日常生活の中で、私たちはさまざまな選択をしています。どんな商品を買うか、どのような方法で通勤するか… 毎日の小さな選択でも、その背後には「どれだけ多くの人にいい影響を与えているか?」という考え方が隠れていることがあります。
そんなときに知っておきたいのが、「功利主義」という哲学。功利主義は、私たちの行動が社会全体にどのような影響を与えるかを考える視点を提供してくれます。この記事では、「功利主義」の意味や、トロッコ問題、メリット・デメリットまでを紹介します。
功利主義とは? 知っておくべき基本概念
そもそも「功利主義」とは、どういうものなのでしょうか? ここでは、基本的な意味や提唱者について紹介します。
功利主義の意味
功利主義は、18世紀末から19世紀初頭にかけて、イギリスで発展した倫理思想です。基本的な考え方は「最大多数の最大幸福を追求する」というもの。功利主義では、どんな行動でも、その結果として多くの人が幸福になるのであれば、その行動は倫理的に正しいとされます。
功利主義の特徴は、結果を重視する点。つまり、どれだけ多くの人々に利益をもたらすかが判断基準となります。
功利主義の二大巨頭|ベンサムとミル
功利主義の歴史において、ジェレミー・ベンサムとジョン・スチュアート・ミルの二人は欠かせない存在です。ベンサムは、功利主義の基礎を築いた思想家です。「最大多数の最大幸福」というフレーズを掲げました。
ベンサムは、すべての行動が人々の幸福を増大させるかどうかで善悪を判断すべきだと主張しました。ベンサムの考えは、当時の政治や立法において大きな影響を与え、中産階級の権利拡大を促進したのです。
一方、ミルはベンサムの思想をさらに発展させ、功利主義をより深く、かつ人間的なものへと昇華させました。ミルは、幸福には「質」の違いがあるとし、「満足した豚であるよりも、不満足なソクラテスであるほうがよい」と表現しています。つまり、数値化できる快楽ではなく、知的快楽や精神的満足を重視する姿勢を示したのです。
ベンサムとミルの功利主義は、19世紀のイギリスだけでなく、ヨーロッパ全体に広がり、社会思想にも大きな影響を与えました。
現代社会における功利主義の影響
現代社会においても、功利主義は政策やビジネスの意思決定に大きな影響を与えています。たとえば、政府が予算を配分する際、多くの人々に恩恵をもたらすプロジェクトに資金を集中させることは功利主義的なアプローチだといえるでしょう。また、企業が製品を開発する際、最大多数の顧客が満足することを目指す戦略も同様です。
このように、功利主義の視点は、社会全体の利益を最大化するための指針となっているといえます。
功利主義の具体例|日常に潜む功利主義的な選択
功利主義は、日常生活の中でもしばしば現れます。私たちが何かを選ぶとき、その選択が他人や社会全体にどのような影響を与えるかを考えることは、功利主義的なアプローチの一つといえるでしょう。ここでは具体的な例を挙げながら、功利主義の考え方を深掘りしていきます。
身近な例で理解する功利主義
たとえば、家族で休日の過ごし方を決めるとき。全員が楽しめる活動を選ぶことは、功利主義の一例です。家族全員が行きたい場所や活動を提案し、最も多くの人が満足する選択をすることで、家族の幸福を最大化しようとします。それは、まさに功利主義的な考え方に基づくものですね。
「トロッコ問題」で考える功利主義のジレンマ
功利主義を理解する際に避けて通れないのが、有名な「トロッコ問題」です。皆さんもどこかで耳にしたことがあるのではないでしょうか? 「トロッコ問題」とは以下のようなものです。
暴走するトロッコが、2つの線路に分かれて進みます。一方には5人、もう一方には1人の作業員がいます。そのまま放っておけば、5人はトロッコに轢かれてしまいます。さて、分岐器を操作してトロッコの進行方向を変えるかどうか…? それが問われているのです。
功利主義の観点だと、5人を救うために1人を犠牲にすることが最善とされるかもしれません。しかし、同時に重大な倫理的ジレンマを引き起こします。このジレンマは、他人の命を意図的に犠牲にすることの正当性を問うもの。多くの人々がどちらの選択が正しいのか、深く考えさせられる問題です。
功利主義の原則が、現実の状況でどのように適用されるのかを理解する上でも、重要なテーマだといえるでしょう。
功利主義のメリットとデメリット
功利主義は多くのメリットを持つ一方で、デメリットや限界も存在します。このセクションでは、功利主義の良い面と悪い面を比較します。
功利主義のメリット
功利主義の大きなメリットは、社会全体の幸福最大化を目指す点にあります。功利主義は多くの人々にとって最も利益をもたらす選択肢を導き出すため、公共政策やビジネス戦略において特に有効でしょう。
さらに、功利主義は理性的かつ論理的な判断を促すため、感情や個人の偏見に左右されにくい点も強みとなっています。
功利主義のデメリット
功利主義のデメリットとしては、多数の幸福を優先するため、少数派の利益や権利が軽視される可能性がある点が挙げられます。また、感情や道徳的価値観を後回しにされがちなので、結果として冷徹な決断を招くリスクがあるところも課題でしょう。
功利主義の反対意見とその議論
功利主義には多くの支持者がいる一方で、その考え方に対する批判も少なくありません。このセクションでは、功利主義に対する反対意見や議論を紹介し、さまざまな視点から考察します。
功利主義に対する批判
功利主義への批判としては、結果のみを重視するために手段が正当化されてしまうという点が挙げられます。たとえば、全体の幸福を増やすためならば、非道徳的な行為も許容されてしまうことがあるという懸念がありますね。
また、功利主義は一部の人々にとっての不正義や不平等を見過ごしがちであり、個々の人権や道徳的価値が軽視される恐れをはらんでいます。
現代社会における功利主義の限界
現代社会では、功利主義がすべての場面で最適な解決策とは限りません。特に、多様性や個々の権利を尊重することが重要視されている現代、功利主義は少数派の権利や声を軽視するリスクが指摘されています。
単純に多数の幸福を追求するだけでは、多様な価値観に対応しきれない場面も多いでしょう。そのため、柔軟な倫理観や多面的なアプローチが必要とされています。
最後に
有名なトロッコ問題を通して考えると、功利主義が捉えやすくなりますね。功利主義のメリットとデメリットを理解し、適切に活用することで、よりよい意思決定が可能になります。一方で、功利主義だけに頼るのではなく、他の倫理観とのバランスを取りながら、複雑な現代社会に適した判断を行うことが大切だといえるでしょう。
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