ひとりぼっちの時間がなくて、この先どうするんですか?
まず、第一回でお話ししたいのは「ひとりぼっちの時間」の大切さについてです。私たちは恋人や友人、仕事仲間、家族と一緒に生きていて、どの人も必要不可欠な存在です。でも、最初にはっきりと言えることは「人間関係は人生の目的ではない」ということ。
私たちは無意識でも、人の価値観や常識に影響されて、それに合わせようとしてしまうもの。Oggi読者のみなさんも、仕事では上司に認められたいし、部下を育てていきたいとも思っている方が多いでしょう。でも、それって「他人の期待に応えるための時間」であって、「自分のための時間=ひとりぼっちの時間」ではありません。
ひとりじゃないとできないことがあるんです
ひとりでは寂しいから、あるいはつきあいで… などといった交流ばかりにとらわれると、自分ひとりでしかできないことが遅れてしまうのです。たとえば、映画鑑賞や運動なんかはだれかと一緒にすることもありますよね。でも、「このシーンのセリフがどうしても気になる」「このステップが思うようにできなかった」など、深く掘り下げたい、もう少しで完成できる、という「引っかかり」と向き合うことで、個性は磨かれるもの。みんなと一緒にやるのは楽しいけれど、こういうことは、ひとりじゃないとできません。
だから、僕が言いたいのは「ひとりぼっちは悪いことじゃないんだよ」という生優しい提言ではなく、「ひとりぼっちの時間がなくて、この先どうするんですか」という、とてもスパルタな提言なのです(笑)!
僕の場合ですが、待ち合わせ時間に30分遅れますと連絡をもらうと、「やったー」って思うんです。その時間で本を読んだりできるから。時間に遅れた人に怒るなんてことは、100万%ない! また、30分という区切りがあるから集中もできます。これを「豊かな時間」と呼ぶ人もいるけれど、豊かってプラスαのことだから少し解釈が違っていて、僕にとっては「必須の時間」。
マジョリティーに合わせて仕事や趣味をやっていると、本当の満足感や喜びを得ることはできません。人が流してしまう部分でも自分は引っかかったなら、それを何度も見たり、聴いたり、書いたり、反復して自分に「染み込ます」ことで、自分にしか表現できないものへと磨いていくんですね。
日本では周囲のペースに合わせることを「きちんと」と言いますが、これが実は不真面目のはじまり! そうして「きちんと」やればやるほど、自分の心に対してずさんになってくるし、「納得した」という感覚が鈍るんです。自分が引っかかったものについて満足いくまで理解し、ブラッシュアップすることが本来の「きちんと」なのに。
「喜びは細部に宿る」と言いますが、まさにその細部を掘り込む作業はひとりでしか絶対にできないもの。もう一歩踏み込んだらもっと楽しい世界が待っていることを、ぜひOggi読者のみなさんにも体験していただきたいです。
2018年Oggi5月号「名越康文の奥の『ソロ』道」より
イラスト/浅妻健司 構成/宮田典子(HATSU)
再構成/Oggi.jp編集部
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なこし・やすふみ
1960年、奈良県生まれ。精神科医。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など幅広く活躍中。著書に『SOLO TIME 「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)ほか多数。