セクハラはなぜ起こり、なぜ続いてきたのか? その背景と対処法とは? セクハラと切っても切れないキーワードを識者が読み解きます。男性学で話題の田中俊之さんが語る「セクハラ×男性心理」。
セクハラ×男性心理
そもそも男性はなんのためにセクハラするの?
答えてくれた人|社会学者 田中俊之さん
1975年生まれ。大正大学心理社会学部准教授。専門は社会学、男性学、キャリア教育論。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会、東京都渋谷区の男女平等・多様性社会推進会議の委員を務める。
「女性を下に見る根深い意識と競争社会の副産物である鈍感さがあいまってセクハラに」
セクハラを「しよう」と思ってしている男性はまずいません。麻生財務大臣が「セクハラ罪という罪はない」とうそぶいていましたが、セクハラは、職場における男女のコミュニケーションに問題があるケースがほとんど。
たとえば、上司からの「今日、デートなの?」といった言葉は、どんな関係性の中で発せられたかによって、変わってくるものです。日ごろから彼氏との関係について相談している間柄であれば、特に問題となる発言ではありません。しかし、彼氏の話を一度もしたことがない男性上司からのものであればセクハラと受け取られる可能性があります。そして働く女性たちとのコミュニケーションが圧倒的にうまくいっていないのが、今、企業で管理職となりパワーをもっている50~60代の男性たちです。
なぜ彼らはセクハラをしてしまうのか。それは彼らが働いていた職場環境に一因があります。彼らが20~30代を過ごした’80~’90年代は、女性の7割が結婚・出産で辞めていた時代。職場にいる女性たちは「男性の補助的な仕事をする存在」であり、「いずれ仕事を辞める存在」でしたから、彼らには職場の女性たちを下に見る意識が根付いているのです。
また、一般的に男性は幼少期から競い合うことを求められ「乱暴、不真面目、おおざっぱ」であることが「男らしさ」であると育てられてきたところがあります。職場は男性にとって競争の場であり、そこで交わされていたのはおおざっぱで鈍感な男同士のコミュニケーションでした。
長時間残業も転勤も拒否できない理不尽な職場で入社から何十年も同じメンバー同士の競争を強いられ、同期の栄転、子会社出向などといった残酷な現実も受容して生きていくためには、鈍感でなくてはやってこられなかったのかもしれません。しかも、どれほど自分が悪いとわかっていても「謝ったら負け」。某事務次官、某アメフト部監督がなかなか謝らないのは、謝らないことで競争を勝ち抜いてきた経験があるからです。
しかし今、職場環境は大きく変わりました。産休・育休をとって職場に戻る女性が増え、新たに働き始めた女性もこの数年で急増しています。彼らが、職場の女性を下に見る意識をもったまま、乱暴、不真面目、おおざっぱなのが男らしいと勘違いして鈍感なコミュニケーションをすれば、セクハラ・パワハラが多発するのは当然です。
彼らの、鈍感なコミュニケーションスタイルはセクハラ研修をちょっとやった程度で変わるはずがありません。ですが、女性が声を上げるようになり、社会問題化したことで、鈍感な男性たちも、セクハラは社会的信用も地位も失いかねないリスクであると、気づき始めたのが今なのです。このまま女性たちがあきらめずに声を上げ続ければ、状況は少しずつでも変わっていくように思います。
相手のすきをつくセクハラからの護身フレーズ
「チャック開いてますよ」
「そのダサいネクタイどこで買ったんですか?」
「お子さん、おいくつでしたっけ?」
セクハラをしてくる男性は、自分の発言や行動を男らしいと勘違いしているもの。「そんな男性には、男らしさをくじく言葉が効果的です。セクハラをした男性が、ハッとしてすきができたところで、その場からうまく逃げましょう。セクハラの根本的な解決にはつながりませんが、その場の危機から逃れるための言葉による護身術として覚えておいてください」
Oggi9月号「セクハラって結局何?」より
画像/Shutterstock 取材・文/井上佐保子(田中さん分) 構成/酒井亜希子・佐々木 恵・赤木さと子(スタッフ・オン)
再構成/Oggi.jp編集部