天皇陛下の英国晩餐会へ招待される!
日本でも注目を集めた、天皇皇后両陛下のイギリス国賓訪問。ロンドン在住の筆者は、とーっても心待ちにしていたのです。2024年6月25日から3日間、1998年以来26年ぶりに英国を国賓として訪れた両陛下ですが、天皇陛下がご出席された26日のシティ・オブ・ロンドンなどが主催の晩餐会に、何を隠そうお招きいただいたのです!
何故、私が? …それは、6月頭の某日、我がパートナーが「シティ・オブ・ロンドンより、天皇陛下を讃えるレセプションおよび晩餐会にご同席を賜りますようお願い申し上げます」という内容のご招待を受け、彼のゲストとして二つ返事で便乗。恥ずかしながら全く自力ではないのです。…が、滅多にない貴重な機会は、やはりすごかった!
最上級ドレスコード「ホワイトタイ」とは?
招待状、先述の文章のすぐ下に書かれていたのは「ドレスコードはイブニングドレス(ホワイトタイ)。制服または装飾のある民族衣装です」
「ホワイトタイってなに?」と調べてみると”最上級の礼服。女性はロングのイブニングドレス”とのこと。国賓レベルの方々が出席する行事でないとなかなか着用することのない、レアな礼装スタイルなのだそう。
参考として、畏れ多くも憧れのキャサリン皇太子妃がガラディナーや公式行事でまとった”ガウン(フロアレングスのドレス)”や”イブニングドレス”をリサーチ。ふむふむ。インスピレーションを得ながら、オンラインでめぼしいドレスブランドをチェックしていきました。
気になったのがロンドンブランド「Needle & Thread(ニードル&スレッド)」の一着。こちらのブランドは、皇太子妃もチャールズ国王の75歳の誕生日や、バッキンガム宮殿での英国・アフリカ投資サミットレセプション、そして毎年恒例の、妃主催のクリスマスキャロルサービス「Together At Christmas」で着用していたブランドです。
早速、繊細なスパンコールでハートモチーフが格子状にレイアウトされたロマンティックなディテールと、ステートメントなオーラを放つケープが特徴のドレス「Heart Lattice Ankle Gown」にロックオン。
私は152cmと低身長なので、絶対にお直しが必要なのですが、晩餐会まであと3週間…。間に合うのかドキドキしながら、「ニードル&スレッド」を扱う老舗デパート「Harrods(ハロッズ)」に飛び込み、同じドレスを試着したところ、奇跡的にぴったりフロアレングス(平均身長ならアンクル丈のデザイン)で、お直し不要だったのです!
いざ晩餐会へ! ゲストとのミングルタイム(交流時間)を乗り越えて
18時半に会場であるギルドホールへ到着。セキュリティを通ると「Old Library」でプレディナーレセプションのスタートです。そう、他のゲストとミングル(交流)する時間…。でも私は”おまけ”なので誰も知っている人はいません。ひとりポツンとしてしまいそうで、とても不安。
しかしさすがマナーをわきまえたイギリスの方々。目が合うと向こうから話しかけてくれるんです(涙)。500年以上前に造られたギルドホールの歴史感じるライブラリーを、鑑賞がてら歩きまわり、何人かとミングルしていたところでトーストマスター(乾杯の音頭をとったりスピーカーを紹介する司会者)に促され、招待客は晩餐会の本会場である「Great Hall」へ。
英国の伝統的慣習で天皇陛下をお迎え
入り口で配布されたゲストリストには、テーブルプラン(席次表)とフルインデックス(招待客全員のアルファベット順名簿)が。薄々わかっていたものの、やはりパートナーとは別々の席です。
自分の席にたどり着き、左右の方々とご挨拶したところで、いよいよ天皇陛下やエドワード王子、ロード・メイヤーらの登場です!
行進曲にあわせトップテーブルへ進むプリンシパル(メイン)ゲストを、約650名がゆっくりとした手拍子をする、伝統的な慣習でお迎え。間近で陛下の笑顔を拝見し、またとない名誉あるイベントの、その場にいられた光栄さを噛み締めました。
「The King!」ロンドン在住2年半、はじめて英国の乾杯マナーを知った
ディナーは4皿のコース。晩餐会に慣れた左右や向かい、同じテーブルの近隣のゲストたちがかわるがわる話しかけてくださり(話題はホント、近所のおすすめのお店や、最近ハマってる健康法など、一般的なものでした)、あっという間に時間が過ぎていきました。
ホッとしたのも束の間、ロード・メイヤーによる「Loyal Toast(忠誠の乾杯)」の呼びかけで全員、起立。晩餐会のクライマックス、乾杯とスピーチです。音楽隊による国歌演奏に続き、グラスを掲げて「The King!」と乾杯。
時折日本語が混ざったロード・メイヤーのスピーチの最後に「The Emperor of Japan!」で再び乾杯があり、天皇陛下のスピーチが行われました。
多くのメディアでその内容は公開されているので割愛しますが、陛下のユーモア溢れるスピーチは心の琴線に触れるものがありました。自由を謳歌されたオックスフォードでの若き日々への愛おしさが感じられ、図々しくも私まで熱い想いが湧き上がってきて…。
乾杯・スピーチごとに、会場の照明が落ちる→ドラムロール→ファンファーレ→起立→祈り(アーメン)→乾杯→着席…という手順をリピート。10cmヒールの身、やや面食らいつつも、イギリスの格式や伝統を肌で感じ、その厳粛さに畏敬の念を抱きました。
天皇皇后両陛下がご滞在された6月後半の8日間は気温の高い日が続き、まるで両陛下が連れてきてくださったかのような、2024年の短い夏。ご帰国後のいま、ロンドンはすでに秋の気配で、まだ7月なのに寒いです。
私はたった一夜ながら叶った華麗な夢から覚めることができず、燃え尽き症候群の日々が続いています。
ライター 神田朝子
ロンドン在住。得意分野はファッション、ラグジュアリーホテル、クラシック音楽。Instagram:@asako_kanda