29歳の人気作家・岸田奈美さん 初著書発売記念インタビュー<前編>
文章を書く人の新しいプラットフォーム「note(ノート)」を中心に活動する作家・岸田奈美さん。笑えて泣ける日々のできごとを、軽やかながら感情をゆさぶる新しい文体で表現し、大きな話題になりました。
エッセイに登場するのは、車いすユーザーの母、ダウン症で知的障害のある弟、ベンチャー起業家で急逝した父… など。家族とのエピソードはどこまでも明るく、読んだあと、心が軽くなるよう。こんな不思議な力をもつエッセイが、初の著書として発売されました。
タイトルは『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』。タイトルの奥にある意味は…、本を最後まで読んでいただくとして。Oggi.jpでは、29歳の岸田奈美さんの素顔をクローズアップします!
◆書くことは「愛のおすそ分け」
「気がつけば、作家になっていた」
初著書『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』は、こんな文から始まります。1991年生まれの岸田さんは、大学1年のときに起業に参加し、広報担当として10年間活動。2020年3月に独立し、noteにエッセイを書き始めたら、すぐにバズって注目の人に。そのコンテンツが半年後には書籍として発売されるというスピード感にも、新しい波を感じさせます。
「noteで日常を書き始めて約1ヶ月後、投げ銭で生活していけるだけの収入になったのは、自分でも驚きでした。こんなに応援してくれる人がいるんだ、というのが素直な感想です。
書いているのは、私の日常です。人を傷つけることや単なるグチや弱音は書かず、ひたすら誠実に。そして、起こったことを誰よりも早く書いて出す。その結果、読んだ人にハッピーになってもらいたいので、書くことは「愛のおすそ分け」だと思っているんです。
肩書きは作家ですが、人からは「作家よりライターの肩書きのほうが合っている」と言われることもあります。私の活動は、岸田奈美という人生を作品として編集し、つらかったことも含めて、楽しい話として書くこと。そうやって作品を生み出していくという意味で「作家」なのだと思っています。「面白いんじゃない?」「やってみたら」と言われたものは、だいたい乗っかります(笑)。伝えるツールは、必ずしも文章でなくてもいいし、おしゃべりすることでもいいんです」
◆30代からは、新たな出会いを大事に
自身を編集しながらさまざまな形でアウトプットする。変わった試みとしては、岸田さん自身の特別定額給付金10万円を賞金として、私設の文章コンテスト「キナリ杯」を開催。賛同する人の寄付が増えて賞金は100万円に膨れ上がり、応募作品は4240作品にも。受賞作品を集めた電子書籍も発売されました。
「応募者の約1/3の人は、私の文章を見てnoteを始めたという人たちでした。意外と言葉で表現することをやってこなかったんだと思うのと同時に、テキストで伝えることが改めて注目されていると感じます。Instagramでも最近は、文章やポエムを投稿する人が増えていますしね。Facebook、Instagram、TikTokときて今、noteをはじめテキストメディアがそれに続くブームになってきているのも、面白いことです。
日常的なことを発信して、それを面白がって見てくれる人が増える。楽しくなってまた書くというサイクルは、自分自身のためにもなると思います。ただ私の場合、自分のことを書きすぎて、そろそろ書くことがない(笑)。それに、「若いから」と許されたり、応援されたりしてきたことも、30歳を前にすると、そうもいかなくなるだろうと…。
また、有名人だけでなく一般の人もオンラインサロンのようなものをもって活動をすると予測する人もいます。そんなふうに変わっていったら、私よりももっと若く才能のある人たちがどんどん出てくるでしょう。みんなそっちを応援していくんじゃないか。そう考えるとすごく怖いけれど、30代になったらなったで、新たに書きたいことがきっと見つかるはず。20代は過去への意味づけと勢いでやってきたけれど、30代は今いる人との対話をさらに深く、大事にしていくときなのかなと思っています」(後編に続く)
<後編>では、「書くこと」のさらなる楽しみと広がりについて語ります。
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』
著/岸田奈美
撮影/黒石あみ 取材・文/南 ゆかり