胎児を守るために。女性とウイルスの関係性
新型コロナウイルスに対する有効な治療法がない現状で、とりわけ、妊娠中の女性は大きく二つの観点で不安を抱いているのではなかろうか。
自身に及ぼす影響と、お腹の赤ちゃんに及ぼす影響。妊娠中はそもそも赤ちゃんに対する不要な免疫反応を抑えるために、全体的に免疫活動は「自粛」気味になっている。そのため、ウイルスなどの外敵に対しても活動が鈍くなっているので、症状も強く出てしまう可能性もある。
さらには、お腹に赤ちゃんが居ることによる横隔膜の可動域も制限されるという物理的な要因も加わり、呼吸による換気も低くなる。こうした状況で肺炎が誘発されるような場合には、重症化することが懸念される。
また、お腹の赤ちゃんに対する影響は、残念ながら現時点では人類は全く答えを知らない。妊娠中の女性はとりわけ新型コロナウイルスに感染しないように用心するしかないという状況に思える。
◆妊娠中の風疹
先日、区から「風疹の抗体価の測定」と「風疹の予防注射」のセットのクーポン券が私宛に送られてきた。風疹とは風疹ウイルスによる感染症であり、発熱と小さな赤い発疹が体に出るのが主な症状で、大概は特に重篤な合併症を併発することもない、別名、「三日ばしか」と呼ばれるくらいの感染症だ。
しかしながら、この風疹に妊娠中の女性が罹ると、お腹の赤ちゃんに大きな危険が及ぶことが知られている。先天性風疹症候群といって、赤ちゃんの眼(白内障)、耳(難聴)、心臓(心奇形)に影響を及ぼす。
このことから、とりわけ、女性は妊娠適齢期前までに予防注射で抗体をつけておくことが極めて重要で、基本的には中学校3年生までに女子は予防注射を完了している(はずである)。
ではなぜ、私のような中年のおじさんに、前述のようなクーポン券が送られてきたのか?
それは、我々の世代のおじさん達が、まだかわいらしい小・中学生であった頃の医療行政で、予防接種を受けなかった(れなかった)「男子生徒」がいて「当時のかわいらしい男子生徒達」がいまや、中年のおじさんになって、風疹流行の発生源になる可能性が危惧されているのである。中年のおじさんが「クラスターの原因」になるという聞いたことのあるような構図はもう避けなければと感じてしまう。
◆妊娠する前に抗体検査を
新型コロナウイルスの流行が一段落つく頃でよいと思うが、我が身と将来の我が子を守るために、賢明な女性に一つ提案がある。
それは、可能であれば、そして、少しお金はかかるのだが、妊娠をする前に、一度、風疹の抗体価を調べて頂きたい。そして抗体価が低ければ、妊娠する前にもう一度、自費で予防注射を受けて頂きたい。
我が身と将来の我が子を守るための「予防」を今からしておくことは重要ではないかと、新型コロナウイルスの拡大で不安を抱いている女性を見ていて感じる今日この頃である。そうだ、私は、風疹抗体価のチェックと予防注射を区から頂いたクーポンで受けなければ。
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国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長 増富健吉
1995年 金沢大学医学部卒業、2000年 医学博士。
2001年-2007年 ハーバード大学医学部Dana-Farber癌研究所。2007年より現職。
専門は、分子腫瘍学、RNA生物学および内科学。がん細胞の増殖と、コロナウイルスを含むRNAウイルスの増殖に共通の仕組みがあることを突き止めており、双方に効く治療薬の開発が可能かもしれないと考えている。
専門分野:分子腫瘍学、RNAウイルス学、RNAの生化学、内科学