今回のテーマも前回に引き続き、ウイルスが生物を進化させたという「ウイルス進化論」です。
ウイルス進化論の要点
前回は、ウイルス進化論のざっくり過ぎる流れを説明しました。ここで、ウイルス進化論の要点をまとめていきましょう。要点は以下の通りです。
【1】遺伝子の突然変異が単なるコピー・ミスだけではなく、ウイルスが生物に感染した時にその生物の遺伝子を組み替えたりして起こる。
【2】ウイルス自身の遺伝子をその生物の遺伝子に挿入したりすることによって変異が起こり、それが次世代に引き継がれて、生物が進化する。
そして、この考えを今から30年以上も前に提唱していたのが、天才天文学者フレッド・ホイル博士です。博士の著書から一部分を引用してみましょう。
増殖に成功したウイルスが宿主細胞から抜け出す際に、宿主細胞の遺伝子の一部を自分の遺伝子と一緒に持ち出したり、あるいは、自分の遺伝子の一部を宿主細胞の中に残していったりすることが、かなりの確率で起こる。その結果、「前の宿主細胞」と「新しい宿主細胞」との間で遺伝子の組み換えが起きることがあるのだ。生物が進化するには遺伝子が変化する必要がある。このウイルスであれば、宿主がそれまで持っていなかったまったく新しい伝子を導入することができ、生物の進化を促すことができるのだ。
「生命は宇宙を流れる」(サー・フレッド・ホイル著、茂木健一郎氏監修)より
進化は「水平」×「垂直」の作用で進む
フレッド・ホイル博士がこの「ウイルス進化論」を提唱した当時、他の研究者たちからは「そんなことはありえない! アホか!」と、かなりの塩対応をされたそうです。がしかし、ちょっとイメージしてみてください。
たった一個体の突然変異が、その子供、またその孫…というように次世代に「垂直」的に引き継がれて広がっていくことを考えると、気の遠くなるような思いに駆られますが、ウイルスの感染による進化であれば、感染は種ごとやエリア全域で一気に起こるため、進化も「水平」×「垂直」の効果でドバーーッと進みます。
ダーウィンの進化説の矛盾点、地層から中間種の化石が見つかっていないということについても、ウイルス進化論であれば、突然、それまでにはなかった新種にジャンプするような形で進化することが可能なため、うまく説明がつきそうです。
ウイルスは病気をもたらすただの悪者?
「そ、そんなアホな…だってだってぇ~、ウイルスは病気の原因になる悪者なわけで、排除しないといけない存在なわけで…」
と思ったそこのあなた。ええ、ええ、普通はそう思うと思います。ウイルスがニュースになる時というのは、インフルエンザや、エイズ、エボラ出血熱、デング熱、はしかなどなど、ウイルスが引き起こす病気が蔓延した時ばかり。「ウイルス=悪者」という図式が皆さんの中に出来上がっていて当然です。
この図式を打ち破るため、本シリーズの第二回「「ウイルスを除菌する」のどこがおかしいのか、わかりますか?」では、ウイルスはそんな悪者だけではなく、生き物にとってありがたい行いをする善玉ウイルスのような子もいるんだよ…ということに触れさせていただきましたが、ウイルスが善玉の働きをするどころか、生物の進化に寄与しているかもしれないなんて…コレすごいことではないですか?
まだまだ謎のベールに包まれているウイルス進化論…研究者の皆さん! 続報お待ちしております。…というわけで、宇宙与太話まだまだ続きます。
【参考図書】
『YouもMeも宇宙人』いけのり著/東京大学名誉教授松井孝典監修(地湧社)
『彗星パンスペルミア 生命の源を宇宙に探す』チャンドラ・ウィクラマシンゲ著(恒星社厚生閣)
いけのり
最先端のアストロバイオロジーを世界一緩く解説する『YouもMeも宇宙人』(地湧社)著者。一橋大学商学部卒業後、金融会社・楽天市場を経て独立し、オールジャンルでの執筆・編集業などで活動中。独り言サイト「いけのり通信(http://ikenori.com/)」の更新がライフワーク。