ウイルスと菌の区別ってついてる?
2020年は新型コロナウイルスの影響で皆さん「ウイルス」について話をする機会が多かった年ではないでしょうか? その中で、うっかり「ウイルスという菌が手にひっついて…」とか「菌をまき散らして…」とか何となく「ウイルスと菌」の区別がつかないような発言をして、心の中で「おやっ? なんかおかしい?」と思ったことはありませんか。
今日はそんな「ウイルス」なのか「菌」なのかについて話そうと思います。
まず「ウイルスと菌」の共通点は、人の眼には見えないほど、小さな生き物ですので両方とも微生物といいます。
ウイルスと菌は何が違う? 大きさは?
では、ウイルスと菌で何が違うのでしょう? 最も簡単な違いは、大きさの違いです。大きさだけを比べると、細菌はウイルスの10-30倍くらい大きいのです。1mmの1億分の1の大きさとか、髪の毛の太さのとか色々な比較が出ていますが、細菌とウイルスの大きさの違いは、身長1mの子どもがウイルスだとしたら、身長10mの大人が細菌ということになります。
この10倍くらいの大きさ違いが大変な違いになるのです。テレビや雑誌は視聴者や読者に眼に見える形で伝えたいので、よく写真を提示しますよね。ところが、新型コロナウイルスの写真っていつも同じ提供元の、わかりにくい同じ写真が利用されています。
その理由は、ウイルスは普通の顕微鏡では眼に見える大きさにまで拡大できないので、細菌よりも写真に撮りにくいのです。電子顕微鏡でやっと眼に見える大きさにまで拡大できるんですが、電子顕微鏡は大がかりな装置で写真を撮るのも大変です。ちょうど、細菌とウイルスの10倍くらいの大きさの違いが、人間の発明してきた顕微鏡の限界当たりに位置しているのです。こうした大きさの違いから、人類は細菌を発見した随分と後になって、ウイルスの存在を知ることになるのです。
ウイルスと菌はどちらが先に生まれた?
それでは、細菌とウイルスではどちらが生き物として古いのか? 諸説あると思いますが、私は圧倒的にウイルスの方が古い生き物だと思います。「生き物?」と思われた人もいると思いますし、「そもそもウイルスは生き物ではない」という考え方もあるかもしれませんが、ウイルスは生き物です。
最も古い生き物という学説もちゃんとあります。とりわけ、2020年に猛威を振るった、新型コロナウイルスが分類されている「RNAウイルス」の先祖が地球上の最古の生命体であるという学説もあります。地球にやっと水ができた何億年も前に、初めての生命体が誕生してその生命体の特徴を引き継いでいるのが、新型コロナウイルスをはじめとした、RNAウイルスという考え方です。
生き物としては、おそらくウイルスの方が圧倒的に長い時間地球上には存在していたのですが、人類にとっては(特に現代人にとっては)、細菌の方が馴染みのある写真を多く見る機会があるので細菌の方が良く知られているし、理解しやすい。なので、「(ウイルスのことを)菌が手につく、菌をまき散らす」という表現にもつながるんだと思います。
難しい話はさておき、そもそも菌とウイルスは大きさが随分と違うからウイルスは見つけにくかった、ということです。日本式には「小よく大を制す」という精神でウイルスは生きているのかもしれません。
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国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長 増富健吉
1995年 金沢大学医学部卒業、2000年 医学博士。
2001年-2007年 ハーバード大学医学部Dana-Farber癌研究所。2007年より現職。
専門は、分子腫瘍学、RNA生物学および内科学。がん細胞の増殖と、コロナウイルスを含むRNAウイルスの増殖に共通の仕組みがあることを突き止めており、双方に効く治療薬の開発が可能かもしれないと考えている。
専門分野:分子腫瘍学、RNAウイルス学、RNAの生化学、内科学。
趣味:筋トレ