女の子といえばピンク!を素直に言えなかった幼少期…
戦隊モノの女性キャラはピンクが定番なように(最近ではイエローも女性キャラになりつつあるようですが)、「女の子といえばピンク! 女の子はピンクが好き!」という図式は古くから続く傾向。
狩猟採取時代、女性は主に木ノ実を採取する仕事を担っており、熟した赤やピンクの実を瞬時に見極める必要があったため、潜在的に赤やピンクに目がいき、その流れで好むようになったという説もあります。
これだけ脈々と引き継がれた<ピンク好き>という遺伝子ですが、中にはピンクをあえて避けて生きている女性の存在があるんです。かくいう私もその一人でした。
確か幼稚園児のころ、初めてのピアノ発表会を前に、両親と発表会で着るドレスを選びにデパートへ行きました。
母親はピンクのフリフリのアイドルが着るようなミニドレスを手に持ち、片や父親は、渋い濃紫のまるで熟練演歌歌手が着るようなロングドレスを手にしていました。
そして園児である私に聞くのです。「さぁ、どっちがいい?」と。子ども心ながら濃紫のロングドレスはないだろうと思いました。
しかし私はぼそっとこう答えたのです。
「紫のやつがいい」。
すると父親は母親に向かい「な、わかったか」と得意げに喜んでいました。
これでいいのです。我が家はこれで丸く収まることを幼心に知っていました。そう、家庭内のパワーバランスを察知し、園児が空気を読みピンクのドレスを捨てたのです。
本当はピンクが好きだったのに…こじれたまま大人になっていく
以来私は、ピンクが嫌いな少女として育てられました。
例えばサンリオショップに行きグッズを買う際にも、マイメロディではなく、けろけろけろっぴが与えられていたのです。
本音を言えば、マイメロディが好きでした。しかしそれを言うとなんとなく色気付いたような、媚びたような印象を周囲に与えてしまうような気がして言いづらかったのです。
ピンクのキャラクターを好きだと思うこと=恥ずべき行動だと感じていました。そして甘んじて、けろけろけろっぴ好きというキャラクターを受け入れたのです。
そしてピンクが嫌いなのであれば、長い髪も苦手であろうと髪は常にショートカットもしくはボブヘアになり、また部活動をする際にも、テニス部といった女を感じさせる部活は避け、結局は吹奏楽部に入ったのですが、そこでの楽器選択の際にも本当はフルートやクラリネットがいいなと思っても、私が口について出た言葉は「トランペットがいいです」となるわけです。
一事が万事、このような思春期を送るとどうなるか。
ピンクを持ちたいのに持てない、女性らしいものに憧れるけどそれが満たされない、そんな気持ちが一周すると、次第にピンクという色の持つ「可愛い」とか「モテる」、そこから転じ女性らしいもの全てに対して批判、大げさにいえば憎悪する気持ちが芽生えていったのです。
こうして私の面倒臭い性格が育まれていきました。
憎悪さえ抱いていたピンクを持ってみたら?
そんな自分の問題点にある日気づいたとき、ふと「ピンクを持ってみよう」と思い立ったのです。
まずはピンクのペン、ピンクの歯ブラシといった比較的持ちやすい小物から始め、次第に携帯電話を買い換えるときはピンクに機種変なんて離れ業も決められるようになり、そして今ではピンクのニットやピンクのワンピースといった、昔では考えられない高難易度のピンクアイテムを持つことになんの躊躇もない私、という自我を獲得するに至りました。そしてそれに伴い、心境に変化が起こったのです。
バレンタインデーには男性に義理チョコをあげちゃうなんていう、女性らしい言動を見聞きしても、腹に一物を抱えて眺めることもなくなり、素直に「素敵なコミュニケーションだな」と優しい視点で捉えられるようになりました。
さてさて、では一体なぜこのような心境の変化が起こるのでしょうか。
色彩心理学的にいえば、ピンクという色は女性ホルモンの分泌を促す色とされ、また筋肉の緊張を緩和する癒しの効果もあるとされています。このような効果のある色を長年避け続けたとあれば、それはそれは剣のある表情にもなりますし、また周囲の幸せを喜べない屈折した人間性が出来上がるってものです。
あなたの周りにもいませんか? ピンクを過剰に避けている険しい顔をした女性は。
そしてあなた自身は大丈夫でしょうか。単に好みとしてピンクを避けているならばいざ知らず、深層心理ではピンクを求めているのに表層的にはピンクを憎んでしまう、あなたがそんな状態だとしたら肩の力を抜いて試しにピンクを持ってみてください。少なからず私にとっては効果絶大なこじらせからのリハビリ方法でしたよ。是非ともお試しあれ。
初出:しごとなでしこ
吉田奈美 writer
女性誌を中心に、タレントインタビュー、恋愛企画、読み物企画、旅企画、料理企画などを担当。著書に『恋愛saiban傍聴記』(主婦の友社)も話題に。