投資について教えてくれるのは…

保険・金融コンサルタント 我妻佳祐さん
わがつま・けいすけ/ミニマル金融研究所代表。1981年生まれ。京都大学大学院修士課程を経て金融庁に入庁。保険、証券など金融行政に幅広く関わる。’14年京都大学大学院で博士号を取得し’19年に金融庁を退官。コンサルティング会社などを経て独立。著書に『金融地獄を生き抜け 世界一簡単なお金リテラシーこれだけ』(幻冬舎)。
焦って投資する必要はある!? 冷静に考えてみたら…
Oggi編集部(以下Oggi):「NISA貧乏」って… 投資にお金を回しすぎて、生活に困る若者が増えている、という話ですよね?
我妻さん(以下敬称略):インパクトのある言葉ですよね。私も気になって調べてみたんです。20代が毎月自由に使えるお金が減っている一方、投資額が増えているという、とある調査がネタ元のようですが、預貯金額も同時に増加していて、ことさらに問題視するほどの現象ではなさそうでした。
Oggi:一部の極端な例が取り上げられたのかもしれないですね。
我妻:ただ、「投資すべき」とプレッシャーを感じている人は増えていると感じます。2014年にNISA(少額投資非課税制度)、’24年からは新NISAが開始。金融経済教育推進機構の「金融リテラシー調査2025」によると、株式や投資信託、外貨預金・外貨MMFのいずれかを購入したことがある30代は’25年で41.6%、年々増えています。モノが値上がりするインフレ時代は、銀行預金があっても実質的に目減りしますから。
Oggi:一方で、Oggi世代は趣味や勉強、旅などで〝自分に投資〟することも大事だと聞きます。多少無理してでも、老後資金として金融商品に投資すべきなのか…。
我妻:結論から言うと、老後資金の準備は40代からでも間に合います。計算すると、たとえば40歳で300万円を一括投資し、その後は月1万円ずつ積立投資すれば、現在の利率水準なら70歳までの30年間で、元本660万円が3000万円以上に(年間リターン7%・年間リスク15%で計算)。期待値としては〝老後2000万円問題〟もクリア。最初にまとまった金額を投資できなくても、月3万円ずつ30年で、やはり3000万円以上になることが期待できます。
Oggi:そんなに!?
我妻:もちろんリスクはありますが、私の手元のシミュレーションでは、元本割れの可能性は3%未満です。大前提として、日本はなんだかんだ言って年功序列。30代後半~40代になるまで賃金がさして上がらず、投資する余裕がなくて当然です。ちなみに私は国家公務員でしたが、35歳で貯蓄は100万円程度、投資もせず(苦笑)。
Oggi:それこそ、自分に投資していたんですか?
我妻:趣味で大型バイクに乗っていました。30歳くらいのとき、北海道一周ツーリングをしたのは、人生の中でもいちばん楽しかった旅のひとつ。今、同じことをしようとしたら、家庭の事情や体力的にしんどいんです。おじさんのお節介かもしれないけれど(笑)、〝若いときにしかできないこと〟を投資のためにあきらめるのはもったいないと思いますね。もちろん長期投資のメリットは大きいので、若いうちから毎月の貯蓄や財形貯蓄感覚で、月5000円や1万円を積立運用できるなら◎。でも真面目に働いて派手に浪費しなければ、無理に捻出しなくても「貯蓄が少しずつ増えてきたな」というタイミングがあるはず。それに、ひとり暮らしの生活費を1とすると、ふたり暮らしは1.58倍の計算になるんです。ライフスタイルの変化でもお金のゆとりはできます。そこから投資を始めても遅くないですよ。
そもそも「NISA貧乏」って言葉はどこから出てきたの…!?

話題になったのは今年3月10日、衆議院財務金融委員会で国民民主党の田中 健議員が、片山さつき財務大臣に「NISA貧乏という言葉、お聞きになったことはありますでしょうか?」と質問し、メディアで大々的に取り上げられたのがきっかけ。片山大臣は「ちょっとショックを受けたところです」と語りつつ、金融教育の重要性を訴えた。
真の目的は老後資金にあらず。日本がもっと元気になるには
Oggi:NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)はなぜ始まったんですか?「公的年金は当てにしないで、自分で増やしてね」という国からのメッセージ?
我妻:そういう側面もありますが、国としてはどちらかというと、日本経済を活性化させるため。お金は〝経済活動の血液〟とも呼ばれ、社会の中を流れることが大事。NISAの本来の目的は、各家庭が銀行に貯め込むのではなく投資することで、お金が動きやすくなり、新たな産業が生まれたり、日本の国力が盛り返したりすることです。
Oggi:そんな背景が…。
我妻:実はすでに2001年、小泉純一郎内閣が「貯蓄から投資へ」というスローガンを打ち出していたんですよ。その後、証券税制が段階的に変わって、NISAが誕生。’22 年に岸田文雄内閣が主導した「資産所得倍増プラン」は新NISAへとつながりました。銀行預金、株、保険、不動産などの資産から生まれる所得、つまり利子や配当金などを倍に増やすことを目指す計画です。’01 年に一部の人を対象に始まっていたiDeCoも、’17 年にほぼ全国民が対象となり、利用者が急増したんです。
2014年にスタートしたNISA。「新NISA」で人気に拍車が!

NISAは2014年にスタートした少額投資非課税制度。通常約20%の税金がかかる運用益が非課税になる。2024年には〝新NISA〟制度が始まり、投資信託に積立投資する〝つみたて投資枠〟(年間投資枠120万円)と、上場株式や投資信託などに投資する〝成長投資枠〟(同・240万円)が併用できるように。非課税保有限度額は1800万円。
あやしい投資話に飛びつかず地道に積み立てればOK
Oggi:いざ投資をするとして、何を買えばよいですか?
我妻:初心者は、つみたてNISA対象の〝全世界株のインデックス投資信託〟一択! 市場に連動して値動きするインデックス投資信託を使えば、個人では難しい数百〜数千もの銘柄に分散投資してくれます。元本割れのリスクはありますが、世界経済は長期的に見れば右肩上がりに成長してきています。こだわりがなければ特定の国や地域に限定せず、インフレにも対応できる〝全世界株〟の投資信託に。つみたてNISAなら、販売手数料ゼロ、運用を委託する費用〝信託報酬〟も一定の水準以下の銘柄が選ばれているので、コストも抑えられます。つみたてNISAの中で検索すると、おのずと銘柄は絞られるので、どれを選んでも問題ありません。
Oggi:長期運用するといいんですよね?
我妻:はい、ほったらかしにすることが大事。経済成長に伴う値上がりだけではなく、〝複利効果〟がとてつもなく重要なので。運用益がそのまま、同じ投資信託の元本に組み込まれる複利だと、利益が雪だるま式に増えていきます。逆に運用益が一定期間ごとに分配される〝分配型〟は長期運用のうまみが得られないのでNG。
Oggi:iDeCoも同じ要領でやったほうがいいですか?
我妻:ぜひ! 運用益が確定して初めて非課税の恩恵が受けられるNISAに対し、iDeCoはとりあえずやっておけば、毎年の所得を圧縮して納める税金を減らすことができます。60歳まで引き出せないというデメリットはありますが。なお今年12月からは、会社員の掛け金の上限は月額6万2000円に、自営業者(フリーランス)は月額7万5000円に引き上げられます。NISAとiDeCoを合わせれば、それで老後資金は十分間に合うという人がほとんどなのでは?
Oggi:個別の企業の株はどうでしょう?
我妻:個別株や資産運用のプロが投資対象を決定する〝アクティブ投資信託〟は、趣味の領域。損する可能性を承知のうえで、スリルも味わいながら儲かればラッキー、という感覚。仮想通貨やFXはギャンブル性がとても高いので、軽い気持ちで手を出してはダメ。また、SNSや知人など、向こうから寄ってきてお金を集める儲け話は、詐欺や悪質なものである可能性がとても高いです。くれぐれも騙されないよう、疑ってかかって。
Oggi:金や不動産、ハイブランドのバッグやジュエリーは?
我妻:金はそのもの自体が成長したりお金を生み出すわけではないので、あくまでも分散投資の一部に。不動産は物件の目利きが難しいので、興味があれば、最初は不動産投資信託(REIT)から始めてみては。ブランド品は資産運用の対象とは言い難いですが… 万が一、全額なくなっても困らない程度の金額で、手元のお金で買えるなら、値上がりに期待しながら楽しんで使うのがいいんじゃないでしょうか。投資制度の背景を知って、視野がちょっと広がりました。
我妻:健全な投資が広まって経済が活性化したら、もっと暮らしやすい未来につながるかもしれない。そんなことも頭の片隅に入れつつ、投資に向き合ってみてください。
結局、何に投資するのが賢いの?
初心者はコレ一択!
・インデックス投資信託(全世界株)
〝趣味〟としての投資ならあり
・個別株
・不動産投資
・債券
・アクティブ投資信託
ギャンブル性が高い〝投機〟には要注意!!
・株式のデイトレード
・FX
・仮想通貨
FIREするのはソンな生き方!? 複利の効果は…

「単利」は最初の元本に対してのみ利子がつき、「複利」は元本に加えて、それまでの利子も新たな元本に組み入れて再投資する仕組み。利子が利子を生み、長期運用するほど効果絶大に。早期リタイアして運用益で生活する〝FIRE〟は、つまり利子を再投資せず生活費に回すということ。複利効果をみすみす逃すのは、もったいないかも…!
覚えておきたいキーワード
1. インフレ
日本では物価や賃金が下落・停滞するデフレが長く続いたが、’22年にインフレに転換。モノやサービスの価格変動を示す消費者物価指数は、’20年を100とすると’26年4月は113.0。前年同月比で1.4%上昇した。
2. シミュレーション


資産運用の見通しを自分で計算するのは大変だけれど、積立額や運用期間を入力すると将来的な見込み額を予測してくれるサービスを、金融庁や金融各社が展開。「三菱UFJアセットマネジメントのシミュレーター(写真)はリスクまで設定できて親切。運用成績が多少ブレても長期的には元本割れの確率が低いとわかれば、投資に踏み切りやすいかも」(我妻さん)
3. iDeCo
自分で掛け金を積み立てて運用する私的年金制度。原則60歳まで引き出せない。掛け金は全額、所得控除の対象になり、仮に毎月の掛け金が1万円で所得税10%・住民税10%なら、年間2.4万円、税金が軽減される。
4. 国力
国の力を示す指標のひとつ、GDP(国内総生産)はかつてはアメリカに次いで世界第2位だったが、’25年は中国、ドイツに次いで4位(USドルベース)。今後、インドや英国に追い抜かれる見通しになっている。
2026年Oggi8月号「Oggi大学」より
イラスト/八重樫王明 成/酒井亜希子(スタッフ・オン)
再構成/Oggi.jp編集部
Oggi編集部
「Oggi」は1992年(平成4年)8月、「グローバルキャリアのライフスタイル・ファッション誌」として小学館より創刊。現在は、ファッション・美容からビジネス&ライフスタイルテーマまで、ワーキングウーマンの役に立つあらゆるトピックを扱う。ファッションのテイストはシンプルなアイテムをベースにした、仕事の場にふさわしい知性と品格のあるスタイルが提案が得意。WEBメディアでも、アラサー世代のキャリアアップや仕事での自己実現、おしゃれ、美容、知識、健康、結婚と幅広いテーマを取材し、「今日(=Oggi)」をよりおしゃれに美しく輝くための、リアルで質の高いコンテンツを発信中。
Oggi.jp



