弁護士堀井亜生さんの恋と仕事のスッキリ法律相談 PART4
テレビで人気の弁護士・堀井亜生さん。人間関係トラブルに詳しい堀井さんが、ダメ男、ダメ上司など、Oggi世代の女性たちがハマってしまったトラブルをスッキリ解決する連載。
第四回目は、外資系のコンサル会社に勤務する遠田恵里香さん(仮名・31歳・年収1500万円)
第三回記事▶︎「優しい彼のギャンブル癖、止めさせることは可能?」弁護士・堀井亜生さんが回答
第二回記事▶︎「結婚秒読みの彼に女装癖が発覚。受け入れたいけど…」弁護士・堀井亜生さんが回答
第一回記事▶︎「小説家志望のDV彼氏。アザができるほど殴られ…でも別れられない」弁護士・堀井亜生さんが回答
◆彼に貸したお金を回収するにはどうしたらいい?
ずっと上司と不倫をしていたのですが30代になりそろそろ結婚しないと! と思い半年前から同世代の男性と付き合い始めました。彼は家電メーカーに勤務していて、年収は600万円。外資系のコンサルの私の年収(1500万円)より少ないですが、仕方ないと思っていました。でもデートはチェーン店や居酒屋しか誘われないのが不満で…。どうせデートをするなら、普段私が行くような素敵なレストランに行きたいなとストレスがたまってしまったんです。
あるとき、私が行きたいお店に行ったのですが、1回の食事が3万円程度だったんです。それを告げたら「僕の1ヶ月の食費がふっとんでしまう」と言われてしまい… 彼はそれ以降、私と食事に行くのを渋るようになってしまったんです。そこで私から提案をして話し合いを行い、解決策として、デート代は全額私が払うことにしました。ただ、おごりではなく私が貸し付けたことにしています。
食事や飲みで私が会計をした後、彼に対して借用書を差し出して「遠田恵里香さんに、◯円お借りしました」とサインをしてもらっています。今のところ30万円ほど彼に貸し付けています。これを取っておけば、もし別れることになっても全額回収できますよね?
◆堀井先生のアンサー
結論から言うと、回収できるとは限りません。貸し付けたという証拠にするためには法的な適正な内容でなければいけないので、一般の方が書いたメモ程度では要件を満たしている可能性は低いです。
適正な借用書を残していたとしても、請求して支払われなかったら裁判をしなければいけません。裁判をして仮に勝訴しても、支払われなかったら給料の差し押さえなどの執行(強制的に取り立てること)をしなければいけません。それには費用がかかりますし、その時に相手に支払えるだけの財産がなければ、執行をしても貸した分を回収することはできません。
… ということで回答を終えてもいいのですが、さらに一歩踏み込んでみましょう。
なぜ恵里香さんがこんなことをしているのか?
もし、男女の収入や立場が逆になり、彼氏からデートのたびに借用書を書くことを求められたら、恵里香さんはすぐに別れたくなると思います。それなのに自分がやってしまっているのは、女性が男性におごるのはおかしいという価値観があるからではないでしょうか。また、相談の文章の端々から、恵里香さんが彼の年収やスペックに満足していなくて、パートナーとして対等に見ていないことが伺われます。
おそらく、恵里香さんは「これはおごっているのではなく貸しているだけ」と思うことで、おごってもらえないこと、自分より年収が低い人とつきあっていることのギャップを埋めようとしているのだと思います。
しかし、彼自身は決してスペックが低い人ではありません。年収の格差がある恵里香さんと交際して、行きたいお店に付き合ってくれて、借用書まで書いてくれるのですから、心優しい人なのだと思います。そんな彼に対しておごってあげたいと思うことができないどころか、おごったお金を返してほしいと思っているような状態では、恵里香さんには結婚はまだ早いと思います。
取材/前川亜紀 イラスト/チカツネナオ
弁護士・堀井亜生
北海道出身、中央大学法学部卒。『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)ほか、各メディア、講演等で活躍。夫婦・男女問題に関するリアルな事例の紹介と解説が好評。著書に『ブラック彼氏 ~恋愛と結婚で失敗しない50のポイント~』(毎日新聞出版)がある。趣味は料理、ピアノ。一児の母。公式サイトはこちら