築地市場の豊洲移転問題は小休止、というか、東京五輪の競技施設見直しに世間の話題はシフトしています。今後事態が動く(つまり過去の責任問題ではなく今後の動向が決まる)のは、1月中旬の地下水モニタリングの調査結果公表後になりそうです。
あちこちの店で「新蕎麦はじめました」
▲文化人の「とろろ淡雪」そば。1030円。左の泡立つつけ汁に、ウズラの卵、そばつゆを入れて好みの味に。
さて、今回の築地、食の話題とするのは「蕎麦」です。魚市場のイメージが強いので、築地と蕎麦、ピンとこないかもしれませんが、そこは食の宝庫、築地。「ないものはない」のであります。早速、築地の蕎麦店を訪ねてみることにしましょう。
その前に、この季節、あちこちの店で「新蕎麦はじめました」という表示を多く見かけます。そして、蕎麦好きの人は、「え? その表示、夏の終わり頃にも見かけるよ」と言うかもしれません。そう、新蕎麦の季節は年に2回あるのです。
「夏新」と「秋新」。前者は6月中旬から8月中旬の収穫、後者は9月中旬から11月中旬の収穫です。一般的には秋新=秋蕎麦のほうが香り、味わいともいいとされています。なので、新蕎麦といえば秋蕎麦、というのが常識となっています。
では、1軒目です。「つきじ文化人」。歌舞伎座からすぐなので、歌舞伎役者の来店も多いとか。老舗ではなく3年ほど前の開店。「新しい老舗」がコンセプトだそうです。なるほど。
予約しておいたのは、店に入ってすぐ右、蕎麦打ち台に接している席。まずはハートランドビールを飲みながら、前菜の「おまかせ五点盛り」を。どの食材も味わい深い旨さです。そして、蕎麦屋といえば日本酒。15種ほどの品揃え。メニューにはそれぞれの銘柄に、燗・常温・冷酒のおすすめが表示されています。蕎麦屋の酒肴の定番、焼き味噌などを食べながら冷酒を数種類いただきます。
▲文化人の「おまかせ五点盛り」。920円。「店主の気分で品書きにあるもの、ないものから厳選」するそうです。
いろいろと楽しんだ後で締めの蕎麦。この店の蕎麦は産地にこだわらず、「日本全国の産地を回り、状態を見極め、厳選」とホームページにある通り、産地にはこだわらない姿勢のようです。店内の石臼でひき、手打ち十割です。今回いただいたのは「とろろ淡雪」。卵白を泡立て、すりおろしたとろろと混ぜてある中にそばつゆをお好みで入れます。蕎麦は細打ち。独特のそばつゆが相まって、実にマイルドな食感。かつ初めての味わい。おすすめです。
旬の食材や日本酒を蕎麦と一緒に
2軒目は「へぎそば処 うち田」。へぎそばは、新潟が発祥の、つなぎに海藻の布海苔を使った蕎麦。へぎと呼ばれる四角い器に、食べやすく小割りされて盛り付けられています。つるりとした食感で食べやすく、喉ごしがいいのが特徴。つるつると、わんこそば的にいくらでも食べられそうな感じ。この店は居酒屋然としており、さすがは築地、海鮮モノだけでなく、旬の食材を生かした創作おつまみもいろいろと楽しめます。もちろん日本酒の品揃えも豊富です。
▲うち田の「へぎそば」。1人前(700円)から4~5人前(3000円)と、人数に合わせて盛り付けてくれます。
さて3軒目。「築地藪そば」です。築地4丁目交差点に位置する築地KYビルB1にあります。創業は明治25年と築地場外のホームページにありますが、これは総本店の上野藪そばのこと。この店は総本店から暖簾分けし、横浜本牧で30余年営業した後、築地に移転してきました。蕎麦だけでなく、築地らしい穴子天丼や大海老天丼も人気ですが、おそらくはこの店にしかないと思われるメニューが「築地おろしそば」です。
写真でお分かりのように、蕎麦の上に小海老の天ぷら、そして一緒の皿に刺身が数種類盛り付けられています。食べ方は様々。天ぷらは塩をつけておつまみ的にいただくもよし、蕎麦と一緒に食べるもよし。そして刺身は普通にしょうゆで食べてもOKですが、供された後、「どう食べるのかな」とポカンとしていたら、そばつゆ(ちょっと濃いめです)でどうぞ、と店の方に言われました。これも初めての味わい。美味しくいただけましたが、人によっては好き嫌いは分かれるかもしれません。蕎麦は北海道産石臼ひきの二八蕎麦だそうです。
▲築地藪そばの「築地おろしそば」。1200円。おそらく他では見ない盛り合わせです。
築地エリアにひしめく蕎麦の名店
最後に、築地にある更科系の蕎麦店2軒を紹介しましょう。1軒は「築地さらしなの里」。創業明治32年という老舗です。そば会席や鴨鍋、軍鶏鍋等のメニューもあり、個室もあるので宴会にもよく使われるようです。
▲築地さらしなの里。地下鉄日比谷線の出口からすぐ。新大橋通りに面した便利な立地です。
もう1軒が「築地 布恒(ぬのつね)更科」。品川区南大井にある名店「布恒更科」店主の息子さんが2004年にオープンしたのがこの店です。もう季節は過ぎてしまいましたが、人気の天ぷらとともに夏の定番となっているのが「冷やしすだちそば」。冷たい出し汁にコシのある蕎麦、その上に薄切りのすだちがたっぷり載っています。猛暑の時季に食べるとすっきり爽やか。おすすめです。
▲築地布恒更科。入り口にかかる信州更科蕎麦の看板が伝統を感じさせます。
さて、以上、築地の蕎麦の名店をご紹介しました。これら5店はすべて築地アドレス、1、2、3、4、7丁目にあり。どうです? 築地の食の奥深さ、感じていただけたでしょうか。
初出:しごとなでしこ
T.KOMURO
編集者。主として男性向け情報誌の編集長を歴任。2015年5月、住居を築地に移し、愛犬の悟空とともに週末TSUKIJIライフを楽しんでいる。