1940年、日本初となるはずだった万博のメイン会場は
勝どき・月島から晴海・豊洲へと至る東京湾岸エリアだった
4月11日、日本政府は2025年の大阪万博誘致を閣議決定しました。これを受けて大阪府は博覧会国際事務局に立候補を届け出。すでにパリが立候補を表明しており、来年11月の加盟国による投票で開催地が決定するそうです。会場は大阪市の人工島、夢洲(ゆめしま)。開催期間は、2025年5~11月の予定です。
さて、今回のテーマは、勝どき・月島エリア。なぜ、冒頭、万博の話題から始めたかというと、ご存じのとおり、日本初の万博開催は1970年の大阪。ところが、日本初となるはずだった万博のメイン会場は東京、それも勝どき・月島から晴海・豊洲へと至る東京湾岸エリアだったのです。
時は戦前、1940年(昭和15年)。これも幻となった東京オリンピックと同じ年に万博も開催予定だったといいますから二重に驚きです。この年は皇紀2600年、つまり神武天皇即位から2600年ということで国を挙げての祝賀の年。よって万博の正式名称は「紀元2600年記念日本万博博覧会」でした。月島の沖合埋立地である、月島4号埋立地(現在の晴海です)をメイン会場に、東雲、台場、そして横浜の山下公園も会場予定地となっていました。しかしながら、日中戦争の激化で開催予定の2年前、1938年に中止が決定。まさに幻の万博となってしまったのです。
現在の勝どき・月島エリアは、前回のこのコラムでも述べたようにタワーマンションが続々と建設され人口が増加中。お洒落な店もボチボチ誕生し、タワーマンションに住む「マダム」を称して「シロガネーゼ」ならぬ「カチドキーゼ」という新語も生まれているとか。そして月島といえば誰もが連想するのがもんじゃ。一直線に伸びるもんじゃストリートは平日、土日問わず、いつも賑わいを見せています。昼夜ともに活気のある街、勝どき・月島。まずは、デジタル大辞泉(小学館)の解説を見てみましょう。
【月島】
東京都中央区の地名。隅田川河口を埋め立てて、明治時代に造成された人工島。初め築島(つきしま)といったが、後に「月」の字を当てた。
勝どきは、地名としては検索結果に入っていません。ところが、勝鬨橋は解説があります。
【勝鬨橋】
東京都中央区、隅田川の最下流に架かる橋。築地と月島とを結ぶ。昭和15年(1940)完成。中央部が二つに跳ね上がる架動橋。現在は開閉をやめている。
勝鬨橋は万博会場へのアクセスルートでもあった
このコラムの5回目と17回目で書いたように、築地と佃島・石川島は江戸期の埋立地。月島の埋め立ては1892年(明治25年)の「東京湾浚渫(みおさらい)計画」によるもの。現在の月島は埋立1号地、勝どきは2号地、3号地、晴海は4号地と、明治から大正にかけて次々と埋め立てが進みました。そして、まだ橋がなかったこの埋立地に行くために、隅田川には3つの渡しがありました。佃の渡し、月島の渡し、そして勝鬨の渡しです。
▲勝鬨橋の築地側に建つ「勝鬨の渡し」の石碑。隅田川の橋についての資料を展示する「かちどき橋の資料館」(入場無料)もあります。
1905年(明治38年)に開始された勝鬨の渡し。実はこの年は日本が日露戦争において旅順攻略に続き、黒溝台会戦、奉天会戦、日本海海戦で相次いで勝利を収めた年。この勝利を記念して渡しには「勝鬨の渡し」と命名。後に交通需要の拡大に伴い架橋計画が浮上し、1933年(昭和8年)に着工、1940年(昭和15年)に完成したのが、勝鬨橋だったのです。1940年という年は、先に触れたように東京万博の開催予定年。勝鬨橋は万博会場へのアクセスルートでもあったのですね。
またまた前置きが長くなりました。では風薫る五月の夕暮れ時、この勝鬨橋を渡って勝どき・月島へ向かうことにしましょう。
勝どき・月島探訪_1
超有名店! 立ち呑み屋「かねます」
まず立ち寄ったのは、勝どきにこの立ち呑み屋あり、という有名店「かねます」。橋を渡ってすぐのタワーマンション、勝どきビュータワーの1Fにあります。営業時間は16:00—20:00、水・日・祝日が定休日。水曜日が定休日なのは、築地場内市場の休市日が水曜に設定されていることが多いことによるのでしょう。夕方18:00、店内は既にいっぱいで、店の外に8人ほどの列が。ただ、立ち呑みだけに回転は速いようで、ほろ酔い加減の客が店から出てくるたびに、「どうぞ」と呼び込まれます。
▲かねますの店頭には開店から閉店まで席(スペース?)の空きを待つ客が絶えません。
おしぼりが出された後、「お飲み物は?」と聞かれ、「黒生ビール」。つまみのメニューは黒板に書かれています。かねますに来たらコレ、と名高い2品、生うに牛肉巻きと毛がにサラダをオーダー。
最初は生うに牛肉巻き。たっぷりのうにが霜降肉のさしみに巻かれています。添えられたワサビを加え醤油をつけて口に運ぶと、肉とうにの旨みが交りあい、程よくとろけていく感じ。これまで味わったことのない食感です。
▲これが、かねますイチオシのおつまみ、生うに牛肉巻き。2300円也。うにと牛肉、どちらも好物という人にはたまらない一品です。
次に毛がにサラダ。毛がにの甲羅の中に、かに肉が交ったポテトサラダが。そして、その上にもかにの足の身が甲羅を覆うように載っています。これもかなり贅沢な味わい。喉が渇いていたのでビールをオーダーしましたが、本来なら、極上の吟醸酒を口にしつつ、じっくりと味わいたい一品です。この店に一度立ち寄ると、従来持っていた立ち呑み屋のイメージが一変することでしょう。もちろん、お値段も含めてのことですが。
▲もうひとつの名物、毛がにサラダ。こちらも2300円。カニの甲羅が見えないほどたっぷりのかに肉が乗っています。
勝どき・月島の探訪_2
ミシュランを獲得したことも!居酒屋「肴や味泉」
さて、ほろ酔い加減で月島方面へ歩を進めます。徒歩数分の二軒目は月島1丁目の「肴や味泉」。
日・月・祝日休業で営業時間は17:30-22:00。現在は付いていませんが、過去には2年連続でミシュランの一つ星を獲得したことのある名店。外観は打ちっぱなしのコンクリートに、ガラスと金属のアールヌーボー調の照明、と言っていいのでしょうか、失礼ながら居酒屋らしからぬ佇まい。ですが、店の中はフツーの居酒屋然。このギャップが面白いですね。
▲肴や味泉。右の照明の上部に「味泉」という文字が。この外観を見て日本酒居酒屋だとは思わないですよね。
飲み物は日本酒の品揃えが豊富。銘柄は上部の棚から下げられた短冊に書かれています。小さなグラスで(おそらくは5勺強)供されるので、いろいろな酒を試したくなります。つまみはまず刺身盛合せをオーダー。メニューには「刺身盛合せは一人前1500~2500円より御予算と人数に応じて御用意させていただきます」とあります。そして冷やっこ(450円・コラム21回で紹介した築地・杉寅の豆腐)、だし巻き玉子焼(750円)もプラス。どれも美味でお酒がどんどん進んでしまいます。
▲メニューには「各お刺身の値段は部位、量などにより1000~2000円位ですが、『ちょっとだけ』『たっぷり!!』などなんなりとお申し付けください」とも書いてあります。
▲棚から吊り下げられた日本酒メニュー。どのお酒をオーダーすべきか迷いますね。
この日はオーダーしませんでしたが、この店の一番のウリは穴子。メニューには、「まずは穴子です!!」と書かれており、煮穴子(1500~2000円)、白焼、天ぷら(1500~2000円)、が記されています。また、「刺身で御用意できる日も有ります」との文言も。次回の楽しみにしたいと思います。
勝どき・月島の探訪_3
伝説の日本酒営業マンの店! 立ち飲み居酒屋「つねまつ久蔵商店」
相当飲んで「もう1軒」と、この日、最後に立ち寄ったのは「つねまつ久蔵商店」。まだオープンして1年余りのオシャレ系日本酒立ち飲み居酒屋です。営業時間は月~金が17:00-24:00、土曜日は何と15:00-24:00、日曜日は15:00-23:00。年中無休なのでしょうか。店のfacebookによれば、店長は「白鹿」治郎こと常松治郎氏。「白鹿」を売りまくった、飲食業界では超有名な伝説の日本酒営業マンだそう。その常松氏がセレクトした銘酒がずらりと並ぶこの店の品揃えは、同氏の故郷である島根県が中心。時間は23:00近くにもかかわらず、店内は満員状態。月島で待ち合わせて食事の前に1杯、もしくはこの日のように最後の〆に1杯、という店としておすすめです。
勝どき・月島の探訪_4
ご飲食券をGET!「月島もんじゃ振興会」
というわけで、この日はおしまい。ですが、月島といえばもんじゃに触れないわけにはいかないので、少しだけもんじゃ情報を。何度も通っている方には周知のことですが、月島でもんじゃ店に入る前に立ち寄るのが、東京メトロ月島駅を出てすぐの、もんじゃストリート「西仲通り商店街」入り口にある月島もんじゃ振興会協同組合です。各種土産物を売っていますが、ここで購入するのは同組合が発行する「ご飲食券」。1000円で1100円分が使用可能。そしてもんじゃ店マップをゲットして、いざお目当ての店へ。こういう小ワザって大事ですよね。筆者が行く店はこのところ決まっていて、もんじゃストリートから少し外れた場所にある「片岡」か「けい」。この2店は同じ経営のよう。片岡は月島の「海鮮もんじゃ第一号店」として知られています。
▲月島でもんじゃを食べるにはまずここ、月島もんじゃ振興会協同組合に立ち寄ります。
▲月島ブランドの「ご飲食券」。これを1枚1000円で購入。組合加盟店のどこでも使用可能。
勝どき・月島の探訪_5
日本最大規模の都市型マルシェ「太陽のマルシェ」
タイトルに「昼も夜も楽しい」と書いたのに、昼の風景を全く紹介していませんでした。勝どきで人気のイベントといえば2013年から開催されている「太陽のマルシェ」です。定期開催型の都市型マルシェとしては日本最大規模、と銘打たれているこのマルシェ、場所は勝どき駅前交差点すぐの月島第二児童公園。毎月第2土曜、日曜、10月~3月は10:00-16:00、4月~9月は10:00-17:00の開催です。毎月テーマが設けられ、5月は「Mother’s Marche」でした。色とりどりのキッチンカーをはじめ、約100店舗が出店。農産物、各種生鮮品から加工食品、アクセサリーまで個性的な店が並びます。これからの季節、まさに太陽の下で繰り広げられるマルシェは、昼時の湾岸エリアの賑わいを象徴するイベントと言えるでしょう。
▲勝どきの「太陽のマルシェ」。これは3月に撮影。まだ肌寒かったですが、晴天に恵まれかなりの人出でした。
初出:しごとなでしこ
T.KOMURO
編集者。主として男性向け情報誌の編集長を歴任。2015年5月、住居を築地に移し、愛犬の悟空とともに週末TSUKIJIライフを楽しんでいる。