「憮然(ぶぜん)」ってどういう意味?【漢字の常識】
「上司の態度に憮然とした…」この一文を読んで、どんな様子を思い浮かべましたか?
上司の態度に憤った? それとも上司の態度に失望した? どちらが正解かチェック!
◆憮然とは… がっかりすること
憮然とは「失望・落胆してどうすることもできないでいるさま。また、意外なことに驚きあきれているさま。」のこと。
あれ? 怒りを表す言葉ではないの? と驚いた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そうなんです。
実は憮然は誤った意味で理解されている言葉なんです!
◆なぜ怒りを表す言葉として使われてしまっているの?
憮然の憮は心を表すりっしんべんに無という言葉を組み合わせて作られています。りっしんべんは「“心”の字を立てて偏にしたもの」で、主に心の動きにちなむ漢字に使われています。憮は、心がそこに無いことを表しているといえます。
一方、然は「名詞に付いて、そのもののようなようすであるということを表す。」接尾語なので、憮然は、心がそこに無いような様子のことを表しています。
心がそこに無いというのは、心にぽっかり穴があいたような失望感というとイメージしやすいのではないでしょうか。
以上のように、憮然のどこにも怒りを表すような意味はないのに、怒りを表す言葉のように広く用いられてしまっているのはなぜでしょうか。
その理由の1つとして、『仏頂面』『ぶっ飛ばす』など、ぶの音で始まる言葉に怒った様子を伝える際に用いる言葉があることに、ぶぜんという音のイメージが重なったからといわれています。
加えて、同じような意味の言葉が他にもあることも一因といわれています。同じような意味の言葉として、呆然(「1. あっけにとられているさま。2. 気抜けしてぼんやりしているさま。」のこと。)そのほか、唖然(「思いがけない出来事に驚きあきれて声も出ないさま。あっけにとられるさま。」)がありますね。
憮然は失望感が強いのに対し、呆然や唖然は驚きが強いというニュアンスの違いがありますが、呆然や唖然の方が耳にする機会が多く、同じような意味合いで憮然を使うことが少なかったことが、ぶの音のイメージと相まって、怒りを表す言葉として誤用され、広く浸透してしまったんですね。
また、上の例文もそうですが、怒りのニュアンスで読み取っても文の流れに違和感がないことも多いため、すっかり定着してしまったんですね。
いかがでしたか? 怒った様子という意味で使われることは本来は誤法とされています。小説などでも正しい意味で読み解くと、著者が憮然と表した意図が理解でき、また違った情景が見えてくるかもしれません。
ぜひ、気にしてみてくださいね。
言葉の意味/デジタル大辞泉
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鶴田初芽
都内在住のOLライター。マナーインストラクターであり、実用マナー検定準一級や敬語力検定準一級など、ビジネスにおけるマナーや、マネーに関する資格(2級ファイナンシャル・プランニング技能士、金融コンプライアンスオフィサー、マイナンバー保護オフィサー)などを保有。丁寧な暮らしに憧れ、断捨離修行中!