消費税が上がる10月が近づく中、家・車・ブランドバッグetc.大物を手に入れるならホントに「今」なの? ファイナンシャルプランナーの方に教えていただきました。
【消費税が10%になる10月までに買っておくべきものは?】
教えていただいたのは・・
ファイナンシャルプランナー・高山一恵さん
1974年生まれ。女性のためのファイナンシャルプランニングオフィス「エフピーウーマン」の設立に参画、取締役を務めた後、退任。'15年より「Money &You」取締役に。多くの人生の転機を迎える女性たちに向けて、お金の知識を発信し続けている。
「増税前に駆け込むのは損!? 増税後のメリットにも注目を」
Oggi編集部(以下Oggi):これまで何度か延期されてきた消費税の増税ですが、今年10月、今度こそ上がるんですよね? なぜこのタイミングなんですか?
高山さん(以下敬称略):ひとつには、今年4月に行われる統一地方選挙の影響が大きいでしょう。選挙前に増税すると与党は票を集めにくくなるので、ひとまずやりすごしたいという事情があります。また、2020年の東京オリンピックに向けて景気はジワジワよくなっていくので、今年10月の増税ならそれほど消費が冷え込まないだろうと見込んだ結果ですね。
Oggi:そうはいっても、私たち消費者としては、どちらにしても支出が増えるわけで…。
高山:仮に年収が400万〜500万円の場合は、1か月の支出は3,000〜4,000円増えると試算されています。
「焦っていらないものまで買うのがいちばんの損です!」
Oggi:結構多いんですね(汗)。そう思うと、税金が上がる前に大きな買い物はしておいたほうがいいのでしょうか。車とか家電とか…家、とか?
高山:実はそう考えるのがいちばん危険! 焦って要らないものまで買ってしまう人が多いんです。過去の消費増税を振り返ってみても、増税直後は大物ほど値段が下がるんですよ。消費税が5%から8%に上がった2014年の話ですが、増税前はたくさんのお客さんが車のディーラーに駆け込むので売るほうも強気だったけれど、増税後はお客さんがパタリと減って値引き交渉がしやすくなったと聞きました。それに政府は、増税後に景気が悪化することを恐れています。だから、ほかの税金を下げたり給付金を支給したり、さまざまな対策を打ち出しているんですよ。
Oggi:あ…そういえば、8%に上がったときも「プレミアム商品券」なんてものがありましたね。
高山:購入した金額より多い金額分の買い物ができるよう、政府が上乗せした商品券ですね。今回も検討されています。中小の小売店で買い物をするとき、クレジットカードや電子マネーなどで決済すると、5%がポイント還元されるという取り組みも実施されます。
Oggi:車や住宅についても、優遇措置はあるんですか?
高山:車に関しては自動車税が減税されます。住宅は今すでに、家を買ったときに所得に応じて受け取れる「すまい給付金」という制度があるんですが、その支給額が、これまの最大30万円から最大50万円に増えます。給付を受けるための所得制限も、年収775万円以下(目安)まで引き上げられるので、利用できる人は多いのでは。
Oggi:なるほど、ちょっと冷静になって利用できる制度なども確認したほうがよさそうですね。
高山:いずれにしても、「増税前に買わないと損!」といったセールストークには、くれぐれも乗せられないでください。
Oggi:逆に、増税前に買っておいたほうがいいものは?
高山:値段が変わりそうにないブランド品や、増税に便乗して値上げする可能性もあるチケット類は、有効期限に注意しながら増税前に買っておくとよいかもしれません。必ず使う日用品も、ある程度買いだめするのはよいのでは?
「消費税8%と10%の間で…軽減税率が難しい!」
Oggi:そもそもですが、消費税って上げなきゃいけないんですか? きちんとしたことに使ってくれるのなら納得もしますが…
高山:一応、社会保障全般に使われるということになっています。10月からは所得制限があるものの、保育園・幼稚園の無償化も始まります。今の日本の社会保障制度は、人口が右肩上がりだった時代を前提に設計されているので、少子高齢化で人口が減る一方のこれからは、増税で賄っていく必要があるのかな、とは思います。
Oggi:私たちの老後にも関係するということですね。
高山:もちろん介護や年金の財源にも充てられるでしょう。税金にはさまざまな種類がありますが、国民みんなに等しくかかる消費税を社会保障費に充てるのは適切だというのが政府の見解です。
Oggi:消費税が平等にかかと格差が広がる、という話も聞いたことがあります。
高山:確かに、低所得の人ほど、所得に占める生活費など消費の割合が大きいので、消費増税の影響を大きく受けると試算されているんですよ。その対策として、今回日本で初めて導入されるのが「軽減税率」です。
Oggi:聞いたことがあります。生活必需品の消費税は上がらないんでしたっけ?
高山:はい。外食やお酒を除いた食料品は消費税8%のままになります。たとばファストフード店の料理は、店内で食べれば外食とみなされて消費税10%、持ち帰りにすれば8%、といった具合。また、アルコール分1%未満の「みりん風調味料」は8%ですが、1%以上の「みりん」はお酒とみなされて10%になります。
Oggi:ややこしいですね。
高山:軽減税率自体は、欧米を中心に導入している国も多いんです。ちなみに、何を軽減税率の対象にするかはお国柄が表れていて、ちょっと面白いんですよ。たとえばイギリスでは、お菓子などの嗜好品には消費税が20%かかるんですが、ビスケットは生活に不可欠な食品だとみなされて非課税なんです。
Oggi:さすが! アフタヌーンティーの国だから!(笑)
高山:フランスでは国内産業を保護する観点で、国産のトリュフやフォアグラは軽減税率の対象で消費税が5.5%なんですが、輸入品のキャビアは20%。酪農家がつくるバターは軽減税率だけれど、工業製品であるマーガリンは20%になるんだそうです。
「消費税増税に対して私たちができること」
Oggi:いろいろ複雑ですね。
高山:諸外国でもトラブルがないわけではないようです。日本でも消費税増税直後は、お店などの現場は混乱するでしょうね。一方ですでに、このような変更に対応するシステムを整備している会社の株価が上がったり、システムエンジニアの求人が急増したり賃金が上がったりと、変化も起こり始めています。「軽減税率が導入されることで株価が上がる企業はどこだ?」と、投資を始めている人も。
Oggi:なるほど! そういう見方もあるんですね。
高山:また、先ほどクレジットカード決済のポイント還元の話が出ましたが、これは、国がキャッシュレスをオリンピックに向けて一気に進めようとしていることの表れでもあります。キャッシュレス化することでお金の流れを透明化して脱税を防止したり、人口が減って人手不足になる未来に備えて決済業務を効率化する狙いもあるでしょう。消費者としてだけではなく、消費増税によって経済や社会全体がどう動くのか、もう少し広い目で見てみると、「消費税が上がって困る!」というだけではない側面が見えてくるかもしれません。
Oggi:そうはいっても、私たちは結局何を、どう備えたらよいのでしょう? 月に3,000〜4,000円を節約しなくちゃいけないとなると、友達との食事を1回減らすとか? それはちょっとイヤかも(苦笑)。
高山:これを機にムダな支出がないか、家計を見直すのは大切だと思いますよ。ただ、今後税金が上がる一方なのは目に見えています。今の社会保障制度を維持するためには、2050年には消費税を21%まで上げないといけない、という試算もあるほど。それまで、増税のたびに節約していくのは限界がありますよね。ここは発想を転換して、収入を上げる方向に舵を切るのもひとつ。投資を始めてみるのもいいと思います。もうひとつの方法は、節税!
Oggi:税金は払うしかないんじゃないですか? 節税対策をするほど資産があるわけでもないし。
高山:日本人は順応性が高くて税金が上がっても粛々と受け入れる人が多いんですが(苦笑)、払わなくていい税金、というものもあるんです。読者のみなさんのように、ふつうの働く女性でもできる節税もあるんです。たとえば「ふるさと納税」ってご存じですよね?
Oggi:はい。でも確か、お返しが豪華すぎると問題になっていて、お得感が今後は減るとか…?
高山:返礼品の豪華さに気をとられている人が多いんですが、本当のうまみは、所得税・住民税の還付・控除が受けられることです。また「iDeCo」という個人型確定拠出年金も、掛け金が全額所得控除の対象になります。ちなみに運用利益や、積み立てたお金を受けとるときも、一定の金額以下であれば非課税で受けとれます。
Oggi:そうなんですか! 投資は怖いし手続きがめんどうくさそうで、真剣に検討したことはありませんでした。
高山:納めるものは納めつつ、しっかり稼いで、賢く節税する。どうせなら、消費増税をそんな体制をつくるきっかけとしてとらえてみてください。
【「軽減率」とは? 消費者8%のまま買えるモノ】
原則として飲食料品は軽減税率の対象。対象とならない「外食」とは、テーブルやカウンターのある場所で食事を提供するもの(コンビニのイートインコーナーなども含む)。ケータリングも食事の提供にあたり、軽減税率の対象外。新聞は、定期購読契約が結ばれ週2回以上発行される新聞のみが対象となる。
消費税8%のまま:飲食料品、テイクアウトの食品、定期購読の新聞etc.
消費税10%に増税:お酒、外食、ケータリングetc.
【増税前に買うべき!? チェックリスト】
増税前がトク!
✔︎ 高級ブランドのジュエリーやバッグ
✔︎ 年間パスポートなどのチケット
✔︎ コンタクトレンズなどの絶対に使う日用品
焦らなくてOK!
✔︎ 住宅 ⇒「すまい給付金」の条件緩和・給付額UPの予定
✔︎ 車 ⇒ 自動車税が減税に
✔︎ 家電 ⇒ 値下がりする可能性大
「ちなみに、キャッシュレス決済すると5%ポイント還元される制度も!(中小規模店のみ)」(ファイナンシャルプランナー・高山一恵さん)
【増税の覚えておくべきキーワード3つ!】
【1】少子高齢化
15歳以下の「年少人口」が急激に減り、65歳以上の「老年人口(=高齢者)」が急激に増えている日本。総人口に占める高齢者の割合は2018年、過去最高・世界最高の28.1%に。人口の約4割が高齢者になる未来に備えて、社会保障制度をどう立て直すのかが喫緊の課題。
【2】キャッシュレス
日本でのキャッシュレス決済割合は約18%。中国の55%、アメリカの41%などと比べても低水準。政府は2019年10月から9か月間、ポイント還元を行い、中小店舗がクレジットカード会社に払う加盟店手数料の1/3や、決済に必要な端末費用を補助。キャッシュレス化を推進する。
【3】ふるさと納税
応援したい自治体に寄付をすると、特産品などの返礼品がもらえるだけでなく、住民税・所得税の優遇が受けられる。たとえば3万円分の寄付を行うと、寄付額から2,000円を差し引いた2万8,000円分が、住民税(申請方法によっては住民税と所得税の両方)から控除される。
Oggi3月号「Oggi大学『消費税が10%になる前に、買っておくべきものは?」」より
撮影/江口登司郎 イラスト/八重樫王明 構成/酒井亜希子(スタッフ・オン)
再構成/Oggi.jp編集部