言葉だけを拾ってもコミュニケーションにはならない
今でこそこうして本を書き、たくさんの人の前で講演をしたりコーチングやコンサルティングをしたりしている私ですが、完璧にコミュニケーション上手に変わったわけではありません。
「三つ子の魂百まで」とよく言いますが、時折コミュニケーション下手の自分が顔を覗かせます。先日も、こんなことがありました。
相手はずっと私のところに通ってくれているコンサルティングのクライアントさんでした。そのクライアントさんとは10年来のご縁で、事業の立ち上げの頃から私のところに来てくれています。
ある課題をクリアし、今後どのように事業展開をしていくかについて私のセミナールームでセッションをしていました。内容は経営方針ということでかなりロジカルに話を詰め、そのクライアントさんに必要なことを伝えていたつもりでした……。
クライアントさんが言葉少なめになっていったのでいったんセッションを中断し、テラスでお茶を飲みながら休憩していたところ、クライアントさんがあまりに浮かぬ顔をしていたので理由を聞いてみました。
すると、思わぬひと言を言われました。
「永松さん、最近、言葉だけを拾うようになりましたね」
一瞬何を言われているのかわかりませんでした。クライアントさんはこう続けました。
「以前は私の感情に向き合ってくれていたように感じていました。今は言葉上の理解しかしてくれていないような気がします」
ハッとしました。経営というロジカルな部分にフォーカスをしすぎるあまり、クライアントさんの「感情」というものをスルーしてしまっていたのです。
言葉通り受け取ると関係性が壊れることもある
クライアントさんと書いたその人は、女性の経営者でした。
私のところに来始めた頃は普通のOLさんでしたが、その後起業し、ずば抜けた経営センスで今や全国で大活躍している女性起業家。私も彼女から学ぶことがたくさんある方です。
「男女問わず、人というものは自分を理解してほしい生き物」
人にはいつも伝えているものの、私はこの時すっかりこのことを忘れ、昔の自分に戻っていました。すぐに結論を出そうとしてしまい、それ以外のことはあまり重要視しない。良くなるためには最短で結果の出る方法を考える、というドライな自分がいました。
ただこれまで何度もお伝えしてきた通り、大切なのは「言葉の意味」ではなく「その奥にある感情」です。
今風に言えば、空気を読むことの大切さをあらためて彼女の言葉が思い出させてくれました。
「感情にフォーカスする」とはこういうこと
さて私の失敗談をお伝えしましたが、あなたはいかがでしょうか? 言葉だけを拾わず、その奥にある相手の感情にフォーカスできていますか?
夫婦、恋人、友人、職場の人間関係……。私たちの人生は、色んな人との関係性の上で成り立っています。
例えば仕事が忙しい時に、奥さん(もしくは恋人)から、「今は私のことなんか気にしなくていいから仕事に集中して」と言われたとします。
その時に「そうか。ありがとう。じゃあ遠慮なく」と相手の言葉通りに仕事に没頭して連絡の一本もしなかったら、おそらくバトルが始まります。
ある日突然怒りを爆発させた相手に対してあなたは「なんでそんなに不機嫌なんだよ! 君だって今は仕事に集中してって言ったじゃないか!」と怒り始めます。
これが相手の「言葉だけを理解した」状態です。
奥さんや恋人からすれば「だからといって、あまりにも忘れすぎじゃない? 一本の連絡もできないほど忙しいの? 私の気持ちをまったく理解してくれてないじゃない!」となるのです。
こうして関係のズレが始まる。ここからはご想像にお任せします。
「相手がこう言ったから」という言葉だけでコミュニケーションを展開していくと、思ってもみない現実を引き寄せてしまうことがあります。
真に大切なのは「言葉」だけでなく、その奥にある「感情」にフォーカスすることです。
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永松茂久(ながまつ・しげひさ)
株式会社人財育成JAPAN代表取締役。大分県中津市生まれ。「一流の人材を集めるのではなく、今いる人間を一流にする」というコンセプトのユニークな人材育成法には定評があり、全国で数多くの講演、セミナーを実施。「人のあり方」を伝えるニューリーダーとして、多くの若者から圧倒的な支持を得ており、講演の累積動員数は延べ45万人にのぼる。2021年上半期1番売れた会話の本『人は話し方が9割』(すばる舎)をはじめ、著書多数。