ウイルスマニアの“ウイルスコラム”シリーズ vol.3
vol.1:『「ウイルスを除菌してね」この日本語の間違いはどこ!? 実は使ってると赤っ恥… かも』
vol.2:『ウイルスは生物ですか? それとも… 非生物? あなたは即答できますか?』
新型コロナウイルスの影響で、自然とウイルスの話をするようになった昨今。ウイルスマニアの自分的には、ある意味苦しい毎日が続いています。
前回まではちょっと恥ずかしいウイルスへの誤解などについてご紹介してきましたが、今回は恥をかくでは済まない「抗生物質(抗菌薬)とウイルス」について、解説したいと思います。
抗生物質(抗菌薬)はウイルスには効かない!
このシリーズの第1回でもお話しましたが、世の中には「ウイルス=ばい菌(細菌)」という思い違いをしている人が、結構な割合で存在します。この誤解から起こるのが、日本語の誤用(ウイルスを“除菌”するとか)くらいであれば、かわいいものなのですが、実はもっと恐ろしいことがあります。
それは、抗生物質(抗菌薬)の乱用です。抗生物質は「細菌性の感染症」の治療に使われる薬です。抗生物質の標的となる細菌は、細胞膜を持っていて、抗生物質はこの膜を壊して細菌をやっつけるので、細菌にはばっちり効果があります。
ところがどっこい、ウイルスにはそもそも細胞膜自体がない。故に抗生物質の効き目はなく、ウイルスによる感染症(つまりほとんどの風邪)には、抗生物質は無効なのです。
にもかかわらず、風邪をひいて病院に行くと、抗生物質を処方されることがあります。抗生物質がウイルスをやっつけることができないのに、なぜなんでしょうか。
実はこれ、ウイルス性の風邪で弱った体に別の細菌が感染して病気が起こった時のための“予防的”な意味で処方されているのです。
先々を見越した安心感のある対処法に見えますが、そのように気安く抗生物質を飲み続けると、細菌が抗生物質に慣れてしまい、いざという時に抗生物質がまったく効かなくなったりします。それほどひどくない風邪の時は、出歩かずに栄養と休養をしっかりとって休むのが一番ですね。
恐ろし過ぎる「多剤耐性菌」とは?
また、複数の抗生物質が効かない細菌を「多剤耐性菌」と言います。これは大変恐ろしい菌で、今大変な社会問題になっています。
多剤耐性菌に感染してしまったら、現代の医療技術では打つ手立てがありません。私は3年程前に膀胱炎(膀胱にばい菌が入って炎症を起こし、排尿時に局部が死ぬほど痛くなる病気。悪化すると血尿や敗血症で死に至ることも…)で、もがき苦しんだことがあるのですが、その時は抗生物質を処方してもらい、1週間程で炎症が収まり、無事に復活することができました。
もし私の膀胱炎が多剤耐性菌によるもので、抗生物質が効かなかったら… 考えただけでゾッとします。
ちなみに! このような抗生物質の乱用を食い止めようということで、国立国際医療研究センターでは、「薬剤耐性あるある川柳」で啓蒙活動を行っています。ええ、ええ、かの「サラリーマン川柳」の二番煎じ的な企画ですね。
こちら、誰も知らない企画かと思いきや、毎年の応募総数は、なんと3,000句を超える年も(!) … 結構メジャーっぽいです。もし、今年も川柳募集が開催されるならば、私も応募してみたいと思います。
『耐性菌 ダッセー菌に 聞こえたよ』
結構イケてると思うのですが、いかがでしょうか。あ、イケてない? そうですか失礼いたしました…。
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いけのり
最先端のアストロバイオロジーを世界一緩く解説する『YouもMeも宇宙人』(地湧社)著者。一橋大学商学部卒業後、金融会社・楽天市場を経て独立し、オールジャンルでの執筆・編集業などで活動中。独り言サイト「いけのり通信」の更新がライフワーク。