29歳の人気作家・岸田奈美さん 初著書発売記念インタビュー<後編>
初著書『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』が発売されたばかりの岸田さん。後編は、人を巻き込み広がり続ける岸田さんの仕事術をひもときます。
今とこれからの「仕事」について語った<前編>はこちら。
◆よい文章は、よい人と巡り会わせてくれてる
「noteでエッセイを書いているときは、それを本にまとめる予定はありませんでした。私は、『その場の勢いで、100文字で伝わることを2000文字で書いてしまう』作家です(笑)。本にするのは、なんだか恥ずかしかったんです。
それを、書籍の担当編集者は『勢いをそのまま本にしましょう』と言ってくれて、そこから次々人を巻き込んで、お祭りのようにして出来上がって。装丁は、大御所ブックデザイナーの祖父江慎さん、表紙のイラストは私が描いたものです。絵はまったく自信がなかったけれど、祖父江さんに教えられて2ヶ月くらい練習し、なんとか完成しました。
本のノンブル(ページ数)は弟に数字を手描きしてもらい、家族写真は写真家の幡野広志さんが撮影。弟は知的障害がありうまく字が書けないけれど、何度も書き直して、頑張ってくれました。幡野さんは闘病中の写真家として知られていますが、ツイッターを通じてメッセージを送り合い、撮影が実現しました」
動き出してみれば、協力する人がどんどん増えていくのが、岸田さんの仕事術。11月には次のお祭り「キナリ読書フェス」の開催が予定されている。11月22日に参加者が同時に同じ本を読み始め、その様子をSNSに投稿し、翌日に一斉に感想文を書くというもの。面白そうだけど、読書感想文は小学生以来だし… と尻込みする人に向けて、岸田さんはこうアドバイスします。
「子どものころを思い出してみても、読書感想文の書き方は誰も教えてくれなかったですよね。読書フェスでは、書き方をお伝えする場にもなればいいなと。私が思う感想文の書き方は、『5割が下調べと準備。3割が自分の話で、残りの2割が本からの引用』。
下調べでは、作者はどういう人でどういう時に書かれた作品かを知っておく。またその本が家族についてのものであれば、家族に対する自分のスタンスを見つけておく。そうすると、読んだときに見えてくるものが全然違ってくるんです。3割はそのテーマに対する自分の話を。残り2割で本からの引用が上手くいくと、その本をものすごく読みたくなります。
よい文章はよい人と巡り会わせてくれて、よい場所へ連れていってくれる。自分の感情をうまく表現できると、自分の思考の整理になるし、読んだ人がそれに突き動かされて行動が変わることもある。回り回って、自分に自信がもてる。ほんと、いいことしか起こらないと思います!」
その一例として岸田さんは、「初めて読んだ村上春樹さんの本の感想文を書いたら、村上春樹さんの直筆サインが届き、書評の仕事をもらえるようになった」という経験をしている。いい人と巡り合わせてくれて、さらに自分に自信をつけてくれた「書くこと」。今では、エッセイ、コンテスト開催だけでなく、ラジオ出演、そして小説執筆へと広がっている。
◆合わない環境なら、辞めちゃえ!
岸田さんのように、楽しく仕事を広げていけたらいいけれど、実際には「自分の居場所はここでいいのか」「やりたいことは、なんだろう」と、モヤモヤすることも多いOggi世代。同じ気持ちを経験してきた岸田さんは、こうアドバイスします。
「会社員時代の私は、当たり前のことができなかったり、周りになじめなかったり、その結果休職してしまったり。同じように悩んでいる人には、『合わない環境なら、辞めちゃえ!』って言いたいです。環境のせいにするなという人もいるけれど、自分に合わない環境、褒めてくれる人がいない状況で、いい仕事ができるはず、ないですから。
著書『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』では、休職した話、そのときに弟と旅行に行ったこと、それをきっかけに社会復帰したこと…、なども書いています(「どん底まで落ちたら、世界規模で輝いた」の章)。私自身が生きづらさを感じていたのは、私がそう決め込んでいたせい。くよくよ悩むことをやめてみたら、私も大丈夫になりました」
岸田さんのエッセイは、こんな背中を押してくれるあたたかい言葉であふれています。やりたいことがわからないとき、家族とうまくいかないとき、仕事で失敗したとき…、手元に置いておいて読み返してみる。こんな使い方ができるのも、岸田さんの本のいいところかもしれません。
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』
著/岸田奈美
撮影/黒石あみ 取材・文/南 ゆかり