不安があるからこそ、今、目の前のことに全力投球できる!
やりたいことがあれば、後悔しないために優先すべき
イラン・イラク戦争下のイランで生まれた私は、4歳ごろに孤児となり、施設で暮らし始めました。
7歳ごろ、養女として迎えてくれたのが、当時大学院生だった母。
それまでは生年月日も名前もわからず、現在の名前は母がつけてくれたものです。
その後、母の知人を頼って8歳で日本へ。小学生のときには一時期ホームレス生活を送ったり、中学時代にはいじめも経験。
つらい時期もありましたが、母や給食のおばちゃん、校長先生など、手を差し伸べてくれる方々がいて、今、「自分の人生を歩んでいる」という手ごたえを感じられる私がいます。
そう思えるようになったのは20代後半。きっかけは、母の病気です。
それまでどこか「母のために生きねば」と思っていた私は、「母がいなくなったら、ひとりになってしまう」ととても動揺しました。
でも母は「自分の人生を生きなさい」と言ってくれた。それからは、自分がやりたいことがあれば、後悔しないように優先すべきだと考えられるようになりました。
日本の恵まれた環境が“当たり前”ではないことを忘れないで
中でも大きな変化は、旅に出るようになったことです。
いろいろな国を回るようになって気づかされたのは、日常生活や生きていることは、当たり前ではないという事実。
私たちは日本で、恵まれた環境で暮らしているんですね。
女性が不安や悩みを口にすることすら許されない国があるという発見もありました。
そしてここ数年は、個人的に人道支援の活動もしています。
国際人権NGO「すべての子どもに家庭を」では、国内外で厳しい環境にいる子供や差別と貧困に苦しむ女性のサポートを。
また、NPO法人「国境なき子どもたち(KnK)」では、難民キャンプ内での学校運営をサポートする活動にも携わっています。
ヨルダンやイラクの難民キャンプも訪ね、実情を目にし、子供たちに武器ではなく、ペンを持ってもらいたいと思いました。
思いどおりにいかないことも、楽しんでいると経験値が上がる
コロナ禍が落ち着いたら、みなさんにもどんどん、海外を旅して、新しい価値観に触れてほしいと思います。
人は、自分が今いる環境がすべてだと思いがちですが、世界はもっと広いから!
私は、先進国と発展途上国に交互に足を運ぶようにしています。その国の表面的なところだけではなく、本当の姿を見るため、ツアーではなく個人旅行で。
世界遺産などの観光スポットは最終日にまとめて見ることにして、あとは自由にバイクタクシーや電車などの現地の交通手段を使って巡ります。
ホテルもベッドがあって、水さえ出ればOK。言語の心配はありますが、日本語通訳は世界中にいますから、どうにかなります。
旅先で起きたハプニングやトラブルも思い出。Aプランがダメでも、B、Cプランに変更! といったように思いどおりにいかないことを楽しんでいると、経験値が上がるような気がします。
そのおかげで、ふだんからめったに動じないようになり、たくましくなりました(笑)。
自分と対話し、今を楽しく、生きて、輝くことが大事
今の日本では、職場でも社会でも、不安や生きづらさを感じている人が少なくないかもしれません。
そういうときは、不安を吐き出せる環境をしっかり生かして、話を聞いてもらうことが大切だと思います。
特に、日本に足りないのはカウンセリング。海外では日常的なことです。病名や薬が欲しいわけではなく、ただ専門家に話を聞いてもらいたくて、私も海外のカウンセリングをたまに受けるようにしています。
“自分探し”はしなくていいけれど、すでにそこにいる自分を“育てる”ために、いったん立ち止まってみてもいいんじゃないかな、って。
立ち止まると、走っていたときには見えなかった景色を再確認できます。
そして「今を楽しめているかな」「今をしっかり生きているかな」「今自分は輝いているかな」と自分に問いかけてみてください。
私は未来を見るより、今を見たい。そして、明日がどうなるかわからないからこそ、今日できることを頑張ろうと思えるのだと考えています。
そんな“今”を重ねた先に未来があると信じて。
2022年Oggi10月号「私たちの未来予想図2022」より
取材・文/金子由佳 構成/スタッフ・オン
再構成/Oggi.jp
サヘル・ローズ
’85年生まれ。イラン出身の俳優・タレント。国際人権NGO「すべての子どもに家庭を」の親善大使を務めた経験があるなど、公私にわたる福祉活動が評価され、’20年にはアメリカで人権活動家賞を受賞。近著に『言葉の花束 困難を乗り切るための〝自分育て〟』(講談社)。