ステイホームで疲労骨折が増えた理由
「ステイホーム骨折」という言葉を作った岡野先生との健康コラムの第3回目。Oggi.jp読者の皆さんにも、「若い女性と骨」に関する臨床現場からの最新情報を今回もお届けします。今回は、新型コロナウイルス対策での自粛生活の影響が、若い世代にも出ていることをうかがわせる「ステイホーム骨折」について詳しく解説します。Oggi.jp読者世代も決して人ごとではないですよ。
前回のおさらいです。怪我(外傷)を伴わない骨折には、大まかな年齢別に2種類あるということでした。
1. 閉経後の女性を中心に、骨粗鬆症が原因でもろくなった骨に、気付かないうちにおこる「いつのまにか骨折」
2. 骨自体には問題はない若い世代でも、運動のしすぎで起こる「疲労骨折」
前回記事▶︎【医師監修】ステイホーム骨折が増加… 疲労骨折・いつのまにか骨折との関連は?
最近、岡野先生は、この二つの特徴的な骨折が必ずしも「中年以降の女性」と「若者」というくくりでは説明できない症例が増えていることに気がつきました。そして、その原因が、新型コロナウイルスによるステイホームと関係があるかもしれないとのこと。
◆今までの子ども達にはなかった事態が多発! 新聞社も取材に!
増富:それでは、新型コロナウイルスによる自粛後に、病院で診る患者さんから感じ取る印象についてきかせてください。
岡野:今回の新型コロナウイルスによる休校明けの子供たちに、かつてなかったほど疲労骨折が多発しているんです。これくらいで? と思うような少しひねっただけとか、ぶつけただけで骨にひびが入ったという子供も受診してきます。
増富:今までとは違うのですか?
岡野:毎年、新年度初めや長期休暇後には疲労骨折の子供たちが多くなる傾向はあるのですが、今回のコロナ禍による学校再開後は、例年の長期休暇後よりはるかに多くの疲労骨折の子供たちが受診してきています。
増富:夏休みなどの長期休暇明けにもあったのなら、不思議なことではないですよね。
岡野:ところが、骨折に繋がる運動強度や、骨折に至るまでの運動時間や運動頻度が、従来のお休み期間明けの状況とは違うんですよね。たった一回の体育の授業でのランニングで数人が受傷したり、部活開始後数日で受傷したり。
増富:なるほど。わかった。今までよりも弱い運動でも、若い子達も骨折するようになったということですか?
岡野:その通りです。さらに言うと疲労骨折は、通常1箇所に起きることが多いのですが、今回の学校再開後には多発したり、両側に発症したりと今までとは明らかに状況が違うんです。
増富:弱い運動強度でも骨折しやすいというのは、何となく、骨粗鬆症に伴う「いつのまにか骨折」に似ているという感じですか?
岡野:そこまでいうと言い過ぎだとは思うのですが、今までの疲労骨折よりも軽い運動で受傷するのにはなにか怪我をしやすくなった理由があると思うんです。
増富:若い年齢層で、整形外科の専門家がこのように感じるような状態が多発する原因は何があるんですか?
岡野:骨粗鬆症の話に少し戻りますが、前回にお話ししたように、若い頃の骨量を上げるのには運動の強度、頻度や時間が重要といわれています。今回のコロナ禍でのステイホームでは生活強度は保たれる平常時の長期休暇時と異なり、これらの運動の要素すべてが著しく損なわれました。そして骨に重要な日光に当たる時間も著しく減少していたと思います。
◆「ステイホーム骨折」
増富:ステイホームで骨がもろくなったということですか?
岡野:骨がもろくなったとまでは言えないと思いますが、今回の子供たちの疲労骨折の増加の背景には従来の疲労骨折と異なり、運動負荷の問題だけでなく骨側にもなんらかの強度の問題が起きているのではないかと思うようになったんです。
増富:だとすると、中高生のみならず、どのような年齢層でもステイホームの影響が骨に出る可能性がありますね?
岡野:あると思います。今回の子供たちの疲労骨折が多発している状況を、単なる、いつもより長かった長期休暇明けの疲労骨折と考えるべきではないと思います。ステイホームによる骨への悪影響を考え、警鐘をならすべきだと考えるようになりました。今回のこの状況での疲労骨折は「ステイホーム骨折」と呼んでもよいのではないかと思います。
次回は「ステイホーム骨折に対する対応」そして、新型コロナウイルス感染の第二波も囁かれる中、「ステイホーム骨折の予防」のための提言を。若い世代の女性をはじめ、中高生の成長期の子ども達にも重要な提言を岡野先生がします。
話し手:特定医療法人博俊会 春江病院 副院長 岡野 智
1995年3月 金沢大学医学部卒業
特定医療法人博俊会 春江病院 副院長
整形外科 関節温存・スポーツ整形外科センター
整形外科医の視点から、関節温存に重点を置いたリウマチ診療と、スポーツに関わる子供たちの問題に取り組んでいる。これらの疾患に対する多職種協働アプローチも模索中。
専門分野は、関節外科、スポーツ障害・外傷、関節リウマチ、骨粗鬆症、リハビリテーション。
資格:医学博士、日本整形外科専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本リウマチ学会リウマチ専門医
所属学会:日本整形外科学会、日本リウマチ学会、日本整形外科スポーツ医学会、日本人工関節学会、日本リハビリテーション学会、日本骨粗鬆症学会
聞き手:国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長 増富健吉
1995年 金沢大学医学部卒業、2000年 医学博士。
2001年-2007年 ハーバード大学医学部Dana-Farber癌研究所。2007年より現職。
専門は、分子腫瘍学、RNA生物学および内科学。がん細胞の増殖と、コロナウイルスを含むRNAウイルスの増殖に共通の仕組みがあることを突き止めており、双方に効く治療薬の開発が可能かもしれないと考えている。
専門分野:分子腫瘍学、RNAウイルス学、RNAの生化学、内科学。
趣味:筋トレ