マネジメント・リーダーの壁「マネージャーとかリーダーとか、何をして良いかわからない」
→究極的には自分がいなくても回る組織をつくること
ある日突然「あなたは今日からマネージャーです」と言われたら、戸惑うことだらけだと思います。今まで「部下」の立場でマネジャーを見てきたので、そこそこ身近だし、「このマネジャーひどいよな」とか「自分だったらこうするのにな」といった意見も持ってきたことでしょう。
しかし、いざ自分が着任となると、何から着手すればよいのだろうか、ちゃんとメンバーはついてきてくれるだろうか、チーム目標は達成できるだろうか、など考えることはたくさんあります。
それまでと立場が180度変わるので、もちろん簡単なことではありませんが、心構えとしては、こんな風に考えるのはいかがでしょうか。
「これまでの歴史上、日本だけでも数百万人とか数千万人のマネジャーがいたはずだ。そこまで特別な、難易度の高い仕事であるはずがない」
国内の会社の数は四百万社近く。上場企業だけでも社長は四千人近くいるのです。
そう考えると社長ですらこの数ですから、マネージャーであればなおさら数は多いです。すなわち特別な仕事ではなく、慣れれば誰でもやれる仕事なのです。
いかがでしょう? 気が楽になりませんか? マネージャーやリーダーの目標は、もちろんチームのビジネス目標を達成することです。と同時に配慮しなければならないことは、メンバーの育成です。
企業は刹那的にその瞬間(今週、今月、今四半期、今年度)の目標さえ達成できれば良いかというと、そうではありません。持続的成長が求められます。
したがって、今のメンバーを徹底的に働かせて搾り取ってでも目標を達成すればよいかというとそうではなく、同時に将来の成長への投資を行う必要があります。
こういう背景から、メンバーの育成がもうひとつの目標となるのです。
メンバーの育成と言われても、最近は「年上の部下」もザラだし、役割もバラバラ。中には自分の経験したことのない業務を担当しているメンバーもいます。
育成を考えるときの心構えとして、常に頭に描いている理想は「自分がいなくても回るチームを作る」という基準です。私はポジションに着任したその日から、後任となりうる人はどの人だろうか? という目でチームメンバーを見ることにしています。ここ10年ほどは、自分のチームが階層になることも多いのですが、自分の担当組織の中のマネージャー陣を任命するときは、後任の候補はだれだろうか、という視点も加えて考えるようにしています。
そしてマネージャーの役割をお願いしたメンバーには、同様に「ご自身の後任を常に頭の中にイメージしておいてください」と求めます。こうすることで常にメンバーや組織の成長を求めることができます。そしてその目標が達成された暁には、組織が大きくなったりお願いするべきポストが増えたり、自分のポストを後進に託し、自身がさらに飛躍する機会になるのです。
ともすると、部下の仕事に嫉妬したりライバル視したりしてしまうマネジャーもいます。中には手柄を奪うとか、わけわからない行動に出る人もいます。
そういう人は器が小さいだけではなく、組織の成長も阻害します。存在が問題、というマネージャーだけにはならないようにしたいですね。
「出藍の誉れ」という言葉がありますが、「自分を抜かしていけ」と言えるようになると、余裕が出てメンバーの良いところが見えるようになるものです。
結果的にビジネス目標まで達成して、自分自身まで飛躍していくという良循環構造ができあがります。
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著者 河野英太郎
1973年岐阜県生まれ。株式会社アイデミー取締役執行役員COO
株式会社Eight Arrows代表取締役。グロービス経営大学院客員准教授。
東京大学文学部卒業。同大学水泳部主将。グロービス経営大学院修了(MBA)。
電通、アクセンチュアを経て、2002年から2019年までの間、日本アイ・ビー・エムにてコンサルティングサービス、人事部門、専務補佐、若手育成部門長、AIソフトウェア営業部長などを歴任。2017年には複業として株式会社Eight Arrowsを創業し、代表取締役に。2019年、AI/DX/GX人材育成最大手の株式会社アイデミーに参画。現在、取締役執行役員COOを務める。
著書に『99%の人がしていないたった1%の仕事のコツ』『99%の人がしていないたった1%のリーダーのコツ』『99%の人がしていないたった1%のメンタルのコツ』(以上、ディスカヴァー)、『どうして僕たちは、あんな働き方をしていたんだろう?』(ダイヤモンド社)、『VUCA時代の仕事のキホン』(PHP研究所)、『現代語訳 学問のすすめ』(SBクリエイティブ)などがある。