【中村うさぎのお悩み相談室】
「結婚するつもりのない彼。いっそ海外赴任の話に乗ってキャリアアップか、別れて日本で婚活か…」
RU 付き合っている彼に結婚をするつもりはないと言われ……。仕事で海外へ赴任できるチャンスがありそうで、そういうことを考えるか、結婚に向けて、マッチングアプリとかに登録するのか、どう動き出していくのか考えている、まさに最中です。
中村 彼が結婚をまだ考えられない理由はなんなんですか?
RU 2つあって、もうちょい先でもいいかなっていうこと、仕事も楽しいし。もう一つは恋愛のドキドキ感が私には無いみたいな。
中村 家族になっちゃったんだね。
RU そうそうそう。だから、すごい仲はいいんですけど、うん……それ以上でもないみたいな。
中村 ドキドキして結婚したって、ドキドキなんてすぐ消えるのに。
RU 言ってやりたいです(笑)
中村 で、その海外赴任の件なんですけど、海外には行きたいんですか? 行きたくないんですか? まず自分の希望は?
RU 全然違う世界に若干飛び込みたいという気持ちももちろんありますね。日本にいても、たぶん結婚結婚、みたいな。周りも結婚してますし、そういうことで自分が辛くなるんだったら、自分が知らない地でがむしゃらに動いている方がそういうことも全て忘れられるのかなって。
中村 なるほど。仕事は楽しい? キャリアはこのまま続けていきたいという気持ちはある?
RU 楽しい……うーん、もっと語学力を磨けば、もっとお給料も上がりますし、そういったことを考えています。
中村 それは、そうしたいなって思ってるってこと?
RU うーん……本当に1人だったらしなきゃなって感じです。
中村 しなきゃな?
RU 私全然貯金もないですし、保険とかもちゃんと入ってないし、それだったらもっと貯蓄できるようなお給料をもらうべくキャリアアップをしていかなきゃなって。
どっちを選んでも後悔する!? うさぎさんが語る迷ったときの判断の仕方
中村 まず自分がどっちを望んでるのかを明確にする必要があると思うの。日本で結婚する道を選びたいのか、このままキャリアを磨いて海外に行きたいのか。
あのね、どっちが正しいかっていう選択はないと思うんですよ。私はいつも思うんだけど、人生に正解なんてないんですよ。どっちを選んでも、後悔するというか、何かは失くすわけよ。キャリアの道を選んだら、仕事が上手くいかなかった時とか1人で寂しくて落ち込んだりすると、あの時結婚してればよかったって、必ず年に1、2回は思うと思うし、結婚したらしたで、あの時もっと頑張ってキャリアを磨いておけばよかったって、それもやっぱり年に1、2回くらいはね、必ず考えると思うんですよ。
RU そうですよね。しかもこのまま結婚できないで今の状況が続くっていう可能性もあるなと思って。
中村 それはわからないよね。別に海外行ったって出会いはあるかもしれないしさ。海外行ったら結婚できなくなるわけじゃないから。結婚できるかできないか自体は別にそんなに心配することないじゃん。
RU うん。
中村 それよりも、どっちの後悔が自分が耐えられないのかな、と私の場合は考えるんですよ。二者択一の場合ね。
やりたいことを優先して、今まで築いてきたものを捨てるかどうか、みたいな選択に迫られる時があるじゃないですか。捨ててでもやりたいことをやるか、捨てないでやりたいことを諦めるかという二者択一なんだけど、どっちみち後悔すると仮定するわけ。
ただ、同じように後悔するなら、やりたいことを我慢した後悔と、やりたいことのためにいろいろ捨てた後悔と、どっちが自分は耐えられないかなって、そこを考える。私の性格だと、我慢する方が嫌なんですよ。我慢することが嫌いなので、こんな我慢しなきゃいけないくらいだったら、やりたいことやっときゃよかったって絶対思うから。で、やりたいことをやって全て失敗した場合、何か全部を失ったりしてもね、まぁそれは自分が選んだことだから、しょうがないやって。あの時にどうしてもやりたかったんだから、やりたい自分を優先したんだからしょうがないやって思うだろう、と。どっちの後悔の方が自分は納得できるかなって考えたら、私の性格だと、我慢よりもやりたいことをやって色々失敗することの方が耐えられるの。
でも、それって人によるから、正解なんてないのよ。あなたが自分で自分の性格を考慮して決めること。
キャリアを諦めて結婚をして、そこで失うキャリアの可能性とか将来性を失う方が納得できるのか。それとも、キャリアを選んで、今の彼氏との関係とか日本にいる安定感とかね、そういうものを捨てて海外に行って、たった1人で頑張る方が達成感あるのか。そこはあなたにしかわからない。
RU ん~~。
中村 ああ……ていうか、一番の望みは、今の彼氏と結婚したいのかな?
RU はい。一番はそれ(笑)
中村 だよね。それが一番の望みなんだけど、向こうにその気ないのが問題なのよね。
今はまだその気になれないってことなら、何年待てばその気になるのかって話だよね。だから、そこはあなたが待てるだけ待てばいいけど、問題はもうひとつの理由ね。もうドキドキ感がないみたいな話だと、彼はどうも結婚にドキドキ感を求めてるみたいなんで、それは彼の未熟さだと思うのね。結婚がわかってない。結婚なんてしたらあっという間にドキドキしなくなるの。だって、結婚って生活だから。日常だからね。日常にドキドキしてらんないよ。
RU そうですよね(笑)
「結婚生活に対する自分のスタンスを明確にして」
中村 恋愛中はきれいにピカピカにお互いに飾り立てた自分だけど、それが日常生活になっちゃったら、いつまでもそんなサービスしてらんない。そんなの普通に考えたらわかるじゃん。
だから、彼が結婚にドキドキを求めてる限り、彼が未熟なんだと思うし、そんな彼と結婚しても彼が望んでる結婚生活が現実になるとは思えないんだよね。そしたら彼はきっと結婚に幻滅する。で、結婚に幻滅した理由を自分が結婚に幻想を抱いてたんだなっていう風に思ってくれればいいんだけど、あなたのせいだと思っちゃう可能性もあるから……
RU わー
中村 冷静に自分が幻想を抱いていただけなんだ、結婚というのは生活だったんだなと、クールに思えるのか。やっぱりこの女と結婚したのが間違いだったなって思っちゃうのか。そこはちょっと、私は彼氏の性格や考え方を知らないから予想がつかないんだけどさ。
でも、後者だったら最悪じゃない? あなたが悪いことになっちゃってさ。
RU なるほど
中村 だから彼と結婚するのはさ、あんまりハッピーな結果が想像できないですよ。まぁ私の乏しい想像力だからわかんないけどね。人生何があるかわかんないからさ。
でも、キャリアか結婚かの二択であれば、さっきも言ったように、まずは自分に聞いてみる。キャリアとか目指してギスギス英会話を勉強してさ、それも大変じゃん? 英語力身につけて、向こうでたった1人でさ、外国人の中で文化も違うのにさ。
で、その心労とかストレスも考えたら、〝日本で慣れ親しんだ生活を続けつつ結婚した方が自分には向いているのかな〟と、あなたが思うんであれば、結婚する道を選べばいい。ただし、その場合は、彼じゃない人を考えた方がいいかも。
RU 確かに、そうですね。すごい納得してます。
中村 彼氏はともかく、あなたは結婚に何を望みますか? どんな結婚生活を望んでるの?
RU どんな結婚生活……うーん……そうですね、合わなかったら嫌いとかそういう人よりかは、もっと、相手をこの人って決めたなら仲良くなれるように、お互い話し合って寄り添っていけるような人の方がいいですね。だから、ちゃんと話し合える人がいいです。そんな意識を持ってる人。
中村 そうなんだけどさ、うん、分かる。それはすっごく分かるし、家族にとって重大な条件だと思うのね。夫婦はやっぱりお互いの気持ちをちゃんと言い合えないとどんどんギクシャクしてっちゃうから。秘密も抱えることになってさ。
だから相手の考え方も十分に理解してそれでお互いが歩み寄って、上手い着地点を見つけられるような相手だったら本当にベストなんだけども。そういう人かなって思って結婚してみたら全然違ったりとかさ。そういうこともあり得るので、なかなかそれは上手くいかないっていうかさ。
RU うーん
中村 それを防ぐためには。あらかじめ結婚に対する自分自身のスタンスを明確にしといた方がいいと思うの。「私はこういう家族像を思い描いてるの」という……信頼関係とか話し合う関係とかだけじゃなくて、例えば家事の分担とかさ、仕事の分担とか育児の分担みたいなことも、視野に入れて話し合っておかないと、いざ結婚生活が始まったら、「え、お前が飯作るの当然じゃん」みいに、結婚生活に対する役割分担がまず最初からずれてる可能性もあるから、そういうのもよく話し合ってさ。
まぁ、あなたが家事が大好きだったら、それは問題ないんだけど……(笑)
RU いや……(笑)
中村 家事を分担してほしいなって思ってるんだったら相手にその気があるかとか、子供育てるのも結構大変だから「いいよ、半分やるよ」みたいな考え方の人なのか、知っておくことは重要。まぁ言っててやらない人もいるかもだけどさ。
とりあえず事前にね、子供は女が育てるんでしょっていう考え方の人なのか、子供は2人のものだから一緒に育てようって思ってくれる人なのか、そういう価値観のコンセンサスをとっておかないと、リアルに結婚生活が始まったときに、「え?」みたいなことになりがちなので。恋愛中には、そういうとこよくわからないからさ。
なので、もし結婚を選ぶのであれば、そういう「自分の思い描く結婚生活はこういうので、家事の分担はこういう感じで、なんだけど、どう?」みたいな感じの話し合いが事前にされてれば、「結婚する前にそう言ったじゃん」って言えるしさ(笑)
それには、自分の結婚観が明確じゃないと話し合えないわけよ。
RU たしかに。
中村 とはいえ、事前にちゃんと明確にしてても、結婚生活って他人が2人で暮らすことだから上手くいかない可能性もあるわけよね。だからそういうことも考えて、結婚する前から離婚は視野に入れた方がいいと私は思うのよ。一回してみないと分からないことって、いっぱいあるからさ。まぁ、ダメなら離婚するって可能性も考えて。むしろ、離婚しなければラッキーくらいの感じで頑張ってみましょう、みたいな感じで結婚すれば、いろいろ楽だと思う。
ただね、いざ離婚って時にキャリアがあれば、めっちゃ強いわけ。生活力は大事なのよ。経済力を夫に依存してしまうと、本当にクソみたいな夫でも我慢しなくちゃいけなくなっちゃうじゃない?
RU うん
「経済力があれば自由だけど、自由と安定は両立しないんだよ」
中村 私が最初の結婚に失敗したと気づいた時、離婚に踏み切れたのは、自分の経済力に自信があったからなのね。そこは重要なポイント。
でさ、離婚した当初はみんなめちゃくちゃ寂しいの。あと、不安なのね。経済力あってもさ、これから私一人で生きていくんだって、もう身に沁みて思うから、そういう時って馬車馬のように働くのよ。私もそうだった。他に何も考えなくてすむように、とにかく働いた。そうやって仕事に打ち込めば打ち込むほど、その頃30代だったから、キャリアにも繋がるわけじゃない?
うちの業界には本当に多いケースよ。漫画家とか物書きとかってすぐに離婚するから。自分に経済力があると、女って我慢しないからさ、子供連れて家出ちゃうわけよ。そしたら、その後やっぱり心細いからすっごい馬車馬みたいに働いたって、みんな口を揃えて言うのね。
でもそれはキャリアアップに最終的に繋がるし、強さにも繋がって、よかったわって言う人もいるし、やっぱり寂しくて再婚しちゃう人もいるし、それはそこでまた本人の考え方の違いでさ。でも、経済力があると、自由。それは、確か。でも自由を選ぶのか、安定を選ぶのかって。安定と自由って両立しないんだよ。やっぱり安定を選ぶと何かしらの制約は課せられる。その代わり安定する。自由を選ぶと、やっぱり安定は諦めなきゃいけない。その代わり何があってもガムシャラに跳ね返すくらいの精神力を必要として……まぁ、勝手に身についてくしね、そうゆうのは。それはその人その人の性格にもよるからさ。元々気が強くて跳ね返りだと、もういいやって思えるけど、開き直りができない人もいる。
だから、あなたがどっちを選ぶかは、あなたが決めないといけないんだけど……つまり結婚するか、キャリアかってとこで悩んでるんだったら、今みたいなプラマイがあります。
RU そういうことですよね。でも、腑に落ちてなんか、納得しました。そして、私は、結婚です。
中村 おー!
RU いろんな話を聞いた結果、自分はそっちだと思いました。しかも、仕事続けて、その中で自分で頑張っていったら、それこそ離婚した後でもう一度ガムシャラに働けばいいし。
中村 そうそう、そうなの。そう、離婚してもいいのよ。
RU うん、思いました。
中村 そう。離婚しちゃいけないと思う人が多いから、ずるずる泥沼みたいなことが続いちゃうけど、全然今の日本で離婚したって言われて、腰抜かす人なんか田舎のばあちゃんくらいだからさ。
RU (笑)
中村 だからもう、離婚はするかもしれないけど、それまでに強くなっていようって頑張る力を身につければ、大丈夫ですよ。
RU はい。
中村 あ! 離婚を視野に入れられるんであれば、今の彼氏と結婚しても、いいかもしれないね! たぶん失敗しそうだけど、離婚してもいいんなら、それもひとつの経験じゃん(笑)
RU (笑) そうですね、向こうから離婚を言い渡されても大丈夫なように。確かに。あと、結婚生活の役割分担をどうしたいかなんて先のことを考えたこともなかったけれど、大切ですね。
中村 うんうん! 今の彼氏がどういう結婚観を持っているか聞いておいた方がいいよね。女房って夜20時過ぎたら家出ちゃだめでしょって言う人もいるからね。
RU あー(笑)
中村 女友達と会うって言っても、「えー?」みたいなさ。そういう考え方だったりしたらびっくりじゃん。
RU そうですよね。だいぶ、方向性がクリアになりました。すっごいスッキリしました、私。
中村 よかった!
RU すっごい全てに納得がいきました! 本当に2週間くらい前からずっと毎日悩みすぎてて。
中村 そうなんだ。
RU でも、今はすっきり♡
中村 よかったです。ありがとうございました。
撮影/深山徳幸 撮影協力/シューパレード
中村うさぎ
小説家・エッセイスト。OL、コピーライターを経て作家へと転身。ベストセラーとなったデビュー作『ゴクドーくん漫遊記』を皮切りに活躍を続ける。その後、自身の実体験を赤裸々に綴ったエッセイがヒット。『女という病』『私という病』『狂人失格』『セックス放浪記』『プロポーズはいらない』など多数の人気著書を手がける。
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