【対談】きっかけはシェアハウス!? グランプリを獲得したカレーの誕生秘話
好きな飲食店の条件をあげると色々出てくると思います。美味しいというのはもちろん最初に来るものですが、美味しいだけでそのお店を好きになるとは限りません。僕の場合、面白いかどうかも重要なポイントになってきます。
開店時からずっと美味しくて面白い「カリガリ」というお店があります。
渋谷の小さなお店からスタートし、田町に支店ができたと思ったら閉店し、秋葉原に支店ができたと思ったらそこが本店となり、間借りスタイルの支店が各地に増えて… と、紆余曲折ありまくるお店なのですが、とにかく一貫して美味しくて面白いお店なのです。
そんなカリガリが、今年は4万6千人の来場者があった大規模カレーイベント「神田カレーグランプリ2019」で遂にグランプリを受賞しました。受賞したメニューはカリガリの看板メニューであるカリガリカレーと夢眠書店カレーのコラボカレー。
この夢眠書店というのは、大人気アイドルグループ「でんぱ組.inc」の元メンバーである夢眠ねむさんが手掛けるお店なのですが、夢眠さんのファンも多いことから、今回のグランプリ受賞にあたって様々な誤解や憶測が生まれてしまった部分もあるようです。そもそも何故カリガリが夢眠さんとコラボしたのかも意味がわからないという人も少なくないはずです。
そこで今回は、見事グランプリ受賞したカリガリの二木社長と、夢眠ねむさん、そして古くからカリガリのファンである僕による鼎談を行い、コラボからグランプリ受賞に至った経緯を知ってもらえたらと思っています。
▲左から)カレーおじさん\(^o^)/、夢眠ねむさん、カリガリ二木社長
神田カレーグランプリ受賞を狙っているお店にとってはヒントになるようなことも含まれていると思いますし、神田カレーグランプリに対して色々と疑問を持っている方にとっては、そういうことだったのかと納得してもらえるような内容も含まれると思いますので、カリガリファン、夢眠さんファン、神田カレーファン以外の方々にも読んでもらえたら嬉しいです。
カレーおじさん\(^o^)/(以下、カ):改めてグランプリ受賞、おめでとうございます!
カリガリ二木社長(以下、二)、夢眠ねむ(以下、夢):ありがとうございます!
カ:今回、カリガリカレーと夢眠書店カレーという夢のコラボでグランプリを獲得したわけですが、どのようなきっかけでこのコラボが生まれたんですか?
二:ちょっと話が長くなるんですが、僕が昔カリガリを始めた頃、シェアハウスに住んでいたんですよ。まだ今のようにシェアハウスというのがメジャーではなかったこともあって、そこには面白い人や変わっている人が多く住んでいて…。その中に福嶋麻衣子(もふくちゃんの別名でも知られる、でんぱ組.incのプロデューサーであり、でんぱ組.incのメンバーも働いていたライブイベントバーの秋葉原ディアステージなどを手掛けた人物)がいたんです。彼女は当時学生だったんですが、色んなことやってて面白い人だなと思っていて、僕もカリガリ以外にも色々やってたこともあって、意気投合して仲良くなったんですよ。そこからお互いに協力や応援しあっているという関係が、シェアハウスから出た今も続いているんです。その中のひとつに、僕が昔CM音楽の制作会社で企画のお手伝いをしていたことがあるんですが、そこで声優さんを使いたいという話になり、麻衣子に相談したら「それならうちの子で声優志望の子がいるから」という話になり、紹介されたんです。
夢:そうそう。私とりさちゃん(でんぱ組.incの相沢梨紗さん)だったかな確か。その時私は二木さんのこと、声優の怖い人だと思ってたんですよ(笑)
二:そうなの?
夢:だって現場仕切っているし、自分でも声入れてたから、なんか声優の偉い人というか怖い人なのかなって。でも本当はカレー屋さんで(笑)それで、昔ディアステージでランチやろうって話になって、一瞬だけカリガリのカレーを出してたことがあるんですよ。
二:あぁ、そんなこともあったね、そう言えば。
夢:そうですよ。ほんと一瞬で終わっちゃったんですけど、私そこで初めてカリガリのカレー食べて衝撃を受けたんです。田舎から出てきたばかりで家のカレーしか知らなかったんですが、カリガリのカレー食べて「美味しい! お腹があったまる! これが東京のカレーなのか!?」って。それがきっかけでお店でカレー食べるようになったんですが、色々なお店で食べてもやっぱりカリガリのカレーがずっと好きで。
カ:そういえば夢眠さんはカリガリの「公式味見アイドル」という称号持ってましたよね?
夢:あぁ(笑)あれは、私がネットラジオをやってる相方の吉河順央(歌手。ディアステージの立ち上げメンバーの一人)がカリガリ秋葉原店ができる際に関わることになって、私もカリガリ大好きだし、何か応援したいけどできることといったら味見くらいしかできないってことになって(笑)
二:それで、カリガリ公認の公式味見アイドルということになってもらったんです(笑)
夢:でも本当に味見というか、時々食べに行くくらいだったんですけど、カリガリのカレーは本当に大好きなので、応援したいっていう気持ちは凄く持ってました。
カ:つまりおふたりは旧知の仲だったわけですね。今回、それを知らない人からカレーグランプリでコラボすることに対する思わぬ誤解も生まれているみたいで…。せっかくなので、そこからグランプリでコラボメニューを出そうと思ったところまで詳しく教えてもらえますか?
二:はい。まずねむちゃんがでんぱ組卒業して、夢眠書店を立ち上げた時に、突然連絡が来たんですよ。
夢:そうなんです。突然思いついて二木さんに「質問があるのですが、弟子ってとってますか?」って。
二:びっくりしましたよ。「え? どういうこと?」って。
夢:私がやっているお店の夢眠書店はコンセプトとして、小さなお子さんや、そのお母さんの為のお店というのがあるんですが、本屋でありながら飲食もできるんですね。そこのメニューとして、お腹があったまるカレーがあったらいいなぁって思ったんです。
カ:本とカレーの相性の良さは神保町が証明していますものね。
夢:昔から言われてますよね。そういうこともあって、カレー作れるようになりたい! って思って、自分が一番好きなカレーを作れる人から習えたら良いなって思って弟子入り志願したんです。
二:それで師弟関係ということになったんですが、スパイスの効能とか作り方とか教えつつ、夢眠書店で出せる商品を一緒に考えながら作りました。
夢:それでできたのがアップルシナモンカレーだったんです。
二:そしてそれをまずカレーおじさん\(^o^)/がプロデュースしたカレコレ(2019年7月に開催された、全国のカレーの名店が集まったカレーイベント)で出してみたというわけで。
夢:全国の名店が集まるって聞いてたから、怖い人たちかなって思ってたんですが、皆さん本当に優しい方ばっかりで。お客さんも優しくて、アップルシナモンなんて異色のカレーだからどうかなって思ってたんですが、皆さん美味しいって言ってくれて。
カ:確かに美味しかったですよ。他のお店に引けを取らないというか、異色だからこそ今どきのカレーっぽさもあるというか。マニアって個性のある美味しいカレーが好きですから!
夢:ありがとうございます! そのイベントに出させてもらってから余計にカレーにハマったんですよ。もっとカレーで何かできることないかなって考えるようになったり、自分でも食べる回数が急激に増えたり。
二:そのイベントの打ち上げをやったときが、ちょうど神田カレーグランプリの準備期間で、それが話題に上がったんです。今年でグランプリ参加するの5年目で、毎年ギリギリ入賞できずという結果で悔しい思いがずっとあって、どうにかして入賞する為にアイディアないかなぁって。
夢:それで私が、何かまた一緒にやりたいって思っていたのと、カレコレで自分のカレーに自信がついて、もっと色々な人に食べてもらえたらって思ってたこともあって、「良かったら一緒にやりませんか?」って提案したんです。
カ:なるほど。そういう流れだったんですね。
二:それでね、これ、強調して欲しい所なんですが、ねむちゃんってYAZAWA的な所があるんですよ。
カ、夢:は?
二:YAZAWAって一人称がYAZAWAじゃないですか。
カ:あぁ、自分のこと「YAZAWA」って言う時ありますね。
二:そんな感じで、ねむちゃんの中に本人と、もう一人「夢眠ねむ」という人が存在している気がするんです。それで神田カレーグランプリを一緒にやろうということになった時に、僕が「今年は入賞したいなぁ…」って言ったら、ちょっと怒られたというか、ねむちゃんが「夢眠ねむが真剣に取り組んで、できなかったことはないんです! だから、今回も優勝するんですよ!」って言われて、何というかYAZAWA的説得力があって、僕も本気にならざるを得なくなったというか、その言葉を聞いて本気で勝ちに行こうって思えたんですよ。
夢:え? 私そんなこと言ってました?
二:言ってたよ、確かに。「私が」じゃなくて「夢眠ねむが」って言ってて、カッコイイなぁって思ったの覚えてるもの。それで僕が師匠のはずなんですが、この人について行こうみたいに立場が逆転しちゃって(笑)
夢:えー!? そうだったんですか?(笑)
二:そうだよ。ねむちゃんが引っ張ってくれたみたいなところあるよ。実際ね、ねむちゃんがそこまで本気なら、こちらも夢眠ねむに恥をかかせるわけにはいかない! ってことで、仕込む量もリスク覚悟で増やしたんだから。
夢:そうなの!?
カ:結果的にその増やした量は完売になったんでしたよね?
二:そうなんですよ。今回、実は過去5年で一番多い数を用意したんです。具体的に言っちゃいますけど、1,700食を2日分、つまり3,400食です。それが両日共完売となりまして。
カ:凄い数! そしたら今回の得票数とそれほど差はないわけですね。
二:そうですね。本当に沢山の人がうちのカレーを食べてくれて、それがちゃんと票につながったのが嬉しいです。だから例年の量だったらグランプリ取れてなかったかもしれないし、ねむちゃんが本気にさせてくれて、仕込み量増やしたからこそだなって。
※神田カレーグランプリ決定戦の投票ルールを簡単に説明します。当日会場に来場し、カレーを各店舗で1食買うごとに投票権を1枚もらえます。最終的にどこに投票するかは参加者の自由であり、例えば5店舗食べたとして、その5票を一番美味しかったと思うお店に投票するのも良し、一番美味しかったお店に3票、二番目に2票と分けて投票するも良しというルールになっています。売れた数がそのままグランプリの得票数になるわけではないのですが、過去のグランプリを見ていると売れた数と得票数はほぼ比例していると言えるでしょう。
カ:なるほど。それで得票数もしっかりと伸びて、結果的に2位以下を約1500票という大差で引き離す圧倒的得票数でグランプリになったというわけですね。
二:今年の結果を見たんですが、昨年の仕込み量のままでも、今年の2位にはなれてたと思うんです。ただ優勝はできないというラインでした。でも思い切って沢山作って、みんなで頑張って全部売り切ったからというのは確実にありますね。
カ:それにしても、その大量のカレーを迅速なオペレーションでスムーズに販売する為の工夫はどんなものがあったんですか?
二:参加5年目ということで、過去のデータや他店の動向見て、そのあたりはしっかり作戦考えたんですよ。まずトッピングに凝ってしまうと時間がかかりすぎるということから、今年はトッピングなし。カレーのあいがけのみということで相当早く回せたと思います。行列にならないように提供できたのも良かったなと。
カ:確かに。カリガリめっちゃ早かったもん。これも誤解されている部分だと思うんですが、あのお店は行列だったのに入賞していないとか、あのお店は並んでいなかったにグランプリ取ったとか、それがおかしいって言ってる人を時折見かけるんですが、おかしくないんですよね。行列できているお店は大概トッピングや盛り付けにこだわりすぎて提供に時間がかかっているからこその行列であり、結果的に数はそれほど出せていないから入賞につながっていないっていうのは、僕も毎年見てて思います。
二:まさにそうですね。
夢:あとね、私が嬉しかったのは、私が上京して初めて好きになったカリガリカレーと自分がコラボしたカレーで優勝できたということです。
カ:おお! 良い話!
夢:私の好きなカレーは美味しいだろう! って証明できたかなって。あと、私のファンの方々も沢山来てくれたんですが、ちゃんと言ったんです。「美味しいと思ったら投票してください。思わなかったら投票しないでください」って。そしたらファンの方も「もちろんわかってます」って言ってくれて。
カ:さすが! ファンは推しているアイドルに似るなんてよくアイドル業界で言われることですが、ねむきゅんファンはねむきゅん同様熱くて真剣なんですね。
二:ねむちゃんのファンが来てくれたことによって得票数伸びた部分はもちろんあるんですが、でも、やっぱり結局はねむちゃんが本気になったことにより、僕も本気になり、それによって店員、キャスト全員本気になり、それを見たうちの常連さんも本気になってくれたという、それら全てが合わさってのグランプリだなって感じています。うちの常連さんなんかは、初参加の年から「優勝したらこのサイリウム折ってお祝いします!」って言って、毎年同じサイリウム持ってきてくれてた人がいたんですが、その人にやっと恩返しできたのも嬉しいし。
※サイリウムとはアイドルのコンサートなどで使用する色付きのライト。折って点灯させる。
夢:私そのサイリウム、今日持ってます。その方に「これ、使ってください!」って渡していただいて。
カ:うわー! ドラマチックですね! 僕もカリガリの常連というかファンの一人として思うのは、本当にカリガリファンって熱い人が多いんですよね。ファンだからこそ今年のカリガリの本気度に気づいて、例年以上に推してくれたというのもありますよね。
二:はい。だから本当に今年はみんなで力を合わせて、総合力で取れたグランプリなんだなって思っています。
カ:念願のグランプリ獲得メニューである、師弟あいがけカレー、既にお店でも食べられるんですよね?
二:はい。秋葉原カリガリと、夢眠書店のどちらでも提供しています。
夢:うちのお店はコンセプト的に予約制だったり色々とハードル高いんですが、秋葉原カリガリでうちのカレーを食べてもらえるのは嬉しいですね。
カ:いつ頃までいただけるんですか?
二:とりあえず年内は出そうかなと思っています。
カ:では今後さらなるコラボの予定など、あったりしますか?
夢:またコラボしたいなぁ。今回は二木さんに手伝ってもらった部分がかなり多いんですが、もしやるとしたら今度は完全にイチから自分で作ったカレーでコラボしたいって思います。うちのお店のコンセプトにも合う、お母さんのお腹を温めるカレーというのが、今回のアップルシナモンカレーだとしたら、次はお子さんの口に合うカレーを開発できたらなって。その為にもカレー勉強中で、色々なお店に食べにいったり、作り方を学びに行こうかななんて思っています。
カ:素晴らしいですね! ところで今年グランプリを獲得したわけですが、来年の神田カレーグランプリは出場するんですか?
二:出たいですね。ステージでまた歌いたい。
カ、夢:そっち!?(笑)
※神田カレーグランプリ決定戦では、出場店舗が自分のお店のカレーをPRする為にステージでプレゼンする時間があるのですが、カリガリ二木さんはカレーのこともお店のことも全く言わず、フレディー・マーキュリーのコスプレをしてQUEENの曲を熱唱するのが名物となっています。
カ:ステージに立つには、また出場しないといけないですから、来年もぜひ美味しいカレーをグランプリを盛り上げてください。夢眠さん的にはどうですか?
夢:私は神田カレーマイスターになりたいです! 今回のグランプリでも他のお店のカレーをいただいたんですが、美味しいお店が多くて驚きました。色々なカレーを食べてみたいですね。
カ:それも良いですね! 話は尽きないのですが、そろそろお時間でして。最後に何かありましたらお願いします。
夢:今回、私は色々わからない中での参加だったのですが、皆さんのおかげでグランプリ獲得できて本当に嬉しいです。カレーがさらに好きになりました。これからもカレーの勉強をしながら、楽しんでいきたいと思います。
二:僕ね、最後にもうひとつ言いたいことあったんですよ。神田カレーグランプリって、ラーメン屋さんのカレーだったり、ホテルチェーンのカレーだったり、カレー屋さんじゃないところが入賞することが増えてきたじゃないですか。それ自体は全く問題ないんですけど、やっぱりカレー大会なのでカレー屋が勝たないとっていうのはあるので、今回巨大な2企業(今回の神田カレーグランプリ、2位はお茶の水大勝軒、3位はアパホテルのアパカレーでした)にカレー専門店として勝てたってところを「よくやった」と褒めて欲しいなって。
夢:え? でも私、本屋だけど…
二、カ:(爆笑)
夢眠さんはアイドル時代からオリジナルレトルトカレーをプロデュースするなどカレー好きとして知る人ぞ知る存在であり、カリガリは秋葉原店開店当初からアイドルとのつながりが深いお店ですから、アイドルとカレーという文化が融合しているという意味でも最高に相性の良いコラボだったと思います。
僕自身も本業はアイドル関係の仕事がメインであり、カレーについての活動は言わずもがな。だからこそ、今回のカリガリがグランプリを獲得したのは本当に嬉しいことなのです。
美味しいだけではなく、面白いお店であるカリガリ。そしてそのカリガリを本気にさせ、カレー界にも新たな風を吹かせた夢眠ねむさん。今後の動きにも目が離せません。
AKINO LEE カレーおじさん\(^o^)/
ヴォーカリスト、パフォーマーとして自身の活動の他、様々なアイドルの作詞作曲振付プロデュースを担当。ヴォイストレーナーとして後進の育成にも力を注いでいる。
音楽ライターとしても各種雑誌、ムック本などで執筆を担当。また、カレーおじさん\(^o^)/としても知られ、年間平均1000食以上のカレーを食べてきた経験と知識を活かしてTVや雑誌など各種メディアにおいてカレーについて語っている。
http://www.akinolee.tokyo/