ワクチンには種類がある
私たちヒトの体は、体内にない物質が中に入ってくると、それを異物と認識して、免疫で排除しようとします。その免疫というシステムを利用し、積極的に弱毒化させた病原体そのものや、病原体を構成する物質を注射などで体内に入れて、あらかじめ免疫を作っておく手段がワクチンです。具体的には以下のものがあります。
▲イラスト:厚生労働省HPより
◆1. 生ワクチン
本当の病原体を弱毒化させてから接種し、体内で増殖させる(本当に感染させる)方法です。代表的なワクチンとしては、麻しん、風しん、水痘、BCG(結核)、おたふくかぜ、ロタウイルスのワクチンなどがあります。
◆2. 不活化ワクチン、組換え蛋白ワクチン
不活化ワクチン:病原体の感染する能力を失わせた(不活化、殺菌)ものや、病原体となる細菌が作る毒素だけを取り出し、毒性をなくしたものを接種することで免疫をつける方法です。
代表的なワクチンとしては、DPT-IPV:四種混合(D:ジフテリア・P:百日せき・T:破傷風・IPV:不活化ポリオ)、DT:二種混合、日本脳炎、インフルエンザ、B型肝炎、肺炎球菌、Hib:ヒブ(インフルエンザ杆菌b型)、ヒトパピローマウイルスのワクチンなどがあります。
◆3. mRNAワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチン
これらのワクチンでは、ウイルスを構成する蛋白質の遺伝情報を体内に入れます。その遺伝情報をもとに、体内でウイルスの蛋白質を作って、その蛋白質に対する抗体が作られることで免疫を獲得する方法です。
その中で世界的に画期的だと言われているのがmRNAワクチンです。
▲上がmRNAワクチン、下がウイルスベクターワクチン
「mRNA」は何と読む?
さて「mRNA」とアルファベット表記されていますが、どのように読むのでしょう。
「メッセンジャー・アール・エヌ・エー」と呼ばれることが多いですが、人によっては「エム・アール・エヌ・エー」と呼ぶ人もいます。音で聞いたときには違うものに聞こえますが、どちらも同じものです。
mだけ小文字ですが、RNAにも種類がいくつかあり、そのうちの一つという意味でmだけ小文字になっています。messenger(メッセンジャー)=伝達役のRNAということです。
日本で承認されているコロナワクチンのなかで、ファイザー製ワクチンとモデルナ製ワクチンにmRNAの技術が用いられています。
ちなみにアストラゼネカ製ワクチンはコロナウイルスの一部の遺伝子を人体に無害なワクチンに組み込んで壊れにくくしたワクチンで、ウイルスベクターワクチンと呼ばれていて、mRNAワクチンではありません。
mRNAワクチンの有効性
このmRNAワクチンは、インフルエンザワクチンなどの従来のものとは全く違い、ウイルスの中にある遺伝情報をもとに作られているのです。そして、この技術により、免疫細胞を強く活性化することができるようになりました。
mRNAは壊れやすいので、ファイザー製は−90~−60℃、モデルナ製は−20℃での保管が必要です。一方、ウイルスベクターワクチンであるアストラカ製のワクチンの保管温度は2〜8℃と、冷蔵は必須であるものの、冷凍の必要はありません。
有効性に関してはmRNAワクチンの方が優秀で、ウイルスベクターワクチンであるアストラゼネカ製ワクチンの有効率が約70%に対し、mRNAワクチンの有効率は約95%と高い有効率があります。
かつて、mRNAはワクチンへの実用化が難しいと言われていました。当時は体の中で炎症反応が起きてしまうという課題があり、研究者の間でも不可能だと言われていました。
そうした中でもハンガリー出身の、カタリン・カリコ博士はあきらめずに研究を続け、従来の常識を打ち破ってワクチン開発の道を切り開きました。
新型コロナウイルス感染の仕組み
「新型コロナウイルス感染」の仕組みについて理解しましょう。
新型コロナウイルスは、ウイルスの外側にあるスパイク蛋白質(イガイガとたくさん出ている突起の部分)が、ヒトの細胞の表面にくっついて、細胞の中に侵入し、感染を引き起こします。スパイク蛋白質そのものは、生きたウイルス本体ではないため、それ自体が感染を引き起こすわけではありませんが、スパイク蛋白質が、細胞にくっついたり、侵入したりすることから感染が引き起こされます。
新型コロナウイルスの遺伝子構造はすでに明らかにされていて、ヒトの細胞への感染の第一段階であるスパイク(突起)の部分の特定もされています。感染防御を担うワクチンでは、このスパイク(突起)に対する免疫を作ることが大事なのです。
紐のようなもの:mRNA、緑:スパイク蛋白質、紫:抗体
mRNAの話に戻ります。mRNAは、もともとヒトの細胞の中にあるものです。普段はヒトの体内でDNAの設計図を核の外に伝えるために働いているものです。言い換えれば、細胞内で蛋白質を作る場合に、必要な場合の設計図を核の外に伝える役割をしています。ちなみにDNAから設計図をもらって蛋白質を作る工場をリボソームと呼びます。
mRNAワクチンとは、新型コロナウイルスのスパイク蛋白質(突起)の設計図をコピーして作られたものです
▲工場=リボソーム
核の中には遺伝情報であるDNAが入っています。DNAはとても大事な情報を持っているので、核の外に出ることができません。そのため、mRNAが代わりに外に伝え、細胞内で蛋白質を作る役割をしているのです。
ただ、mRNAは一旦核の外に出ると、核の中には戻ることはできないので、役目を終えたら、自然に消えてなくなります。
工場(リボソーム)に設計図が届くと、ウイルスのスパイク(突起)のみをたくさん作ります。これが細胞の外に出ていきます。ウイルスそのものではないので、感染力はありません。
紐のようなのもの:mRNA、黄色:リボソーム、緑:スパイク蛋白質
ウイルスからmRNA(設計図)を取り出し、これをヒトに注射すると、細胞内の工場(リボソーム)で新型コロナウイルスのスパイク蛋白のみを作ります。ヒトはこの異物に体が反応して免疫を作ります。
このようなmRNAの役割と、新型コロナウイルスの感染の仕組みを使って、mRNAワクチンはできています。
スパイク蛋白質の設計図をmRNAがコピーし(mRNAは体内で壊れやすいので、脂質の膜に包んで)、それをワクチンとして接種します。
mRNAワクチンの接種によって、体内にスパイク蛋白質の設計図を得ることができます。この設計図を使って、細胞内でスパイク蛋白質を作ることができ、いつもと違うものと認識した、正義の味方免疫細胞(T細胞とB細胞)が、このスパイク蛋白質の抗体を作ります。
この抗体があることで、コロナウイルスを捕まえ、細胞の表面にくっつくことや、細胞内に侵入することを防ぎます。
mRNAワクチンを接種する意味
今、日本で使用されているmRNAワクチンは2回接種することになっています。実はこれは免疫細胞にとって大きな意味があります。
ワクチンを打った人の抗体の量を調べてみた結果、1回目の接種から10日後に抗体の量が少し増加(約500単位AU/ml)し、2回目のワクチン接種の7日後にかけて、抗体の量がぐんと増えます(約2500単位AU/ml)。免疫細胞の反応は2回目で強くなることがわかっています。
このように準備万端になったところに、本物のウイルスがやってくると、ウイルスのスパイク(突起)に、B細胞が作っておいた抗体がくっつきます。
▲新型コロナウイルスのスパイク蛋白質に対して抗体がひっつくイメージ
これで、ウイルスは細胞の中に入れません。万が一、侵入するウイルスがいても大丈夫。キラーT細胞が感染した細胞を素早く排除してくれます。ワクチンを事前に接種することで、このように体をウイルスから守ることができるのです。
接種すると体の中で次々と抗体が作られ、強い免疫機能を持つ、キラーT細胞も活性化されて、ウイルスの増殖を阻止します。その有効性は90%以上です。
現段階ではっきり言えることは2回接種したら、6ヶ月有効だということです。ここから先はさらなる研究が必要となってきます。
新型コロナウイルスワクチンのことを正しく知って、ワクチン接種を検討しましょう。
医師 鈴木幹啓
日本小児科学会認定日本小児科学会専門医
自治医科大学卒業
三重県立総合医療センター、国立病院機構三重中央医療センター、国立病院機構三重病院、伊勢赤十字病院、紀南病院
2010年5月、和歌山県新宮市に「すずきこどもクリニック」を開院
2020年株式会社オンラインドクター.comを設立。医師-患者プラットフォームを運営
https://ishachoku.com/(イシャチョク)
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