マネジメント・リーダーの壁「仕事ができない人への対応はどうするのがよいのだろう」
→「この人の親だったらどうするか?」を考えてみる
チームで仕事をするときに、組織目標の達成に向かってトントン拍子に進むことができれば、それは「仕事がうまくいく」と言います。「仕事ができる人」とは、仕事がうまくいくための力になれる人のことを指していることになります。
仕事ができる人でも「ちょっと性格が」「出世欲が強くて衝突が多い」という話を聞くことがありますが、もしチームの目標達成にマイナスの影響を与えていたら、いくらスキルが高くてもその人は残念ながら「仕事ができない人」です。同様に、チームの雰囲気をよくしていても成果に結びつかない人も、仕事ができない人。
チームメンバーにこのような人がいる状況は、よくあることです。
ちなみにメンバーとしての私は、駆け出しの頃はどちらかというと「性格は良いけど成果が出ない」と言われ、しばらくすると「アグレッシブ過ぎて周りがついていけない」と言われた経緯の持ち主です。
ただ、その都度導いてくれる先輩や上司がいました。駆け出しの頃は、自信をつけるために褒めてくれたり、叱咤激励してくれたりする人がいましたし、突っ走っていたときは「もっとやれ」と煽りながらも、時に諌めてくれる人がいたのです。
部下は褒めて伸ばせ、とか逆に褒めてはいけないなど、様々な説があります。これらはメッセージを際立たせるために強調しているだけで、当然現場はどちらか一方では成立しません。結論はケースバイケースです。相手の性格や経験、スキルなどの習熟度と周辺環境のセットで判断するのが結論です。
今、「仕事ができない人」に対して、自信がない人には自信をつけさせ、調子に乗っている人には周りを見えるように諌めるということになります。
しかし、さらに現実は厳しいものです。これらの努力を払っても、どうしても浮揚してくれない人がいます。こういう時は毎回私も頭を悩ませることになります。
その時の考えるひとつの軸が、対象者本人の中長期キャリアの視点で考えてみるということです。まるで、その人自身かその人の親になったような視点で考えてみるのです。
その視点で脳内シミュレーションをしてみると、私の経験上次のような疑問に至ることが多いです。「この状態で、今の場所に居続けることが本人のためになるのだろうか?」この疑問を突き詰めると「ここではないどこかで活躍させてあげたい」と考えることになります。
時に「ひどい」とか「無責任」という言われ方をしますが、本当にそうでしょうか。実際にこの数十年日本の経済界で行われてきたことは、気力体力が落ち始めるまで同じ会社に留め置き、50歳を過ぎたころに、ぽんっと社外に出すということでした。行先は関係会社や実効支配している取引先。社内であっても営業の人を社員食堂付、と様々です。この行為の方が残酷に見えるのは私だけでしょうか。
少しでも気力体力が揃っているうちに、いくらでもキャリアの選択肢が残っているうちに社外や別の業界・職種も考えてみようという選択肢を示すことが、本人のキャリアを考えて善い対応策なのではないでしょうか。
従来の日本の雇用慣習は、この議論を「ご法度」として思考を停止させてきました。いつまでもこの組織にいることを是として、外へのガイドをすることを検討の選択肢から外してきたのです。
もちろん、最後に自分のキャリアの責任を持つのは本人です。しかし考える軸や選択肢を示してあげるのは周りの役割でもあるのです。
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著者 河野英太郎
1973年岐阜県生まれ。株式会社アイデミー取締役執行役員COO
株式会社Eight Arrows代表取締役。グロービス経営大学院客員准教授。
東京大学文学部卒業。同大学水泳部主将。グロービス経営大学院修了(MBA)。
電通、アクセンチュアを経て、2002年から2019年までの間、日本アイ・ビー・エムにてコンサルティングサービス、人事部門、専務補佐、若手育成部門長、AIソフトウェア営業部長などを歴任。2017年には複業として株式会社Eight Arrowsを創業し、代表取締役に。2019年、AI/DX/GX人材育成最大手の株式会社アイデミーに参画。現在、取締役執行役員COOを務める。
著書に『99%の人がしていないたった1%の仕事のコツ』『99%の人がしていないたった1%のリーダーのコツ』『99%の人がしていないたった1%のメンタルのコツ』(以上、ディスカヴァー)、『どうして僕たちは、あんな働き方をしていたんだろう?』(ダイヤモンド社)、『VUCA時代の仕事のキホン』(PHP研究所)、『現代語訳 学問のすすめ』(SBクリエイティブ)などがある。