【連載・働く私にMusik】人には本当に恵まれてる。会う人会う人が、私の人生を導いてくれた
AI
1981年、アメリカ・ロサンゼルス生まれ。中学卒業まで鹿児島で育ち、ロサンゼルスでゴスペルやダンスを経験した後、2000年に帰国しデビュー。圧倒的な歌唱力、バイリンガルでラップもこなすストリートセンスをもつ、日本を代表するR&Bシンガー。
◆AIの軌跡
1996年~
中学卒業後、1996年にロサンゼルスのアート・スクールに入学。ゴスペル・クワイヤで活躍しながら、3年間の高校生活を送る。
アメリカでのデビュー予定もあったが、同時に日本のレコード会社からもオファーを受け、2000年に日本でデビュー。
2002年にDef Jam Japanに移籍。2003年に、安室奈美恵氏のプロジェクト“SUITE CHIC”に参加。
2005年~
2005年、シングル『Story』が大ヒットし、NHK紅白歌合戦初出場。
翌2006年にリリースしたシングル『Believe』ではオリコン自己最高位、2009年にリリースしたベストアルバム『BEST A.I.』ではオリコン・アルバム・チャート1位も初獲得。
2010年、デビュー10周年記念シングルで安室氏と再コラボし『FAKE』をリリース。2011年にリリースした『ハピネス』はダウンロード件数250万件を記録。
2014年~
2014年結婚し、翌2015年に第一子を出産。同年にデビュー15周年記念アルバム『THE BEST』をリリース。
2018年、第二子を出産。2019年にはデビュー20周年記念ベストアルバム『感謝!!!!! ‐ Thank you for 20 years NEW & BEST ‐』をリリース。
2021年にはNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の主題歌『アルデバラン』、今年2022年にはニューアルバム『DREAM』をリリースするなど、精力的に活動。
現在も全国ツアー『AI “DREAM TOUR”』を開催中。
デビュー前は、自分ひとりで生きる力を早く身につけたかった
サッシャさん(以下、S):今日はありがとうございます! デビューしたころからお世話になっているので… 初めてお会いしてから、もう20年以上経ってます!?
AIさん(以下、A):こちらこそありがとう! 20年かぁ… これからやりたいこともいっぱいあるから「まだまだだな」って感じだね(笑)。だけど、こうしてずっと変わらずに活動させてもらえていることが何よりもうれしい。
S:昔から歌手になりたかったの?
A:本当は、中学を卒業したらすぐ働きたかった。学校の勉強が夢につながると思ってなかったし、それより早く手に職をつけて自分で生きる力を身につけたかったんだよね。
中学生の終わりごろ、いとこの結婚式の余興で歌ったら、そこに芸能事務所の社長がいらっしゃって。
「うちからデビューしない?」って声をかけられたことも理由。歌を仕事にできるの!? って衝撃を受けたことを覚えてる。
S:へぇ~! それがプロの歌手を意識したきっかけだったんですね。
A:でもママは「絶対に高校までは行きなさい」って譲らなくて。家を出たい私との着地点がアメリカだったの。
生まれた場所でもあるロサンゼルスのアート・スクールに行くことになったんだよね。
楽をしようと逃げたらダメだなって思った。
S:現地ではダンスを学んだり、ゴスペル・クワイヤに参加したり?
A:そういう経験もしていたけど、アメリカの学校って同時に勉強もしないと追い出されちゃうの! 勉強はもういいと思ってたから大誤算(苦笑)。
私はあきらめようとしたんだけど、クラスメイトや先生が、私がドロップアウトしないように一生懸命教えてくれるのね。人の優しさには逆らえないじゃない?
それまで逃げてきた勉強と初めて向き合って、無事に卒業できたんだけど…。卒業式でみんなが泣いて喜んでくれて、私も大号泣。
ムダだと思っていた学校も、人とのつながりを認識する場所、何かを乗り越える場所だったんだって気づけたし、楽をしようと逃げたらダメだなって思った。
人生って、逃げたものと必ずまたどこかで再会するようにできてるんだよね。
S:そのころから周りの人に愛されてたことがよくわかるエピソード!
A:人には本当に恵まれてる。会う人会う人が、私の人生を導いてくれてるなぁ。
S:アート・スクールを卒業して、日本でデビュー。そのままアメリカに残ろうとは思わなかったの?
A:現地のアジア系ガール・グループのメンバーとしてデビューする予定もあったけど、同時に日本のレーベルからも声をかけられていて…。
全米デビューはすごくリッチな話だったけど、「お金で人生を決めるな」ってダダ(父)に言われたり、そのグループの子たちが「アジアからじゃアメリカでブレイクできない」って話しているのを聞いて悔しくなっちゃったりして。
いつか日本からこっちに乗り込んでやる! って決意して帰国した。これが歌手としての初めての目標かもね。
日本デビュー、いろんなアーティストを見てどんどん勉強したくなった
S:日本でデビューしてどうだった?
A:だれも私のことを見向きもしてくれないし、CDも全然売れない。ロスで培った自信が一気に打ちのめされたよね。
S:そのころのアルバム、持ってます。レコードショップで偶然試聴したんだけど、当時はAIさんをまだ知らなくて「こんなかっこいいラップを歌える日本人がいるの!?」って驚いて購入したんです。
A:ありがとう! サッシャはマジで優しい。でも自分の歌いたい曲やスタイルは反応が悪くて、売れる曲や日本らしいスタイルが求められたのね。私もまだ生意気だったからさ、よく反発してた。
S:ということは、2002年のレーベル移籍は大きな転機になったのでは?
A:かっこいい曲をつくれるようになったし、その時期に安室ちゃんと出会えたことも大きかったなぁ。
S:“SUITE CHIC”、安室さんのプロジェクトのこと?
A:そう! 一緒にライブしたり、彼女のツアーに出たり、初めてテレビに出たりしたのもこのとき。
ワケがわからずに混乱してる私になんでも教えてくれて、「AIちゃんはそのままでいいよ」って言ってくれて。
彼女のおかげで、いろんなことが好きになれた。安室ちゃんとの出会いがなければ、テレビの現場も苦手だったかも(苦笑)。
みんなアーティストとして仕事をするプロ。人の現場を見ることは、すごく勉強になる。
S:安室さんとのプロジェクトを通して、いちばん学んだことってなんですか?
A:いろんな場所や現場に行って、たくさんのアーティストの本当の姿を見られたこと。みんな一生懸命だし、やっぱりプロなんだよね。
「あの番組に出るのはダサい」とかみんなネガティブなことを言うじゃない? でもそれは、その現場を経験してない人たちが言ってるだけ。
実際に経験したら、そんなことは全然ない。みんなそれぞれ魅力があって、アーティストとして仕事をするプロ。
人の現場を見ることは、すごく勉強になる。そう思って、その後たくさんの人とフィーチャリング企画をやったんだよね。
S:さらに学ぼうと思ったんですね。
A:歌詞の書き方、レコーディングの仕方、歌い方、日々の振る舞い方… フィーチャリングすることで、その人のいろいろな面を見られる。
「この人すごくかっこいい!」と感じていた人が、実は自分に自信がなくて、制作現場をあまり人に見られたくないタイプだったりとか。でもそれがいい。どんな人でも、私と同じ人間なんだって思えるよね。
ゴスペルツアーをしたときも、一緒に歌ってくれるみんなが超うまいのね。でもずっと一緒にいると、そんな人たちでも調子がいい日、悪い日があるんだってわかってくる。
声が出ないときや、ピッチが合わないときもあるけど、ちゃんとリカバリー術を持っていて、またそれが勉強になる。いろんな人が自分を成長させてくれるよね。
S:そうやって多くのフィーチャリングから学びを得て、今は才能のある若い人たちを見つける立場でもありますよね。
A:いい人を見つけると、世間に見せたくなる。「この人マジすごいよ!」って自慢したいし、紹介したいし、一緒にやりたい。魅力がある人はどんどん表に出てほしいし、成功してほしい。
今までは自分が前に行きたい気持ちが強かったけど、自分に子供がいるからか、親みたいな目線で見るようになってるかも(笑)。
後半へ続きます▶︎「30代は、そりゃもうすばらしい時期」【対談後編】
【Information】最新アルバム『DREAM』好評発売中!
4年ぶりのオリジナル・フルアルバム。NHK連続テレビ小説主題歌『アルデバラン』ほか、豪華なフィーチャリング楽曲も話題。『DREAM』[通常盤]¥3,300(ユニバーサル・ミュージック)
追加公演も決定!『AI“DREAM TOUR”』開催中
アルバム『DREAM』を携えた全国ツアーは、各公演ソールドアウトが続く人気ぶり。12月9日(金) 東京国際フォーラム ホールAにて開催が決定した追加公演を見逃さないで!
* * *
【衣装】
[AIさん分]ジャケット¥429,000・シャツ¥88,000・パンツ¥181,500・イヤリング¥126,500(グッチ ジャパン〈グッチ〉)
[サッシャさん分]スーツ¥319,000・ベルト¥49,500(イザイア ナポリ 東京ミッドタウン〈イザイア〉) その他/スタイリスト私物
●この特集で使用した商品の価格はすべて、税込価格です。
2022年Oggi10月号「働く私にMusik」より
撮影/中村和孝 スタイリスト/後藤則子(AIさん分)、久保コウヘイ(サッシャさん分) ヘア&メイク/大塚由紀(AIさん分)、新地琢磨(Sui/サッシャさん分) 構成/旧井菜月
再構成/Oggi.jp編集部