の第一線で活躍する先人たちは、どんなターニングポイントを迎えてきたのか。教員としても活動する建築家の西川日満里さんにお話をうかがいました。〈第一線の女性たちもアラサーで「選んで」きた The Turning Point~私が「決断」したとき~〉

建築家 西川日満里さんインタビュー

最初から答えを決めずに、選んだものを正解にしていく。自分の考えが及ばないことが起こるほうが面白い

大学院を卒業後、25歳でアトリエ系設計事務所に就職しましたが、2年目に退職しています。大きなプロジェクトに携わるやりがいのある環境で、その分業務量も膨大でした。当時、大きな設計変更があった際、自分がこなせる仕事量を超えていることに気づきながらも、日々のやるべきことに流され、状況が悪化する前に行動できませんでした。キャパシティをオーバーし、体を壊すという経験をしたことで、働き方はすごく考えるようになりましたね。

27歳のときに1986年生まれの3人で建築設計事務所ツバメアーキテクツを共同設立しました。その後、29歳で高校の同級生と結婚して30歳で出産。当時は仕事ができなくなることに不安があり、出産日直前まで働いて、業務量を落とした上ですぐに復帰しています。

3人のうちひとりは学生時代の友人で、もうひとりは彼の同級生。もともと一緒にやろうと話していたわけではなく、あるプロジェクトを一緒に手がけたことをきっかけに、今日まで続けてこられています。家族のように距離感が近すぎると相手に対する配慮が薄まってしまいがちですが、お互いを否定せずに話を聞いて、尊重することができ、相談もしやすいちょうどいいバランス。各々違う人生を歩んできて、違う考え方があって、それが設計に反映されると面白くなるんだという実感があります。

私自身は「こうなりたい!」という強い目標があるというよりは、なんとなく「おばあちゃんになっても何かしら建築に携わっていきたい」というゆるい目標がありまして。今はすごく充実しているけれど、環境も人も変わるものなのでずっと同じ形で仕事を続けていくのは難しいだろうなと思っています。そうなったら、そのときどきで最適をみんなで話して決めていく。90歳まで建築に携わると考えれば、緩急ついた経歴でも問題ないのかなと。

あとは、教員として教える立場で建築に関わることで、考えや選択肢が広がっていると感じます。これもたまたま母校の恩師に街でばったり会って久しぶりに会話をしたことがきっかけ。学生たちと触れ合うと瑞々しい感性にハッとさせられますし、1、2年ですごく伸びていく姿にも励まされます。居場所がいくつかあるのはありがたいこと。立場にこだわらず必要とされたところに顔を出していけたらいいですね。

最初から答えを決めずに選んだものを正解にしていくところは、設計のスタイルにも通じる気がします。自分たちの考えが及ばないことが起こっていくほうが面白い。

2020年に下北沢の線路跡地に完成した「BONUS TRACK」の仕事では、中央の広場のつくりかたとの兼ね合いで植栽をどこまで取り入れていいか迷っていたら、クライアントの小田急電鉄さんが「もっと植えて雑木林をつくろう!」と背中を押してくださり、緑豊かで明るい空間ができました。建物だけでは入ってこないような方も、植物があると興味をもってくださる。お子さんからお年寄りまで多様な人が集まって気持ちのいい環境が生まれていると感じます。

また、敷地と公道など所有者が違うエリアの境界のつくりかたはいつも悩ましいのですが、関係する方々の尽力で同じ素材を使って町となじませることも実現。設計書だけでは解くことが難しいハードルを、一緒に考えて越えられたことに勇気づけられました。オープン後は、テナントさんや地域の方が、想像を超えた使い方を実践してくださっています。ひとりでは絶対にできないことで、事務所のメンバーやクライアントさん、工務店さんを含めたチームだからこそ見られた景色ですね。

今は担当授業があるので、週3日は夜6時まで仕事をして、学校に行って夜10時に家に帰ってくる… という生活。3時間立って授業をしていると、帰りの電車ではすっかり力尽きています(笑)。母親業としては、平日半分は保育園のお迎えに行けるように調整して、残り半分は夫が担当。一日の中で設計者、教員、お母さんと役割が変わると考えかたにも影響するため、悩みがあっても深刻になりすぎないでいられています。

家庭と両立するコツは、親子3人でずっといることを美化しすぎないことでしょうか。3人でいる時間はもちろん楽しいけれど、ひとりの時間も絶対必要。それに、娘と夫、娘と私というふたりの時間も大事。夫婦の役割も収入バランスも、人生の中でふたりで調整していけばいいし、家族はこうあるべき、という像にしばられなくてもいいのかなと。そう思えるのも、夫の協力が大きいですね。忙しくても家事は半分以上やってくれて、とても助けられています。

新しさや進歩だけが価値ではない。シンプルなことを美しいと思える設計を

30代半ばになり、建築家としては今後どういうものをつくっていこうかと迷うことも。そんなとき、ル・コルビュジエの本『建築をめざして』を読んでいたら、「しかし突然、私の心をとらえ、私によいことをしてくれ、私は幸福となり、これは美しいといったとしたら、これは建築である」という一文があって。その言葉に、数年前に設計した自宅で早朝に細い繊細な光が差しこむとき、この空間にいられてうれしいと感じることをふと思い出したんです。

光って、人の心に希望をもたらすもの。太陽光は365日多彩な表情を見せてくれます。同年代の活躍を見ると、自分が前に進めているのか不安になることももちろんありますが、難しく考えずに「シンプルなことを美しいと思えるような設計をする」と決めていれば、アウトプットのスタイルが確立していなくてもいいと思えるようになりました。

いつか携わってみたいのは、産後ケア施設です。出産直後は子供と触れ合う貴重な時期なのに、一気にやるべきことが押し寄せてくる。自分が疲労困憊で気が回らなかったことに後悔もあります。

核家族化して周りに頼れない女性が増えている中で、サポートされながら受け身で過ごせる心地よい場所があったらいいなと。仕事にまい進してきた女性でも、産んだ直後は一時期、動物に近い状態。そんなときに風や光に癒やされて、世界は美しいな、赤ちゃんってかわいいなと純粋に感じられるような空間をつくりたいですね。ホテルとも病院とも違う、まだ名前のない場所。建築にできることがあるのではないかなと思っています。

2021年Oggi9月号「The Turning Point〜私が『決断』したとき」より
撮影/石田祥平 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部

西川日満里(さいかわ・ひまり)

1986年、新潟県生まれ。TSUBAME ARCHITECTS(ツバメアーキテクツ)一級建築士事務所・代表。お茶の水女子大学生活科学部とのダブルスクールを経て、早稲田大学芸術学校建築設計科卒業。横浜国立大学大学院建築都市スクール/Y-GSA修了。建築設計事務所CAt(Coelacanth and Associates tokyo)勤務を経て、2013年より現職。建築やまちづくりのプロジェクトに携わりながら、早稲田大学芸術学校准教授としても従事。

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