セクハラはなぜ起こり、なぜ続いてきたのか? その背景と対処法とは? セクハラと切っても切れないキーワードを識者が読み解きます。『部長、その恋愛はセクハラです!』著者の牟田和恵さんが語る「セクハラ×社内恋愛」。
セクハラ×社内恋愛
社会人として感じよく振る舞っているだけなのに…。
答えてくれた人|社会学者 牟田和恵さん
1956年生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科教授。「セクハラ」という言葉が広まるきっかけとなった福岡セクハラ裁判に関わる。『部長、その恋愛はセクハラです!』(集英社新書)はわかりやすいとロングセラーに。
「SNSやLINEの普及で男性がより勘違いしやすい環境になっていると心得て」
職場の恋愛とセクハラは完全に別物とはいえません。女性社員が、男性上司や先輩からアプローチされた場合、女性はセクハラだと思っているのに、男性側は恋愛だったと主張する事例はよく耳にします。
日本の女性は幼いころから感じよく振る舞うように教育されてきたので、目上の人と食事をしたらお酌をしたり、場をもたせるような楽しい会話をしようと努めます。それを男性が「俺に気がある。いけるかも」と勘違いして本気でアプローチしてくるんです。ですが、いくら男性に恋愛感情があっても、女性側にその気がなければ、それはセクハラにほかなりません。
特に今は、スマホが普及し公私の境目なくSNSなどで1対1のコミュニケーションがとりやすい時代。女性は上司からメッセージがくれば、不愛想にとられないように絵文字などを使うこともあるでしょう。SNSで「いいね!」をすることもあると思います。
女性からしてみれば、友人同士であたりまえにやりとりしていることでも、そんなやりとりに慣れていない中高年男性は「好かれている」と思い込んでしまう。そして、会ったときにさらにエスカレートしたセクハラ行為をしてしまうんです。以前にも増して勘違いが生まれやすい環境がそろっているといえるでしょう。
また、女性に多いのが、「自分が誤解させたからセクハラに遭ったのではないか」と自分を責めてしまうこと。感情として自分にも非があるのかも、と思ってしまうことは仕方ありませんが、自分を責める必要はありません。はっきり断れなかった、愛想よくしすぎてしまったと悔やむ必要は一切なし。勝手に勘違いした相手が悪いんです。抵抗する勇気がなくても、「セクハラされているけど、黙っててやってるだけだからな!」と心の中で思うだけで、少し気持ちが軽くなるのではないでしょうか。
もちろん、同じプロジェクトを担当し、その達成感から恋愛に発展するなんてこともあるでしょうが、社内恋愛が終わったときはセクハラに転化しやすいタイミングといえます。振られた男性上司が女性を逆恨みして担当を外したり、女性側が気まずいからと職場を辞めたりすると、イヤな出来事ばかりが思い出され「セクハラだったんじゃないか」と思うのはやむをえません。
恋愛関係だった上司が破局後、どんな行動をとるかは別れてみなければわかりませんが、仕事のことをエサに誘ってくる男性かどうかはチェックポイントです。「打ち合わせしながら外で食事しよう」などと断れないような誘い方をする男性はイエローカードかもしれません。
社内恋愛をしてはいけないわけではありません。でも両方にその気がなければ成り立たないし、別れの作法にも注意が必要。かなり慎重になるべきと心得て。男女ともどんな関係でも公私の区別をつけベストなパフォーマンスを発揮するよう心がけるのが社会人としての務めなのではないでしょうか。
相手の勘違いを防ぐセクハラ自衛マナー
[1] 仕事メールやLINEでの絵文字は誤解を生みがちと心得る
[2] 仕事の話はできるだけ社内ですませる
[3] 周囲の人から「今どきそれはまずい」と伝えてもらう
たとえば女性同士ならあたりまえに使う♡マーク。ふだん使わない中高年男性は、女性からの好意だと勘違いしてしまう。食事の誘いを断らない、というだけで好かれていると思う男性も。「自分の行為がセクハラだと気づかない上司に直訴するのは困難。周囲に相談して『それはセクハラですよ』と伝えてもらい、大きな問題になる前にセクハラを阻止するのが賢明です」
Oggi9月号「セクハラって結局何?」より
画像/Shutterstock 取材・文/井上佐保子(田中さん分) 構成/酒井亜希子・佐々木 恵・赤木さと子(スタッフ・オン)
再構成/Oggi.jp編集部