ストーリー仕立てのお酒のかき氷〈新人作家のかき氷探訪記〉
小説『氷と蜜』の著者、佐久そるんです。
かき氷が題材の『氷と蜜』には、数多くのかき氷のお店と、それを食べ歩く愛好家の人たちが登場します。主人公は、かき氷を通して一人の友人と仲を深めてゆきます。小説は完結していますが、二人のその後の物語にときどき思いを馳せてしまいますね。
ご紹介するのは、幼なじみの女性お二人で営む『やまみちさき』さんです。
◆大阪府大阪市|やまみちさき
お二人の仲の良さはお客さんにも伝播して、お店はいつも和やかな雰囲気に包まれています。
いただいたのは、メロンのかき氷。赤肉系のメロンでしょうか。淡いオレンジ色のかき氷からは、なにやら音が聞こえています。ぱちぱちぱち。泡が弾けるような音です。
クリーミーなメロンソースに隠されていたのは、水分に反応して弾けるキャンディーでした。かき氷を食べ終わったあとも、口に残って弾けています。遊び心に、思わずにっこり。
かき氷のメニューが豊富ですが、こちらのお店は自然派ワインをいただける隠れ家的なワインバルなんですよ。やっぱりお酒をいただかないとね。グラス片手に、優雅な大人の時間を楽しみたいと思います。
そうですね、何にしましょうか。
白ワインと、それに日本酒を…… 使ったかき氷を!
やっぱりかき氷をたのんでしまいました。
このお店のかき氷の特徴は、お酒を使ったかき氷です。わたしはお酒をあまり飲まないので、アルコールを飛ばしているものをいただきました。メロンのかき氷のようにお酒を使っていないものもあれば、お酒を楽しみたい方のためにアルコールを飛ばしていないかき氷もありますよ。
選んだのは、実山椒を散りばめたかき氷です。
緑が目にやさしく、実山椒のフルーティーな味わいが口に広がります。ほうじ茶のシロップの奥には、香り豊かな柚子のジャムと胡麻をまぶしたもち米のお団子が。底には、酢橘と山椒のジュレが入っています。食べ進めるにつれ味が変化して、最後まで飽きさせない演出です。コンセプトはお茶屋さんだとか。
多層構造のかき氷は増えていますが、これほど色々な食材を使い、層を変化させているかき氷は珍しいと思います。
葡萄の一生を表した赤いかき氷は、バルサミコ酢やマデイラ酒を合わせたソースに始まり、コーヒーやアーモンド、ココナッツの層が続きます。杏子酒とミントにつけたパイナップル、底には葡萄ジュースのジュレ、まとめあげるのは赤ワインや梅酒のシロップです。
鹿児島発祥の白くまには、カシスリキュールやブランデーが使われ、小豆や抹茶、チョコやナッツ、ベリーの味をひとつにつないでいます。
それぞれのかき氷にコンセプトがあり、味の変化もすべてそこに帰結しています。まるで物語を読んでいるかのよう。氷にひそむ物語には、仲の良い店主二人の物語も見え隠れするのでしょうか。
ストーリー仕立てのかき氷。驚きの一杯を、どうぞめしあがれ。
【酒と氷 やまみちさき】
住所:大阪府大阪市福島区福島5-17-20 日乃出ビル1F
電話番号:080-3361-8993
お休み:火曜日
営業時間:平日14時~23時L.O.
土日12時~23時L.O.
※夏季営業時間です
佐久そるん
大阪生まれ、大阪育ち。5年ほど前から小説の執筆をはじめる。2019年『氷と蜜』が第1回日本おいしい小説大賞の最終候補に選ばれ、刊行に向け改稿をスタート。2020年6月、同作で作家デビュー。かき氷の魅力が詰まっていると『氷と蜜』は話題に!
甘いものに目がなく、まめに食べ歩く。パンケーキ、パフェと続いてここ3年はかき氷にハマっている。コロナ禍の自粛期間中は和洋菓子をお取り寄せしてお店を応援。現在は再開したかき氷店へ著書を持って行脚の日々。