教育現場から考える自分の心との向き合い方
仕事や家庭、プライベートから育児にいたるまで、日々寄せては返す波のように押し寄せる「ネガティブ感情」。
上司や同僚からの心ない発言、パートナーや子どもの予想外の行動などなど…。怒りや不満、嫌悪感や無力感、不安や寂しさといったネガティブ感情が湧き上がってくる機会は数知れず。その度に苦しい思いをさせられるこの感情は何とかできないものでしょうか。
それならば、「今後ネガティブ感情が湧かないようにしよう」と思ってもそれは無理な話です。なぜならネガティブ感情は必要があって存在しているからなんです。
■ネガティブになるのは、とっても自然なこと!
私たちの脳は、不利な状況や危機的な状況が訪れないように絶えず周りを見張っています。そしてもし、「このまま行くと大変なことになる!」と脳が感じると、すぐさまネガティブ感情が発動し、危険が近づいていることを知らせてくれます。いわば、ネガティブ感情は脳のリスク・マネージメント(危機管理)の産物(危険信号)なのです。
普通ならネガティブ感情が発動しても、その状況が好転したらネガティブ感情は自然と収まり、いつもの状態に戻ります。しかし、もしネガティブ感情の元となるストレス源がずっとそばにあると、ネガティブ感情は収まらず、身体は緊張状態のまま思考もひたすらネガティブ思考を繰り返し、ついには心身に不調をもたらしてしまいます。
■ネガティブ感情と上手に付き合う“魔法の言葉1”
では、どうしたらネガティブ感情を収めることができるのでしょうか。
もしストレス源から離れられるのであれば、物理的に離れるのが一番です。ストレス源が気にならなくなるところまで離れましょう。休憩をとって違う場所に移動したり、休みを取って気の合った仲間と旅行したりするのもおすすめです。
しかし、もしストレス源のそばから離れられない場合は、ネガティブ感情が発動しても、気にならなくなるように脳を鍛える必要があります。
そのための効果的な言葉が「まあ、いいか」です。
「まあ、いいか」と思うと、一瞬にして「あきらめ」がつきます。「あきらめる」と聞くと悪いことのように感じられますが、実は「あきらめる」には、本来、「明らめる」、すなわち「明らかにする」という意味が込められています。
「まあ、いいか」と口に出すことで、肩の力が抜け、視野を広げることができます。
「まあ、いいか」には、不利な状況やイラッとする相手の短所は全体の中の一部であることを「明らめて」、その状況を受け入れられるようにする力があります。
このように、「まあ、いいか」は、心の底からそう思えると、今の状況や相手を客観視できるようになる魔法の言葉なのです。
口に出せば、「まあ、こういうこともあるわよね」「この人も人間だし、よい面も悪い面もあって当然よね」と、不利な状況やイライラする相手を認めて受け入れられるようになるでしょう。
このように、「まあ、いいか」は、状況や相手のマイナス面が気になったときに気持ちを切り替えて、受け入れることに効果を発揮します。
■ネガティブ感情と上手に付き合う“魔法の言葉2”
また、他にも効果的な言葉として「きっと何か理由があるに違いない」という言葉があります。
現在、EQWELチャイルドアカデミーの研究ディレクターの兵庫教育大学の松村京子教授は、30年間近く、怒りをあらわにしたことがないそう。
その松村教授にネガティブ感情との上手な付き合い方を聞いたところ、ネガティブ感情が湧き上がってきたら、即座に「きっと何か理由があるに違いない」と思うようにしているとのこと。そうすると、頭が勝手にその理由を探し始め、理性的になっていくので、徐々にネガティブ感情が気にならなくなっていくのです。
脳のメカニズムでいえば、意識がネガティブ感情を感じる扁桃体から、理性や思考を司る前頭前野に移ります。理性(前頭前野)は感情(扁桃体)をコントロールできるので、ネガティブ感情に振り回される前に抑えられるのです。
今日からできる脳を鍛える方法
2つの言葉は効果的ですが、ネガティブ感情が出た後に使う対症療法的なものです。それよりももっと根本的に、この「ネガティブ感情」そのものを湧きにくくする予防的な方法もあります。
それは、寝る前に「よかったこと」を3つ思い出して書き出すという方法です。
ペンシルバニア大学の心理学者マーティン・セリグマン教授が行った実験で、うつ傾向の患者にこのワークを1週間してもらったところ、その後6ヵ月間にわたり幸福度が向上し、うつ傾向が改善されました。
■些細な出来事を思い出すだけでも効果的
心が健康な人でも、寝る前に「よかったこと」を思い出し、「ポジティブ感情」に浸ると、寝入りがよくなり、熟睡でき、目覚めもよく、翌日のパフォーマンスが上がるのです。
逆に、例えば寝る前にケンカをして仲直りもせず、「ネガティブ感情」のままで寝ると、寝入りが悪く、夜中も時々起きて熟睡できず、目覚めも悪く、翌日のパフォーマンスが下がります。
このように寝る前の意識は、翌日をよい一日にするための重要なポイントとなります。
「よかったこと」の内容は、「道ばたに咲いている花がきれいだった」「無事一日を終えられた」など、些細なことでいいのです。また、慣れてきたら、書き出さずに思い出すだけでも大丈夫。
この「よかったこと」ワークを続けていくと、徐々に物事のよい面に意識が向くようになり、悪い面が気にならなくなってきます。例え「ネガティブ感情」が湧き出ても、すぐに良い面に気づき、「ネガティブ感情」が気にならなくなります。そして、いつも心穏やかに平常心を保ち、物事に対して冷静に対処できるようになっていくのです。
今回は、
・ストレス源から離れる
・「まあ、いいか」
・「きっと何か理由があるに違いない」
・「よかったこと」ワーク
といった「ネガティブ感情」と上手に付き合うための方法を4つ紹介しましたが、これらを活用してEQ力を高め、日々をいきいきと送っていただければ嬉しく思います。
EQ力とは、IQや学力などの数値では測れない能力のことで、特に私が携わるEQWELチャイルドアカデミーの卒業生で活躍している子どもたちに共通する人間力を指します。EQWELチャイルドアカデミーでは、幼少期より育みたい5つのEQ力として「自己肯定感」「やる気」「共感力」「自制心」「やり抜く力」を挙げています。
子どもの未来が輝く「EQ力」(浦谷裕樹/プレジデント社)
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浦谷裕樹
EQWELチャイルドアカデミー 新未来教育科学研究所 主席研究員
工学博士・理学修士
京都大学理学部卒業後、教育分野における能力開発に従事。専門学校講師、文部科学省委託プロジェクトメンバー等を歴任。2010年より現株式会社EQWEL転籍。以降、教育内容の研究開発に従事するかたわら、大阪工業大学大学院で研究活動を行い、同大学院より工学博士(生体医工学)授与。企業、学校、各種団体など大人向けへの指導・講演にも力を入れ、これまでの受講者数は1万人以上。EQにまつわる書籍も出版。