弁護士堀井亜生さんの恋と仕事のスッキリ法律相談 PART20
テレビで人気の弁護士・堀井亜生さん。人間関係トラブルに詳しい堀井さんが、ダメ男、ダメ上司など、Oggi世代の女性たちがハマってしまったトラブルをスッキリ解決する連載です。
第20回目は、西川杏子さん27歳、派遣社員(年収260万円)。
前回記事▶︎何かにつけ「海外では」が口癖の彼にうんざり… このまま結婚しても大丈夫?
◆酒癖が悪い夫… 子どもも欲しいけど、どうしたらいい?
2つ年上の夫の酒癖について相談します。銀行に務める夫とは友達の紹介で知り合いました。当時はとてもいい人で、子どもにも動物にも優しいところに惹かれました。私の両親も彼を気に入り、交際一年で結婚に至りました。夫は仕事が忙しく、毎日帰宅が遅かったのですが、ある夜泥酔して帰ってきて会社や上司の悪口をすごい勢いでまくし立てたのです。
それまではそんなことを言う人ではなかったので心配になったのですが、その日を境に泥酔して帰ってくることが増え、ある日家に帰ると、「会社を辞めた」と言うのです。事情を聞くと飲み会で上司に殴りかかろうとしてクビになったというのです。夫はそこから転職を繰り返すようになり、どの会社で働いても3ヶ月も経たずに辞めてしまいますし、酒量も増える一方です。
酔い潰れて最寄り駅で動けなくなり、私が迎えに行くこともあるし、タクシーの運転手さんと喧嘩して、私が家の前まで出て行って謝ることもあります。酔って転んで顔に目立つケガをすることもあります。財布やスマホを落とすことも数え切れません。お酒のトラブルで逮捕されたことはまだありませんが、警官に注意されたことは何度かあるようです。
酔うといつも記憶をなくして、酔った時のことを何も覚えていないと言うので、酔い潰れた様子を動画で撮影したり、言ったことや、したことをリアルタイムで夫のLINEに報告したりしています。そうしておくと、次の日に目が覚めた時に「これからは飲み過ぎないように気を付ける」と言ってくれます。
二人で専門の外来に行ったこともありますが、「こんなに大げさなことをしなくてもちゃんと酒は控えるから」と言われてそのまま行っていません。夫は途中ベンチャー企業に勤めたりもしましたが、今は小さな会社で経理をしています。親戚の紹介で採用されたので、今度こそ落ち着いて働いてくれるのではと思っています。
優しくて一緒にいて楽しい人で、家事も積極的に手伝ってくれます。きっといいパパになると思うので子どもも欲しいですが、お酒のことだけが心配です。お酒さえ飲まなければ本当にいい夫なので、いつかは治ると思って我慢した方がいいのでしょうか。お酒をやめてもらうとしたらどうしたらいいでしょうか。
◆堀井先生のアンサー
夫の酒癖に悩む妻の多くは、「お酒さえ飲まなければいい人」と言って離婚をためらいます。杏子さんもそのうちの一人だと思いますが、相談を見る限り、その考え方は間違っていると思います。夫は、「お酒さえ飲まなければいい人」なのではなく、お酒を飲んでいる時の姿が彼の本質なのです。
私が担当した離婚のケースで、やはり酒癖の悪い夫がいました。杏子さんの夫と同じように普段は優しい人でしたが、たまに飲むと手が付けられないほど泥酔して、暴れて留置場に入ることもありました。
なぜそんなに飲んでしまうのか、何か法則性があるのかを妻と一緒に調べてみたところ、仕事で行き詰まった時や失敗した時に歯止めが効かなくなって泥酔しているということがわかりました。優しい人なのは事実ですが、とても心の弱い人で、辛いことがあるたびにお酒に逃げてしまっていたのです。
このケースのように、酒癖が悪い人はお酒が大好きというわけではなく、心が弱くてその結果お酒に逃げているということがあります。杏子さんの夫も、金融機関の激務が辛かったとか、上司とうまく行っていなかったとか、そういったストレスを忘れたくてお酒を大量に飲むようになったのではないでしょうか。
「この世にお酒さえなければ」というのは、酒癖の悪い人に振り回される側がよく思うことですが、杏子さんの夫のような人は、もしこの世からお酒がなくなったとしても、女性やギャンブルなど、他のものに逃げて同じような問題を起こすのだと思います。お酒がなければまともな人になれるのではなく、彼の中に飲む原因があり、それが酒癖という形で表に出ているのです。
お酒をセーブすればよいという次元の話ではなく、禁酒が必要な状態だと思います。しかし、相談によると、杏子さんの夫は酔い潰れている時の動画を見せても「飲みすぎないように気を付ける」と言うだけで、禁酒するとは言っていません。また、禁酒外来に行ってもやめてしまったとのことなので、自分が物をなくしたりケガをしたりしてもなお、自分の酒癖が深刻なものだという自覚が全くないのでしょう。
本人に強い決意がなければ改善や治療は見込めません。いつ警察沙汰になってもおかしくない状態だと思いますし、年を取ってお酒が弱くなったら治ると思いがちですが、弱くなっても酒量は減らず、むしろ酔い方がさらに悪化していくと思った方がいいでしょう。いずれ、タクシーの運転手さんに謝るといった程度の尻拭いでは済まなくなると思われます。
お酒を飲まなければいい人で、家事もやってくれるから子どもが欲しいということですが、子どもができてからも夫のそういったトラブルに対処し続ける余裕があるかどうか、よく考えてみることをおすすめします。
取材/前川亜紀 イラスト/チカツネナオ
弁護士 堀井亜生
北海道出身、中央大学法学部卒。『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)ほか、各メディア、講演等で活躍。夫婦・男女問題に関するリアルな事例の紹介と解説が好評。著書に『ブラック彼氏 ~恋愛と結婚で失敗しない50のポイント~』(毎日新聞出版)がある。趣味は料理、ピアノ。一児の母。公式サイトはこちら