ブルーライトが及ぼす影響と対策「光の発する色」と「人の体」のつながり〈後編〉
最新かつ省エネの光、LED。人類は、光の3原色の赤色LED、緑色LED、青色LEDを手にしたことで、コンピューターやスマホの画面に自由な色を表現できるようになりました。その中でも、青色LEDの放つブルーライト(青色の光)は、我々の体に多大な影響を及ぼしているのです。
私達は、毎日、「無意識のうちに見る」という行為を行っているわけですが、「見る」という行為は一体どういうことなのかを医学的に考えてみましょう。
「眼は脳の出店」という表現があります。これは、何を意味しているかというと「眼自体が脳なんだ!」ということです。そして、「見る」という行為は「眼から入る光を弱い弱い電流(刺激)におきかえてそのまま脳に伝えている」という事なのです。
「見るという行為は、眼で感じた光を脳に伝えること」なのです。もう想像できますか? 前回話した、青色LEDから放たれるブルーライトは、光の中でも、とりわけ、人間の眼から入り脳に伝わる刺激としては、「強い刺激」になるのです。
眼から入る刺激は、そのまま、脳への刺激となります。その昔、太陽光や月の光しかなかった時代は、人間の眼から入り脳に到達する刺激は、自然の光だけでした。「日が昇ることで目を覚まし活動し、日が沈むことで、眠りにつく」という、本来の生き物としての生活のリズム(「サーカディアンリズム」といいます)は、そもそもは、太陽や月の光が作ってきたのです。その刺激を人間は眼から入る光の情報として脳で感じ取り、サーカディアンリズムを形作ってきました。
現代社会を生きる私達は、太陽の光や月の光以外に、朝から寝る直前まで、スマホやコンピューター画面から放たれる、ブルーライトを浴び続けています。このブルーライトは、眼から「強い刺激」として脳に伝わり、我々のサーカディアンリズムを乱しているのです。若い人たちの多くが、「不眠」を訴えるといわれていますが、その原因の一つは、ブルーライトによるサーカディアンリズムの乱れによるものなのかもしれません。
サーカディアンリズムの乱れから引き起こされる不眠や生活リズムの乱れは、最終的には、様々な心身への悪影響をまねく可能性が示唆されています。また、ブルーライトが直接的に眼に悪さをするという論文もありますし、もっといえば、ブルーライトを皮膚に浴びることで、紫外線と同じように、皮膚の老化を促進するという論文もあります。
いずれにしても、いつもこのコラムでお伝えしているように、ヒトの健康の源は、食べること、眠ること、運動すること、です。このうちの一つである、「眠る」ことが乱れている一つの理由は、現代人が手にした文明の利器から放たれる「ブルーライト」によるのかもしれません。「眠りが浅い、眠れない」、という人は、まず「ブルーライトカットめがね」を試してみてはいかがでしょうか。手にはスマホ、眼にはブルーライトカットめがね、口にはマスク、が今後のファッションのトレンドになる時代がくるかもしれません。
TOP画像/(c)Shutterstock.com
国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長 増富健吉
1995年 金沢大学医学部卒業、2000年 医学博士。
2001年-2007年 ハーバード大学医学部Dana-Farber癌研究所。2007年より現職。
専門は、分子腫瘍学、RNA生物学および内科学。がん細胞の増殖と、コロナウイルスを含むRNAウイルスの増殖に共通の仕組みがあることを突き止めており、双方に効く治療薬の開発が可能かもしれないと考えている。
専門分野:分子腫瘍学、RNAウイルス学、RNAの生化学、内科学。
趣味:筋トレ