舞台狭しと動き回る漫才に、笑って泣いて、最後は感動
2025年の各種お笑い賞レースの火蓋は早くも切られ、水面下でのアツい闘いは始まっています。それら賞レースの中心となること間違いなしのコンビばかりが集結した寄席『池袋漫才選集』が開演! いま漫才の頂点に君臨する16 組が一堂に見られる貴重な寄席――それも、3時間にわたる大演会! の一部始終をレポートします。
「我々の漫才は鳴りやまないっ」エモさ爆発のオープニング
複数の漫才師が集まる「寄席」の場合、「前説」と呼ばれる若手芸人による短いトークで会場をあたためることが多いのですが、この『池袋漫才選集』では、一切の前説はなし。その代わりに、神聖かまってちゃんの曲『ロックンロールは鳴り止まないっ』が爆音で流れ、その歌詞をアレンジしたセリフが舞台に映し出されるという、粋な演出が。

「我々の漫才は鳴りやまないっ」
「漫才好きの漫才師による大好きな漫才」
といった、漫才へのアツい思いと同時に、登場コンビを映像で紹介。その舞台は、「寄席」というよりまさに「ライブ」。漫才愛あふれたオープニングに胸がアツくなります。
一番手として登場したのは、M-1で2年連続準決勝進出のナイチンゲールダンス。ボケの中野なかるてぃん・ツッコミのヤス、ふたりでネタづくりをしているそうですが、今回のネタは、中野なかるてぃんが「ひとりっ子」というネタ。
ワクワクして開幕を待っていた観客の期待に応える勢いある漫才を見せたあと、会場の熱をさらに上昇させたのが、二番手のエバース。町田さん(右)の髪型をイジる佐々木さん鉄板の流れも盛り込みつつ、そのままM-1決勝に行けそうな完成度の高いネタ「ドライブデート」を披露。


続いて、スリムなスーツで現れたのがガクテンソク。ネタは「クイズ番組」で、とにかくボケ数の多い、さすが!な構成。THE SECOND初代王者としての貫禄もありつつ、ステージから客席に手を振ったり声をかけるなど、観客を巻き込むところまで、すべてが「さすが」。

すっかり温まった会場の空気を、ママタルト、モグライダー、ミキがさらに熱くして、中には笑いすぎて涙をぬぐう人も。


特に、モグライダー・ともしげさんが落語家に扮するネタは、後半めちゃくちゃに。それがさらにウケて、拍手喝采。その拍手をそのまま引き継いで迎えられたミキは、モグライダーの落語ネタをイジリつつ、アドリブもアクションもたっぷりの漫才で爆笑をさらいました。

登場時の拍手がひときわ大きかったのが、その次に登場した三四郎。R-1グランプリやTHE SECOND出場者をいじったりしながら、「相撲」ネタで舞台全体を大きく使います。

持ち時間を大幅オーバー!? どうにも止まらない演技派漫才
前半のトリを飾ったのは、金属バット。東京漫才の三四郎から一転、大阪・堺発のハードコアな漫才でガンガン攻め込みます。




福本さんの美声が大きく響き、演技派のゆうじろーさんが冴えるジョックロック。「漫才好き」から絶大な人気を誇るダブルヒガシ。期待どおり「髪の毛」の話を挟み込んで笑いを取るシシガシラ。
>ジョックロックのインタビューはこちらでご覧ください。
と、ここまで写真を見た方は気づいたかもしれませんが、奥行きのある大きな舞台をたっぷり使って大きな動きで見せるコンビの多いこと! 漫才の場ではありますが、そこはお笑いを巻き起こす「壮大なショー」なのでありました。
この日の紅一点・紅しょうがも、M-1決勝常連の真空ジェシカも、舞台狭しと動き回ります。



と、ここにきてちょっとした異変が。ひと組の持ち時間は7分のはずなのに、真空ジェシカが15分、ヤーレンズが17 分、と大幅に時間オーバー。真空ジェシカは「ニセ仙人」というネタでどのコンビよりも広くステージを使い、演技の巧みさもあいまって、舞台演劇を見せられているよう。ヤーレンズは、前の真空ジェシカが外したカツラをかぶったり、途中でモノマネも交えたりしながら、得意技の爆連続ボケで、制御不能状態。このころには、もう観客は笑い疲れ状態に。
こんなふうに、前に出たコンビをいじったり、ウケていた(またはスベッた)ネタをコスったり、漫才が予想外の方向に転がったり…。これこそ、ライブならではの面白さです。
いろんなタイプのお笑いで、もうおなかいっぱい。となったところで、みんなが待っていたバッテリィズが登場。いまどきのコンプラをあざ笑うかのような、でもなかなか「いいこと言う!」ような、秀逸ネタに会場は泣き笑い。


そしてトリをつとめたのは、今年の「THE SECOND」で優勝の期待がかかる囲碁将棋。「コンビニ」というよくある設定でありながら、ベテランならではの秀逸の展開で、会場を圧倒させます。
漫才師の背中はサマになる!
いいネタを「体感する」幸せと余韻
多くの寄席は、漫才の後すぐ暗転して姿が見えなくなるので、今回のように、派手な照明の中で“はける”(=舞台から去って行く)後ろ姿まで見られることは、なかなかありません。あらためて、「漫才師の背中はサマになる!」と思わせてくれる、素敵な演出でした。
さて、3時間にも及ぶライブが終わっても、その余韻は簡単に消えるはずもなく。SNSでは、鑑賞した人たちの「濃かった」「最高すぎ」「夢のような時間」…などの言葉があふれ、テレビや配信では味わえない、漫才を「体感する」幸せを口々に語っていました。
さて、2025年の賞レースはいよいよこれから。『THE SECOND〜漫才トーナメント2025』(結成16年以上の漫才師の大会)のグランプリファイナルは5月17日、『ダブルインパクト〜漫才&コント 二刀流No.1決定戦』は4月から予選がスタートして7月に決勝。そして夏からはいよいよ、M-1グランプリ2025の長い予選が始まります。テレビの前で応援するのもいいけれど、さまざまな寄席・ライブで漫才最前線を肌で感じ、賞レースの出場メンツや優勝候補を予想する…。こんな楽しみ方も、いいいものですよ。
▶︎東京グランド花月(漫才・コントと吉本新喜劇)
▶︎DAIENKAI 2025(アーティストと芸人が共演!)
※そのほか公演情報はこちら
撮影/高木亜麗 構成/南 ゆかり