「猫も杓子も」とはどんな意味?
「猫も杓子も」と書いて「ねこもしゃくしも」と読みますが、その正しい意味について知っていますか? そもそも猫と杓子にはどんな関係があるのでしょう?
なんとなくわかっているつもりだけど、正確な意味がわからないという方は、この機会にしっかり覚えておきましょう。「猫も杓子も」の使い方から類義語、例文、英語表現などを順にご紹介していきます。
◆猫も杓子もの意味
「猫も杓子も」は、「誰も彼も」、「なにもかも」という意味を持ちます。肯定的にも否定的にも使える言葉です。否定的なニュアンスで使用する際は、「どいつもこいつも」、「なんでもかんでも」というような訳になりますね。
さて、“猫”は分かりますが、“杓子”の意味はわかりますか? 杓子とは、ご飯を盛る時に使う“しゃもじ”のことを指します。
今ではしゃもじと呼ぶのが一般的ですが、室町時代の宮中に使えた女房たちはしゃもじのことを杓子と呼んでいました。これを女房詞(にょうぼうことば)といい、今なお使われている単語として、「おでん(田楽)」、「おひや(水)」があります。
◆猫も杓子もの由来
「猫も杓子も」の語源については諸説あり、正しい学説は未だわかっていません。思わず納得してしまう学説から、こじつけじゃないの? と思える学説まで、4つの説があります。それぞれ解説していきましょう。
「一休咄(いっきゅうばなし)」説
1つ目の説は、とんち話で知られる「一休さん」の説話集『一休咄』(いっきゅうばなし)が起源になっているというもの。『一休咄』には、一休さんが残した伝説が記されています。
その中に、「生まれては死ぬるなりけりおしなべて釈迦も達磨も猫も杓子も」という一文が出てきます。わかりやすく説明すると、「釈迦も達磨も、誰しもが生を受けて死んでいく」という意味。
この時、「猫も杓子も」と使われたのは、語呂がよかったためで深い意味はないとされています。しかし、「猫も杓子も」だけが残り、今でも使われているという説です。
「禰宜も釈氏も(ねぎもしゃくしも)」説
禰宜(ねぎ)というのは神主、釈氏(しゃくし)というのはお釈迦様を指します。昔の日本の宗教といえば、神道と仏教のみでした。
したがって、「神に仕える者も仏に仕えるものも」といえば「誰も彼も」という意味になるという説です。「禰宜も釈氏も」という言葉は、滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』に用例があると言われています。
ちなみに1つ目に紹介した『一休咄』は1668年に刊行されたものであり、『南総里見八犬伝』は1814年から刊行されたもの。したがって、世に言葉が先に出たのは、『一休咄』だといえます。
「女子も弱子も(めこもじゃくしも)」説
女子(めこ)というのは女性、弱子(じゃくし)というのは子どものこと。つまり、「女も子どもも」という意味です。この説は、落語の『横丁の隠居』に出てくる話が起源。「女子も弱子も」を「猫も杓子も」と聞き間違え、聞き間違えた言葉の方が世間に広がったと考えられています。
「猫と主婦」説
この説では、杓子は主婦を表していると主張します。日常的にありふれているものとして、猫や主婦を挙げているとする説です。
正しい語源はわかっていませんが、あなたはどの説を支持しますか? そんなことを考えるのも楽しいですね。
猫も杓子もの正しい使い方は? 例文をご紹介
先述した通り、「猫も杓子も」は肯定的な文脈でも、否定的な文脈でも使うことができます。そのため、使い方には注意が必要です。それぞれ確認していきましょう。
1:「テスト前は猫も杓子も勉強に勤しんでいる」
こちらの例文では、「猫も杓子も」を肯定的に使っています。「テスト前は誰も彼もみんな勉強に勤しんでいる」と訳すことができますね。他にも「昨今の日本女性は、猫も杓子も美しい」などというように使うことができます。
2:「電車に乗ると、猫も杓子もスマホをいじっている」
こちらの例文では、「猫も杓子も」を否定的に使っています。「電車に乗ると、どいつもこいつもスマホをいじっている」と訳すことができますね。他にも「猫も杓子もダークトーンの服装ばかりで、街に彩がない」などというように使うことができます。
3:「テレビをつけると、猫も杓子もクイズ番組ばかりで退屈だ」
こちらの例文では、「なんでもかんでも」という意味で、人以外に対して使っています。他にも「最近の漫画は猫も杓子も転生ものばかりだ」などというように使うことができます。
猫も杓子もの類義語はどのようなものがある?
ここでは、「猫も杓子も」と同じ意味を持つ、類語をご紹介していきます。
「右を見ても左を見ても」
「右を見ても左を見ても」は、周りを見渡してみても同じ有様であることを意味します。「右を見ても左を見ても、スニーカーを履いている」などというように使いますよ。
「老若男女」(ろうにゃくなんにょ)
「老若男女」は、老人も若者も男も女も含むあらゆる人々のことを指します。「老若男女が一堂に会した」などというように使いますね。
「揃いも揃って」
「揃いも揃って」は、同類のものが集まっていることを呆れた気持ちでいう言葉です。そのため、多くは悪い意味で使われます。「揃いも揃って遅刻するなんて、言語道断だ」などというように使いますよ。
猫も杓子もを英語で表現するとこうなる
「猫も杓子も」は、「誰も彼も」という意味なので、英語で表現するなら「everybody」がふさわしいでしょう。「everybody」は「みんな」を指し、「everyone」よりもくだけた表現となります。そのため、「everybody」を使う相手は、面識があり、仲のいい人たちに限定したほうがいいですね。
最後に
「猫も杓子も」の意味や由来、使い方を説明してきましたが、いかがでしたか? 語源が未だにわかっていないというのは、興味深いですね。また、「猫も杓子も」は肯定的にも否定的にも使えるため、この言葉を使うときは、相手に誤解を与えないよう気をつけましょう。
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