会社員/サウナプロデューサー・川田直樹さんインタビュー

《Profile》かわた・なおき/1984年、奈良県生まれ。大阪公立大学工業高等専門学校卒業後、コクヨグループに入社。法人オフィスの設計・施工管理に携わり、29歳で一級建築士の資格を取得、当時最年少マネージャーに。社長室長を経て、現在はコクヨで人材組織開発を担う。祖父の影響で幼少期からサウナに通い、愛好歴は35年以上。社内サウナ部の創設をきっかけに、2019年に企業横断コミュニティ「JAPAN SAUNA-BU ALLIANCE」を設立。会社員でありながら、個人でサウナ施設のプロデュースやフィンランドサウナアンバサダーも務め、国内外への発信も行う。著書に『シン・サウナ』(KADOKAWA)、『ととのえる。』(ダイヤモンド社)。
会社員でも、自分をしまい込む必要はない。「好き」は、人との壁に扉を開けてくれる
18歳までは空手一筋で、完全な「個人技」の世界にいました。そんな僕がコクヨグループに入社し、オフィスの設計者として数多くの現場を担当。26歳で大阪から東京へ転勤となり、29歳で初めてマネージャー職を任されるなかで、チームや組織で何かを成し遂げていく面白さに衝撃を受けたんです。若手のころは特に、出世願望はなく、目の前の仕事が面白くてひたむきに取り組んでいたら、成果が後からついてきた感覚でしたね。上司には「川田がいると、周りが仕事を楽しく前向きにやっていく」と言われました。特別なスキルというより、人を巻き込み、場の熱量を上げる役割を期待してくれたのだと思います。
東京に来て最初に苦労したのは、コミュニケーションの違いでした。大阪では阿あ吽うんの呼吸でやれていたけれど、東京のオフィスはワンフロアに千人くらいいる。地元も世代も経験値もバラバラな、変数の多い環境。すぐ近くの席にいる人からメールで連絡が来て、「え、この距離で!?」と驚いたこともあります(笑)。人によってパーソナルスペースやガードの置き方が違って、自分を受け入れてもらいたいなら、相手を許容することが必要だと学びましたね。
マネージャーとしてぶつかったのは、チームビルディングの難しさです。ある案件で50代の男性と20代の女性がペアになった際、ベテランは「伝えた」と言い、若手は「親ほど年上で聞けない」と、お互い心を閉ざしてしまって。結果、連携ミスが続いてお客様に迷惑がかかる寸前までいきました。僕が間に入ればその場は回せますが、それでは自走する組織にならない。突破口を探していたとき、その先輩のスマホにジャマイカのステッカーが貼ってあるのを見つけました。聞くと、レゲエが大好きだという。そこでチームみんなで、先輩の行きつけのレゲエバーに行ってみたんです。すると、会社とは全然違う、イキイキと話す先輩の姿がありました。翌日から、先輩と若手の距離はぐっと縮まって、会社での〝A面〟だけでなく、素の顔である〝B面〟が見えることで、人はこんなにも開かれるんだなと。人と人の間の壁を、思いがけず越えられた出来事でした。

一方で当時の僕自身はというと、自分でも案件を抱えながら、メンバーのトラブルが起きれば謝罪やフォローに奔走する日々。建築現場の鉄則は「段取り八分」で、オフィスの空間づくりもまさに。工程が少しでもずれると、職人さんや資材の搬入を待たせることになります。だれかのミスであっても、「仕組みで防げなかった」自分へのモヤモヤで負の連鎖に入っていく。
頭がパンパンになった僕を支えてくれたのが、サウナやお風呂でした。「今日はもうサイアクだ…」という日も、近所の銭湯に駆け込めば、出てくるころには肩の力や表情のこわばりもふわっと軽くなって、「まぁ、いっか」と自分を許せる。一度リセットできているから、翌日メンバーと接するときも「起きてしまったことだから、どうリカバリーするか考えよう」と切り替えられるんです。人はだれでも乱れる。だからこそ、本来の自分に戻せる習慣をもつことが大切だと、身をもって気づかされました。
〝B面で人が開かれる面白さ〟と〝自分を再起動する習慣〟。このふたつの実感が、社内サウナ部の始まりにもつながりました。少し距離を感じていた若手メンバーを行きつけのサウナに誘ったところ、館内着で話すうちに、少しずつ自己開示してくれたんです。翌日、オフィスでの表情も明るくなっていて、たった数時間でこんなに関係が変わるのかと。そこから、純粋な好奇心で社内のサウナ部を立ち上げました。
企業横断のサウナコミュニティも、最初から大きな計画があったわけではありません。JALの方から「自社にもサウナクラブをつくりたいので、相談に乗ってほしい」と声をかけていただき、会議室に行くと7社のメンバーが集まっていました。
異業種で普通に名刺交換をしても話は続かないものですが、「どこのサウナが好きなんですか」と聞くと、全員で大盛り上がり(笑)。「好き」という気持ちの前では、社名も役職も関係なくフラットに仲間になれて、相手の会社にも興味が湧く。その面白さから始まったのが、JALとコクヨが共同代表を務める企業横断コミュニティ「JAPAN SAUNA–BU ALLIANCE(サウナ部アライアンス)」です。2019年に7社で始動し、現在では約240社規模に。企業の垣根を越えて一緒にサウナに入り、さまざまなコラボの種も生まれています。

サウナで出会った方とのご縁で、個人としてサウナ施設のプロデュースや監修の機会をいただき、そこからコクヨとしての仕事に発展したこともあります。社内の部活からはライフスタイルブランド『SAUNA BU』が誕生し、水や汗に強いノートやペンなど、サウナ好きならではの商品化にも結実しました。
会社の仕事と個人のライフワークをきれいに分けなくても、片方で生まれた気づきや出会いが、もう片方にも還っていく。人から相談を受けたときに「僕にできることある?」と聞くのも、サウナで出会った尊敬する経営者の方からもらった「恩返しより、恩配りして」という言葉が、自分の中に根づいているから。いただいたものを、また次のだれかへと渡していく。そんな〝循環〟を意識しています。
経営と現場をつなぎ、リブランディングにも携わった社長室での5年を経て、現在は再び事業部へ戻り、組織や人の成長を支える役割を担っています。最近は、僕のサウナ活動やSNSをきっかけに、社風に興味をもって入社してくれた若手もいます。自分の「好き」が、巡り巡って未来の力になっている。会社員だからといって、自分らしさをしまい込む必要はないのだと実感します。それは家庭にも通じていて、妻も音楽が大好きで毎日ギターを弾いているので、一緒に何かする時間は限られていても、会話が充実する。相手の「好き」を尊重できる関係が心地いいんですよね。
勤続20年、ひとつの会社に長くいることの資産は、失敗続きで余裕がなかった20代から自分を育て、一緒に戦ってくれた上司や仲間の存在。その歴史があるからこそ今の成長があるし、つい驕おごりが出そうなときも初心に返れるんですよね。そして、ここから目指したいのは「ご機嫌に働く人」を増やすこと。無理に明るく乗り切るのではなく、自分という土壌を日々耕し、水をあげる。まず自分を整えることで余白が生まれ、人にも、仕事にも、社会にも、自然といいものが返せる。そんな環境をつくっていけたらと思います。
仕事も人生も軽やかに! 新刊『ととのえる。 超忙しくてもいつもご機嫌な人の習慣術』

やるべきことに追われる毎日でも、仕事で成果を出して、自分の時間や人とのつながりも大切にしたい! そんな忙しい日々を送る人へ、体、時間、環境、思考、心、人間関係、人生という7つの視点から、自分のコンディションを整える方法を紹介する。本業とライフワークを両立してきた川田さんならではの、無理せず前向きに働くためのヒントが詰まっている。¥1,870/ダイヤモンド社
2026年Oggi9月号「The Turning Point~私が『決断』したとき~」より
撮影/石田祥平 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部
Oggi編集部
「Oggi」は1992年(平成4年)8月、「グローバルキャリアのライフスタイル・ファッション誌」として小学館より創刊。現在は、ファッション・美容からビジネス&ライフスタイルテーマまで、ワーキングウーマンの役に立つあらゆるトピックを扱う。ファッションのテイストはシンプルなアイテムをベースにした、仕事の場にふさわしい知性と品格のあるスタイルが提案が得意。WEBメディアでも、アラサー世代のキャリアアップや仕事での自己実現、おしゃれ、美容、知識、健康、結婚と幅広いテーマを取材し、「今日(=Oggi)」をよりおしゃれに美しく輝くための、リアルで質の高いコンテンツを発信中。
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