さまざまな才能が集うシェアスペースに住んでみた
「自室に調理器具を備えていないので、朝も夜も共有キッチンを使っています。6人前とかを一気に作ってくれる人もいて、LINEグループで『今日ごはん食べる人~!』なんてメッセージが流れてきて、住人同士のコミュニケーションが楽しいです。シェアハウスって経済的な節約を主目的にするケースが多いと思うけれど、ここは少し違っています」
そう語るのは、ソニー株式会社TS事業部部門Incubation Officeに所属する森原まやさん。Oggi3月号の1か月コーディネート企画の舞台となった“Cift(シフト)”は、昨年春、渋谷にオープンした“SHIBUYA CAST.”の13階に位置する。住居とワーキングスペースが一体となった新しいシェアスペースで、森原さんはその施設で住人のひとりとして生活を送っている。
「“Cift”で暮らし始めたきっかけは発起人の藤代健介さんとの出会いから。私のソニーでのミッションは、『社内外のメンバーを巻き込んだチームやプロジェクトを作って、共に新しい体験やプロダクトの企画をつくり出すこと』。日々、一緒に活動いただけるクリエイターさんや面白い活動をしている方を探したりしているのですが、『ぜひ会ってみてほしい人がいます!』と後輩に連絡をもらって紹介されたのが藤代さんでした。
“Cift”がコンセプトに置いている“拡張家族”というアイデアがものすごく新しいし、聞けば聞くほど興味が湧いて来て。仕事はもちろん、大事にしている考え方や描いている未来について話しているうちに、『一緒に住みながら、アイデアを考えようよ!』という提案を受けて、思いもよらなかったその実験的なアプローチに、『わっ、それは面白そう!』と魅力を強く感じました。」
▲開かれたスペースは“Cift”だけでなく“SHIBUYA CAST.”のレジデンスで暮らす人々も自由に出入りができる
「私が所属しているTS事業部門は、ソニーの既存事業の枠に縛られず、新しい体験を創出・提供していくことがミッション。これを実現するためのマネジメントの強い想いもあって、“既成概念にとらわれない。今までにやったことのないことをやる”というカルチャーが根付いています。
一般的な協業のスタイルとは異なり、“ソニー社員である私自身が、40人のクリエイター(※“Cift”に暮らす住人の数)と一緒に住むこと”を条件にした新しい形のプロジェクトの提案でしたが、上司に提案したところ、『面白そうだし、森原が良いならやってみたら』とGOを出してもらえました。
そんなふうに、実験的なアプローチに可能性を感じてもらえて、フレキシブルに挑戦させてくれたことはもちろん、色んな人との輪を広げることが好きな私の性格をよく理解してくれていて、森原らしいなぁと言ってもらえたのが、なんだかとても嬉しかったです」
シェアスペースで暮らしながら働くって、どんな感じ?
▲大人数で語らうこともできるキッチン&ダイニングスペース。
「とはいえ、仕事という面だけではなく、シェアハウスで暮らしたこともないし、都心よりも少しでも自然の多い郊外が好きな私にとっては、“拡張家族”という新しいコンセプトのもとに集まった40人と渋谷のど真ん中に暮らすということは、生活そのものが実験すぎるというか、もはや人生がガラリと変わる予感しかしなかったです(笑)。
“Cift”発起人の藤代さんが、あるイベントで『40人が一緒に暮らすだけでなくて一緒に働くということをすごく意識しているから、その中でいろんなプロジェクトやビジネスが起こる。なぜそれが起こるかというと、みんなが自立しているから』という話をしていました。それを聞いたらとても腑に落ちたんです。
ここは、支え合いを目的としたシェアはもちろん、自立した個人の集まりだからこそ、各々が持つ知識やつながりを生かし合いながら発展していく関係が生まれる場所。“Cift”に入ってから、ビジネスを含め、人生そのものが変化しスケールしていく面白さや、自分の価値観が壊されてアップデートされるような感覚に日々直面しています」
▲ソニー のグラスサウンドスピーカー(LSPX-S1)。森原さんのチームが企画・開発した商品で、Ciftでも使われている
「今回、私が注力しているのは、TS事業部門が生み出した“空間を変えることで、暮らしに新しい体験をつくり出す”Life Space UXというコンセプトと、“Cift”の掲げる“拡張家族”というコンセプトを融合させて、商品アイデアを検討すること。
アイデアのヒントを見つけたくて声を掛けたところ、住人やその知人を合わせて10人くらいのメンバーが集まってくれて、それぞれが考える家族観や過去の経験について対話する時間を持ったり、考えたアイデアについて意見をもらったりしました。居住空間のためのプロダクトを考えているからこそ、実際に生活をしながら検討することは大事ですし、何よりも、新しい暮らし方を実践しようとしているメンバーの視点を知ることで、はっとすることが多かったです」
▲個性豊かな住人たちの部屋が連なる。多拠点生活を送る人も多いため、住人全員が揃うことはまれ
「“Cift”では、リビングやダイニングで『こんなことできたら面白いよね!』とか『こういうことを目指しているんだよね』といった日常会話から、新しいプロジェクトがどんどん生まれていくんです。私自身も、“Cift”のメンバーが企画しているイベントに関わったり、別のメンバーとの商品開発プロジェクトが始まっています。
描いている夢ややりたいことを、当たり前のようにみんなで話せるのが素敵だなと感じるし、実際に動き始めることができる。ここで暮らすようになってから、私自身も今まで以上にやりたいことが増えています」
森原さんの今後は…?
▲小柄ながら強い光が宿る瞳。楽しい暮らしぶりが伝わってくる
「入居してから数か月経って、改めて生き方について考えさせられました。それは、暮らすことと働くことが一緒になっているからということもあるし、“拡張家族”という考え方や、40人全員合わせて100を超える国内外の生活拠点や肩書きを持つメンバーと過ごすことで、色んな生き方がより身近になったから。
また、年末年始は、ほぼ“Cift”メンバーで構成されている会社が企画しているグアテマラへのリトリートツアーに参加したのですが、世界一美しいと言われるアティトラン湖を臨みながら自分と見つめ合って、それもとても良い機会になりました。新しい拡張家族との生活実験をしながら、より豊かな世界を描きたい。そうして、私自身もとする生き方を実現していけるといいな」
技術革新により人も企業のあり方もめまぐるしく変化する時代。新しい働き方や暮らしを知ることで、改めて自身のライフプランを見つめ直すきっかけとなれば幸いです。
シェアスペースで暮らす人#1【石山アンジュ】さんの記事はこちら
撮影/豊田和志 構成/村上花名(本誌)