挑戦にともなう「失敗」は「失敗」にあらず。温かく迎え入れる心の余裕をもちましょう
“失敗は成功のもと”とはよく言うけれど、実際に失敗したら傷つくし、落ち込むし、他人に迷惑もかけてしまう。人間なのだからミスはあるとわかっているつもりだけれど、失敗は絶対に避けたい。
でも、そう考えれば考えるほど、大きな仕事の前は緊張してしまうし、対人関係でも気を使ってばかりで心身ともに疲弊してしまって。
このように、極端に失敗を避けようとすると、思わぬリスクもあると、名越先生はおっしゃいます。その真意とは?
名越さんが回答!
失敗を避けるための集中力と、面白そうなことや新しいことをやろうとするときに発揮される集中力って、反比例していると思うのです。「失敗したくない」が勝つと「楽しさ」がなくなってしまうというわけです。
私が世間を見る限り「楽しい」からこそ、「成功」も生まれます。つまり「楽しさ」と「成功」は相性がいいのです。
しかし、世間には「成功なんていらないから安心・安定が欲しい」という考えの人だっています。それは個々人の幸せに対する価値観の違いだから、何も悪いことはありません。
でも、失敗したくないという心の奥底に「本当は成功したいけど、失敗が怖くて前に進めない」という気持ちがある人ならば、自分は前述したつのタイプのどちらなのかを見極めることが大切になってきます。
失敗を避けてしまう人のリスクというのは、失敗しない代わりに、ほぼ言われたことしかやれなくなってしまうこと。そうすると、会社や上司に、ただ使われるだけの存在になる確率が高まります。
たとえば、ふだんから新しい挑戦をしたり、ユニークなアイディアを出したりする人がいたとします。もちろんそんな人でも失敗が続けば、評価を下げることは免れません。
しかし当人が研鑽を積んでしだいに失敗を回避できるようになってくれば、もう怖いものはありません。
ですからあまり縮こまらずに自分がどちらのタイプなのか、どちらの生き方を望むのか、週末に美味しいものでもいただきながら、じっくり考えてみてはいかがでしょうか。
その上で、単純ミスについては、「気をつける」よりも、運動と栄養摂取と深い睡眠を心がけてコンディションをアップさせたほうがいい結果が生まれます。
新しいことをしようとした際の失敗は、自分自身で多少は受け入れてあげてほしいと思うのです。そうしていれば、必要以上に失敗を恐れなくなるでしょう。
僕自身のことを言うと、失敗を見越した準備期間を設けることを常に意識しています。失敗って実はクリエイティブなものなんですよ。そこからいろいろな気づきがあるし、軌道修正しながら進むことで完成度も高くなります。
だから、失敗をスケジュールに組み込んで物事に取り組めば、いざ失敗にぶち当たっても対処の仕様があるというもの。失敗しないことにこだわりすぎて、身動きができない、なんてことにならないように。
2020年Oggi6月号「名越康文の奥の『ソロ』道」より
イラスト/浅妻健司 構成/宮田典子(HATSU)
再構成/Oggi.jp編集部
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名越康文(なこし・やすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など幅広く活躍中。著書に『SOLO TIME「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)ほか多数。