緊急事態宣言は解除されましたが、長かったおこもり生活が、私たちの日常にいろいろな変化をもたらしました。その代表的なのが“韓流ドラマ沼”に落ちたことでしょう。ヒョンビンの『愛の不時着』、パク・ソジュンの『梨泰院クラス』と次々に大ヒットしました。
初めて、あるいは久しぶりに韓ドラにハマった人が多い今、韓国大衆文化ジャーナリストの古家正亨さんは、「『愛の不時着』や『梨泰院クラス』をきっかけに、ぜひ他の韓国ドラマにも関心を持って、観てもらいたいですね。もっと深い世界が待っていますよ」といいます。
今回は特に『愛の不時着』で“ヒョンビンロス”になった人のために、古家さんおすすめのヒョンビン出演の3本のドラマを紹介してもらいました。
ツンデレの元祖『私の名前はキム・サムスン』(2005年)
今でこそ韓国ドラマ、特にラブコメにおいて当たり前になっている男性主人公の要素のひとつである“ツンデレ”キャラ。実は、このドラマでヒョンビンが演じたイケメンのレストランオーナー、ヒョン・ジノンが、その元祖だといわれています。
この時、ヒョンビンが築き上げたツンデレの世界観が、今に至るまで韓国ドラマの根底に流れているので、『キム・サムスン』を観ない理由はありません。相手役のキム・ソナを女性でありながらパティシエという設定にしたことも、当時としては斬新で、日本のトレンディードラマ的な要素を取り入れた、ほぼ初めての韓国ドラマとしても知られています。
2人のキャラクターはもちろん、ヒョンビンの放つグサッと刺さるセリフ、そして、OST(オリジナル・サウンドトラック)… すべてが一流で、韓流ラブコメ史に残る傑作として、今もなお、よく観られている一作。当時韓国で視聴率50%を超える数字を記録したのも納得です。
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韓流ドラマ的ではない面白さの「彼らが生きる世界」(2008年)
放送当時、韓国ではそれほど視聴率がよくなく、日本でも話題にはなりませんでした。その理由は、韓国ドラマ的要素は極力削いで、比較的、落ち着いた雰囲気で進行するからだと思います。
しかし、テレビ局のドラマ制作現場を舞台とした、いわゆる業界モノに、複雑な人間関係を絡めたそのストーリーは、個人的にとても面白かったですね。
このドラマをきっかけに、ヒョンビンの演技がさらに一皮むけたと感じます。相手役のソン・ヘギョは2016年の大ヒットドラマ『太陽の末裔』でも知られていますね。
二人の恋模様は、ドラマ当初から付き合っていて、別れて、また付き合って… というもので、当時の韓国ドラマの中では、その展開の早さは、珍しかったかもしれません。
それにしても、このドラマの主人公の美男美女の2人。ただ画面に立っているだけで、画になるだけでなく、なにかが起こりそうと感じさせるのだから恐れ入ります。
あのヨン様人気を超えたかもしれない「シークレット・ガーデン」(2012年)
「魂の入れ替わり」という、言ってみればありふれた設定ではあります。
ところがこのドラマは、主人公キム・ジュウォンを演じたヒョンビンの存在感によって、韓流ドラマ史に輝くウエルメイド作品になってしまったんです。
どんな女性をも虜にするルックスと財力。つまり極めつけの御曹司。それに加え、超わがままな性格の持ち主。まさに少女漫画に出てきそうな主人公を彼が演じることで、本当にそんな男性が存在するんじゃないかと感じさせるんですね。
そんな彼が、女性に入れ替わった後に見せる、そのささいな仕草、表情一つ一つが、実に女性らしく、まったく別人が演じているような演技力で、観るものを虜にしてしまう。
日本で放送された時期には、ヒョンビンが兵役に行ってしまっていたことなどもあって、『冬のソナタ』のようなヒットにはなりませんでしたが、もし、いろいろなタイミングが合っていたら、ヒョンビン人気はヨン様を超えていたかもしれません。
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“ヒョンビン沼”は、『愛の不時着』の38度線にだけあるのではありません。韓国ドラマヒストリーに残る『私の名前はキム・サムスン』『シークレット・ガーデン』。それに大ヒットこそしなかったけれど一味違う『彼らが生きる世界』でも、ハマって欲しいです。
構成/新田由紀子
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古家正亨/ふるや まさゆき
ラジオDJ/テレビVJ/MC、韓国大衆文化ジャーナリスト。大学の客員教授の顔も持つ。韓流ドラマ、K・POP、食をはじめ、韓国のさまざまな文化や魅力を20年余に渡って日本で紹介し続けている。レギュラー番組は『古家正亨のPOP★A』(NHKラジオR1 毎週水曜日21時5分~)他多数。2020年4月にスタートしたYouTube『ふるやのへや!』も好評。Twitter:@furuyamasayuki0