【中村うさぎのお悩み相談室】
皆さん、こんにちは。
エッセイストの中村うさぎです。
今回から、読者の皆さんの人生相談コーナーを始めることになりました。応募してくださった方に直接お会いして、対談形式でお話ししたいと思います。
有効なアドバイスができるかどうか、はなはだ疑問ですが、60年も生きているので少しはお役に立てるといいな、と考えてます。
第一回目のご相談者は、IT関連の会社で働く26歳のSRさん。
本人に結婚願望はないのに、周りからの「結婚しないの?」プレッシャーに悩んでいるとか。これ、結構共感できる方もいらっしゃるんじゃないかなぁ?
では、さっそく、お話を聞いてみましょう。
【周囲から感じる圧…】
SR:会社2年目なんですけど、なんか最近女性誌とか「結婚、結婚」って強迫観念みたいなのもあるし、なんだろ、会社の若い女性の先輩が着々と結婚されてて。なんだかロールモデルの見えないレールがあって、それにちゃんと乗っかれるかっていうのが不安なんですよね。今はすごい楽しくて、まぁ大変だけど楽しくやれてるから、このままでいいかなと思うんですけど、親とか……そう、親にもちょいちょい言われてめんどくさいなって思う。でもそれ、私がいけないのかな?
中村:いや、全然、いけなくはないでしょ。だって、あなたは特に結婚したいわけじゃないんでしょ?
SR:結婚願望、全然ないんですよ。でもしたほうがいいって先輩に言われて……やっぱ世間体的にも、出世してる人はみんな結婚してるじゃん、みたいな。私は彼氏もいないんですけど、そのためには誰でもいいから彼氏作っといたほうがいいんじゃない? みたいに言われて、ますます分かんなくなって。なんのために彼氏作んなきゃいけないの? この人のために? みたいな。すごい信頼してて好きな先輩なんですけど、でも先輩のために彼氏作るのなんかおかしいなって思って。
中村:それはおかしいよね。結婚って、赤の他人のためにするもんじゃないでしょ。ましてや、ただの先輩にそこまで口出しされる筋合いないよね。
そもそも、その先輩は結婚してるわけ?
SR:彼女はいるみたいだけど、結婚はしてないですね。
中村:あ、その先輩って男の人なの!?
SR:はい、男性です。サークルの先輩で、まぁなんか……好きなのかわかんないけど、とりあえずずっと尊敬してて。その人の言うことをいつも聞いてきたし、彼の言葉に従いたい人生だから、言われたとおりに彼氏は作っといたほうがいいかなって思うんですよね。で、一応マッチングアプリとかもやってみたんですけど、4人くらい会っても全然ピンと来なくて。合コンもそれなりに誘われて行くけどあんまり発展しないし、選り好みしすぎんのかなぁって。
【結婚は社会制度の問題!】
中村:うーん、その先輩の言うことをそこまで聞く義務はないと思うけど(笑)、とりあえず彼氏作る努力はしてみたんだ。でもね、彼氏がいることと結婚することってまた別の問題だよ?
SR:まぁ、そうですよね。
中村:だって結婚は社会の問題だから。社会制度の問題だから。
彼氏と恋愛してる状態なら別に何の責任も生じないけど、結婚っていう制度に乗っかってしまったら、それなりの社会的責任とかいろんなものが生じるわけでしょ? 恋愛したから結婚するみたいな考え方、私は安易だと思うのね。結婚っていうのはある程度覚悟がいると思うし、離婚も視野に入れといたほうがいいし……。
SR:え、結婚の段階から離婚を考えとくんですか?
中村:そうだよぉ。私はね、みんな人生で一度くらいは離婚を経験すればいいのにって思ってるの。
結婚というものの現実が、結婚したことない人にはわからないでしょ? 夢いっぱいで結婚してみたはいいけど、結婚生活って現実にはこんなもんなのかって、がっかりしたり夢破れたりすることが多々あると思うんですよ。
なんでもそうじゃん? やってみないとわかんないことって、この世にいっぱいあるよ。
SR:まぁ、そうですけど……。
中村:結婚してみないと、結婚がどんなものかわからない。で、結婚したら結婚したで、今度は離婚した経験がないから、離婚がどんなものかもわからないよね? それでますます離婚のハードルが高くなるわけよ。
友達も親戚もみんな呼んで盛大に結婚式まで挙げちゃって、それでなんか「やっぱりダメでした」とか言うの恥ずかしくない? とかさ。親に申し訳なくない? とかさ。そうやって色々思い悩むんだけど、本当に別れたほうがいい時は、とっとと離婚した方がいいの。親や世間のためじゃなく、自分のためにね。
で、思いきって離婚してみるじゃん? まぁ、周囲もそりゃ陰で何言ってるか知らないけど、とりあえず離婚したっていう事にそんなに驚く人は今の世の中そんないないわよ。
SR:ああ、そうかもですね。
中村:でね、結婚と離婚を体験してみたら、自分には結婚が合ってたのか独身が合ってたのかって考えるきっかけになるわけよ。で、次にまた好きな人が現れてまた結婚の話が出た時に、この人と結婚するとはどういう事なのかっていうのがより具体的に想像できるじゃない? 前回ダメだった問題はなんだったのか、この人だったらそこはクリアできるのか、とか。それとも、そもそも自分が結婚に向かないのかな、とかね。
だからね、結婚したからってずっとその人と添い遂げるとも限らないし、結婚がそもそも自分に向いてるかどうかだって、結婚を体験してみなきゃわかんないわけよ。
あなたが今は結婚したくないんなら無理にする必要ないし、適齢期とか言うけど、みんなが言う適齢期って子ども生むこと前提じゃん。つまり卵子の賞味期限っていうかさ。「まぁ子どもいなくてもいいや」とか思ってるんだったら適齢期とかないわけよ。
SR:まぁそうですよね、確かに。
【結婚は恋愛の成就じゃない、家族をつくること】
中村:それでね、結婚ってやっぱり、いわゆるその王道の結婚をすれば幸せになるかっていうと、そんなはずないのね。人それぞれだからさ、結婚の形も。私がゲイと結婚するって言った時、そんなもん絶対1年もたないだろって思った人もいるの。ありえないでしょ、みたいな。でも結局15年以上続いてるわけよ。
だから恋愛は結婚の絶対条件でもないし、セックスだって結婚して数年で激減する。そこで家族として、もう恋愛感情も性的な興味もないけどこの人だったらなんでも話せるとか信用できるとか、何かあってもこの人はきっと味方になってくれるとか、そういう信頼関係みたいなものをちゃんと培っていけば家族になれるんだよ。結婚って、結局、恋愛の成就じゃなくて、家族を作ることなの。
けど、それがうまく培えない相手もいるじゃない? そういう相手だったら、やっぱり無駄に結婚生活をずるずる続けることになってさ、全然不幸だと思うのね。
SR:確かに。嫌だそれは。
中村:なのに結婚しなきゃとか周りが言う理由は何かってことをよくよく考えたら、べつに理由なんかないわけよ(笑)。
その先輩が言うように出世できないとか世間体とか……でもそれ、一昔前の価値観だよね。昔の男性社会においては、男は妻子を養うもんっていう役割があったけど、今そんなことないじゃん。別に男が女を養うわなきゃいけないわけじゃないし、女が養ってる場合もあるしさ、まぁ共働きで平等に稼いでる場合も多いでしょ?
養う妻子がいない男はフラフラしてダメだって思われて出世に響いてたのは、家父長制の強かった70年代、80年代くらいまでじゃない? その世代なんか、もうそろそろ引退でしょ。
SR:あぁ、はい。
中村:うん、だからさ、あたしより下の世代の人はね、よっぽどものすごく頑固な田舎者じゃない限り、「結婚しない人間は信用できない」なんてもう言わないと思うよ。てか、そもそも私、その先輩があなたになんでそんなこと言うのか謎なんだけど(笑)。
SR:なんでだろう…。
中村:彼があなたを口説きたくてさ、「結婚しないと会社でも信用なくなるよ? ところで俺と結婚しない?」みたいな話の流れならわかるけど、そういうわけじゃないならただの余計なお世話じゃん。なんなんだろう、妹みたいに思ってるのかな。
SR:結構長い間、大学在学中からもう8年とか一緒にいてお世話になってるんで、多分そういう感じなんじゃないですかね。私もだいぶお兄ちゃんみたいな感じで、仕事のことも含めていろいろ相談する相手なので。
中村:その人のことは人間として好きなの?
SR:まぁ好きですね。
中村:じゃあ、お節介焼かれるのも嫌じゃないんだ。
SR:心配してくれんだなって思ってすごい前向きに、「あ! 好きなのかな?」って捉えちゃう癖が(笑)
中村:私のこと好きなのかな? みたいな?
SR:うん、でも違うんだなってすぐに否定して。でも次に会った時には「彼氏できました!」って報告をしてみたいなって思いはある。期待に応えたいなぁって。
【世間は何もしてくれない!】
中村:でもさ、その人の期待に応えたとして、その人が一体何してくれんの? 親や世間の期待に応えることもそうだよ。世間の期待に応えようとする自分もいるけどさ、でも、それが自分のやりたいことならまだしも、やりたくもないことで世間の期待に応えて人生を棒に振ったとしたら、世間が私に何してくれんの? 絶対何もしてくんないわよ。期待するだけして勝手に文句言ってるだけなの、世間って。あなたがという人間が本当に幸せになるためにはどういう生き方が幸せなのかなんてこと、真剣に考えもせずに言ってるだけ。
その先輩だってさ、あなたのことをどこまで理解してアドバイスしてるのかな? あなたが彼の期待に応えて、あなた的にあんまり気の進まないことをやって煮詰まってるのに、彼は助けてくれる? 助けてくれないでしょ?
SR:何もしてくれないと思う。
中村:もしあなたが彼のことを男として好きで、どうしても彼に良く思われたいから期待に応えたいって思うんであれば、今度「結婚したほうがいいよ」みたいな話になった時に「じゃあしてくれる?」って言ってみたら? 「相手探してもこれっていう人に出会えないし、私がこの世で一番信用してる男の人って誰だろうとよくよく思ったら先輩でした!」みたいな。
SR:それ、1回は思いました。「付き合って下さい」って言いたい…、言えるかなぁ? って思ったけど、多分速攻で切られる、無理って言われるって思って結局いつも言えない。
中村:冗談みたいに言えばいいじゃん。「そこまで言うんだったら、先輩が結婚してくれればいいじゃないですかぁ~」みたいな軽い感じで。
SR:あぁ、冗談ぽく。
中村:だって、結局のところ、あなたが望んでるのはそこでしょ? まぁ、どういう間柄か知らないから、そんな冗談言える相手なのかも私にはわかんないけど。
SR:言えると思う。
中村:言えるのか。じゃあもう言え(笑)!
SR:言ってみたい! 想像つく、自分が言ってるところ! 酔っ払って(笑)。
中村:いいじゃん。それで意外と「お! いいよ!」って言うかもしれないし「いや、無理でしょ!」って言ったら、「アハハハハ! 冗談ですよぉ!」みたいな感じで。そしたら気まずくなんないじゃん。
SR:そうですね! うん、それいい! 今度やってみます!
中村:なんか全然違う方向の結論が出ちゃったけど、あなたがそれで納得したんならよかったよ(笑)!
SR:はい! ありがとうございました! だいぶ楽になりました(笑)。
撮影/深山徳幸 撮影協力/シューパレード
中村うさぎ
小説家・エッセイスト。OL、コピーライターを経て作家へと転身。ベストセラーとなったデビュー作『ゴクドーくん漫遊記』を皮切りに活躍を続ける。その後、自身の実体験を赤裸々に綴ったエッセイがヒット。『女という病』『私という病』『狂人失格』『セックス放浪記』『プロポーズはいらない』など多数の人気著書を手がける。
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