エディター・岡村佳代が出会った、あんな人やこんな人…
私が身を置く業界は「クセあり人間」の宝庫です。「クセ」とはある意味「強めの個性」なので、クリエイティブな仕事には不可欠なのかもしれません。
第14回は、燕尾服のイケおじタクシー運転手。
▲燕尾服の運転手さん(仮名) 推定アラフィフ/タクシードライバー
出身地含め、詳細なプロフィールは不明だが、独自の美学を貫きながら、唯一無二の魅力を持つタクシーを目指す。ふだんは東京の西部地域を中心に営業しているが、しばしば都心にも出現。都内の心霊スポットにも詳しいとのこと。
ヅカファンドライバー
先日、急いでいるのに加えて、寒いし疲れてるしでタクシーを待っていたところ、ようやくつかまえることができた個人タクシー。ホッと乗り込むや否や、落ち着いたバリトンボイスで「ようこそ、お客様」──ようこそ!?
運転手さんを見ると、光沢のある黒い燕尾服のようなコスチュームに髪はリーゼント。若干の戸惑いを覚えながらも行き先を告げ、運転手さんのお顔をチラッとのぞくと、シュッとした輪郭でダンディなイケおじ。
宝塚歌劇団の男役さんぽさがあるのでそう告げると、「わかってくださいましたね」とニヒルな笑顔。聞けば宝塚歌劇団のファンで、個人タクシーを開業した際に「オンリーワンの魅力あるタクシー」を追求し、たどり着いたのが、宝塚歌劇団の男役さんの正装といえる黒燕尾にリーゼントで、キザにお客様をもてなすこのスタイルだったそう。
面白いやないかーい! ゆくゆくは宝塚歌劇団の舞台の象徴である、キラキラの階段などのエッセンスも取り入れていきたいそう。「せっかくならSNSなどで発信されてはいかがでしょうか」と提案してみましたが、静かに首を振る運転手さん。「夢は幻。私は幻の夢であり続けたいのです」
そうこうしているうちに目的地に到着。降車の際、「今日の記念に、私の手づくりですがどうぞ」とプレゼントをくださいました。開けてみると耳かきでした。ええ、大切に使わせていただきます。
2025年Oggi2月号「クセあり人間観察ファイル」より
文/岡村佳代 イラスト/平松昭子
再構成/Oggi.jp編集部