前編では、映画の舞台となった沖縄でのガジュマルの木や海での思い出を語っていただきました。続く後編では、さらに物語の背景を深掘りしつつ、「気づき」を語っていただきます。戦中・戦後の沖縄が舞台の映画ですが、ふたりそろって「不思議な感覚」があり「笑える」作品だと話します。
「4つの台風から見事に逃れた。撮るべきして撮った作品」(堤さん)
――堤さんは、この映画の撮影について「神がかっていた」とおっしゃいました。もう少し詳しく教えてください。
堤 真一さん(以下、堤):まず、ガジュマルの木そのものが神がかっていて、とにかく居心地がよかった(詳しくは前編で)。そして撮影期間中の天候はといえば、これが大荒れで。滞在していた沖縄・伊江(いえ)島の周辺に台風が同時に4つも発生して、ひとつは沖縄の南の方を過ぎ、もうひとつは横を、また別の台風は島をコの字に避けて通り過ぎ。沖縄本島とその周辺は黒い雲に覆われ、大雨だというのに、伊江島は見事に逃れたのです。撮るべくして撮った作品なんだなと思いました。
山田:撮影前、物語のモデルとなったおふたり(※)が実際に滞在していたガジュマルの木を見ることができました。独特な雰囲気をもっていて、「ああ、本当にここにいたんだな」と思えて。それは不思議な感覚でした。周囲に敵がいたなか、ここに隠れて2年間も…と考えただけで、いったいどうやって? 本当にそんなことができるの? って。いろいろな思いが湧き上がってきました。
ただ、(実在モデルの)佐次田さんの証言を読みましたが、この時どんな思いだったのか、考えたところでやっぱりわからない。どんなに想像してみても、体感していないわけですから。
※佐次田秀順(さしだ・しゅうじゅん)さん(享年91歳)、山口静雄さん(享年78歳)。1945年、沖縄・伊江島に上陸した米軍による激しい攻撃を受け、必死に逃げるなか、うっそうと葉が生い茂るガジュマルの木にたどり着き、そこに登って身を隠した。その後の敗戦を知らぬまま、ふたりは2年生き延びた。そのガジュマルの木は今も存在するが、撮影用には数ヶ月かけて別のガジュマルを移植し、2本の木を根付かせ、映画のメインの舞台とされた。

「虫嫌いだった僕が、すっかり虫に慣れました」(山田さん)
山田:戦争を題材にした映画となると、どこか構えて観るかもしれないですが、これは「笑っていい」映画なんです。人間ってこうやって生き抜き、その様子になんだか笑えてくる。たとえば、アメリカ兵が残した軍服を着てみたり、そこで拾ったタバコとグラビア雑誌を上官の山下(堤さん)と交換したり。
そしてやっぱり、「食べものがあること、水を飲めることが、どれだけありがたいことか」を身をもって感じました。それを、観る方にユーモラスに伝えているのが、この映画のいいところ。戦争映画というより、エンターテインメント。必死に生きようとしたふたりの映画として観てほしいです。
堤:生きる。ただそれだけでいい、と思わせてくれる映画じゃないかな。反戦だとか平和だとか、言葉で訴える代わりに、明るくて生きる力があるということが、何より素晴らしいのだと。それは、沖縄出身の平 一紘監督をはじめ地元のチームの力が大きいと思います。そして、舞台となったこのガジュマルの木は、このあとも残るので、子供たちにもぜひ登ってほしいですね。(注:伊江島ミースィ公園で見ることができます)
――食べること、生きること。その大切さを特に実感した出来事はありましたか?
山田:干し芋だけ食べていた時期がありましたが(詳しくは前編で)、そのあと久しぶりに大好物のラフテー(豚の角煮)を食べたんです。ひと口食べた瞬間にもう、うわーって旨みがにじみ出て、あれは本当においしかった。もうこのまま、お芝居に結びつければいいんだ。ということに気がつきました。
そして沖縄に滞在し木の上で撮影するうち、あんなに虫嫌いだった僕が、すっかり虫に慣れていきました。いつの間にか、虫がいても気にならなくなっていましたから。
堤:この作品は、生きることを率直に伝えています。山田くんに初めて会ったときから、嘘をついて生きていけるタイプじゃないと思っていたから、芝居にもそれが出てるんですよね。人づきあいでも、生き方でも、変にごまかさないというかね。きっと、山田くんの奥さんは、そういうところが好きになったんじゃないかな(笑)。

「ゆき詰まりそうになったら、ボーっとする時間をつくります」(山田さん)
――では最後に。山田さんをはじめ30代の後輩俳優と共演の多い堤さん、30代になって重要な役どころが増えている山田さん。それぞれ人との仕事で心がけていることをお聞かせください。
堤:僕たちが30代のころは、酒を飲みながら仕事と関係ない話をよくしたものだけど、今の30代は、あまり酒を飲みに行かないらしいでしょ。それに、かつては映画の宣伝キャンペーンというと、日本各地をたくさん回って、行った先で少し息抜きもできたりして、それが楽しみだったんだよね。仕事が大変でも、息抜きの時間があることは、やっぱり大事。酒の席が少なくなった今、じゃあ若い世代はどうしているんだろうと思ったけど、時間の使い方や切り替えが、案外上手だったりする。
山田:みんな、ひとりの時間も上手に使っていますしね。自分の仕事でいえば、数年前までは、脇役だから好きに引っ掻き回してやろう、とずいぶん自由にやっていました。でも、こうして主演としての作品が増えて、名前が出るようになって、もっと全体のバランスを考えなくちゃいけない。そのうえで、自分はどう振る舞ったらいいのか、たくさんの人に観てもらうためには、どうしたらいいか。主演を経験する方々は、こういう気持ちになるんだ、というのを体感しているところです。
堤:大丈夫、なんとかなるよ。上手に息抜きできれば。
山田:だから、ゆき詰まりそうになったら、睡眠時間を削ってでもボーっとする時間をつくるようにしてます。それが唯一のリセット法ですね。
堤:僕の場合は、お酒を飲めばリセットできる。いろいろ考えても、「もういいやー」ってなっちゃう。
山田:やっぱりそれが、いちばんですね!

映画『木の上の軍隊』
太平洋戦争末期、飛行場の占領を狙い、沖縄県伊江島に米軍が侵攻。激しい攻防戦の末に、島は壊滅的な状況に陥っていた。爆撃が続く中、仲間とはぐれた沖縄出身の新兵・安慶名セイジュン(山田裕貴)は宮崎から派兵された少尉・山下一雄(堤 真一)と合流。2 人は敵に囲まれながらも、命からがら大きなガジュマルの木の上で身を潜めることに。やがて戦争は日本の敗戦をもって終結するが、そのことを知る術もない 2 人の“孤独な戦争”は続いて…。それでも必死に「戦い」を続ける彼らに待ち受ける、戦争の終焉とは——。
出演:堤 真一 山田裕貴
津波竜斗 玉代㔟圭司 尚玄 岸本尚泰 城間やよい 川田広樹(ガレッジセール)
玉城 凛(子役) 西平寿久 花城清長 吉田大駕(子役) 大湾文子 小橋川建 蓬莱つくし 新垣李珠 真栄城美鈴/山西 惇
監督・脚本:平 一紘
原作:「木の上の軍隊」(株式会社こまつ座・原案井上ひさし)
主題歌:Anly「ニヌファブシ」
沖縄先行公開中/7 月 25 日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー
堤 真一
つつみ しんいち/1964年7月7日生まれ、兵庫県出身。数多くの映画、ドラマ、舞台に出演し、受賞歴多数。近年の主な映画出演作に『駆込み女と駆出し男』(15)、『海街diary』(15)、『日本のいちばん長い日』(15)、『本能寺ホテル』(16)、『泣くな赤鬼』(19)、『決算!忠臣蔵』(19)、『一度死んでみた』(20)、『望み』(20)、『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』(21)、『室町無頼』(25)などがある。今後は、『ババンババンバンバンパイア』(25・7/4)、『旅と日々』(25・11 月)の公開と舞台「ライフ・イン・ザ・シアター」(25・9 月~)の上演が控えている。
山田裕貴
やまだ ゆうき/1990 年 9 月 18 日生まれ、愛知県出身。11 年「海賊戦隊ゴーカイジャー」(テレビ朝日系)で俳優デビュー。22 年エランドール賞新人賞、24 年には『東京リベンジャーズ 2 血のハロウィン編 -運命- / -決戦-』『キングダム 運命の炎』『ゴジラ-1.0』『BLUE GIANT』での演技が評価され、第 47 回日本アカデミー賞話題賞を受賞。近年の主な映画出演作に『HiGH&LOW』シリーズ(16~19)、『あゝ、荒野 前篇・後篇』(17)、『あの頃、君を追いかけた』(18)、『東京リベンジャーズ』(21)、『燃えよ剣』(21)、『余命 10 年』(22)、『夜、鳥たちが啼く』(24)、『キングダム 大将軍の帰還』(24)ほか。今後は、『ベートーヴェン捏造』(25・9/12)『爆弾』(25・10/31)の公開が控えている
撮影/山根悠太郎(TRON)スタイリスト/中川原 寛(CaNN) ヘア&メイク/奥山信次(barrel) 構成/南 ゆかり
衣装クレジット:(山田さん)ブルゾン¥630,000・Tシャツ¥100,000・パンツ¥240,000[参考価格]・靴¥165,000(全てクリスチャン ディオール〈ディオール〉) その他/スタイリスト私物
問い合わせ先:クリスチャン ディオール TEL:0120-02-1947
堤 真一
つつみ しんいち/1964年7月7日生まれ、兵庫県出身。数多くの映画、ドラマ、舞台に出演し、受賞歴多数。近年の主な映画出演作に『駆込み女と駆出し男』(15)、『海街diary』(15)、『日本のいちばん長い日』(15)、『本能寺ホテル』(16)、『泣くな赤鬼』(19)、『決算!忠臣蔵』(19)、『一度死んでみた』(20)、『望み』(20)、『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』(21)、『室町無頼』(25)などがある。今後は、『ババンババンバンバンパイア』(25・7/4)、『旅と日々』(25・11 月)の公開と舞台「ライフ・イン・ザ・シアター」(25・9 月~)の上演が控えている。
山田裕貴
やまだ ゆうき/1990 年 9 月 18 日生まれ、愛知県出身。11 年「海賊戦隊ゴーカイジャー」(テレビ朝日系)で俳優デビュー。22 年エランドール賞新人賞、24 年には『東京リベンジャーズ 2 血のハロウィン編 -運命- / -決戦-』『キングダム 運命の炎』『ゴジラ-1.0』『BLUE GIANT』での演技が評価され、第 47 回日本アカデミー賞話題賞を受賞。近年の主な映画出演作に『HiGH&LOW』シリーズ(16~19)、『あゝ、荒野 前篇・後篇』(17)、『あの頃、君を追いかけた』(18)、『東京リベンジャーズ』(21)、『燃えよ剣』(21)、『余命 10 年』(22)、『夜、鳥たちが啼く』(24)、『キングダム 大将軍の帰還』(24)ほか。今後は、『ベートーヴェン捏造』(25・9/12)『爆弾』(25・10/31)の公開が控えている。