北海道・白糠町で過ごした1ヶ月間、共演者とは町で本当に暮らしていた感覚に
アイヌと和人(シサㇺ)との対立の歴史を描いた映画『シサㇺ』(24)は、江戸時代前期が舞台の壮大な歴史スペクタクル映画。<蝦夷地>と呼ばれた現在の北海道を領有した松前藩が、アイヌとの交易をおこなっていた史実が基になっている。町全体がイオル(アイヌの伝統的生活空間)という考えの下、アイヌと和人が共生してきたという認識をもつ北海道白糠町で多くの場面が撮影され、セット建設から撮影まで、町からの全面支援・協力のもと製作。物語は、殺された兄の復讐心に燃える松前藩の高坂孝二郎(寛一郎)が、アイヌの人々との交流を通じて、己の価値観や生き方を模索してゆく———。
――作品への出演が決まった時のお気持ちをお聞かせください。
脚本と企画書を読んだ時に、アイヌにフォーカスした作品になるということを知って、是非やりたいと思いました。というのも、子供の頃に通っていた学習塾の課外活動でアイヌの集落に泊まったことがあるんです。2週間滞在したのですが、そこで初めてアイヌのことを知りました。そういった経験もあり、消えゆく文化の中で、こうして映像作品として残せたらうれしいなと思いました。
――役作りをする中で心がけたことや意識したことは?
時代劇なので時代考証をしますしアイヌのことも調べますが、書かれている本も、観る人も、演じる僕もそうですが、どうしても「今日の価値観」になってしまうわけです。描かれている時代と今日起きていることをリンクさせながら時代考証をすると、脚本通りにいかず、観ている人もわからない感じになってしまう。だから過去に起きていることではあるけれど今日にも重ねられる、そういう表現ができたらいいなと思いながら演じていました。これは僕が時代劇を何度かやってきた中での学びでもあります。
――作品を通して、より理解が増したことや新たに学んだことはありますか?
作品が決まったことによってよりアイヌの文化を知りたくなりましたし、実際に歴史的なことも含めいろいろと知ることができました。学校の授業で学ぶ機会があっても、そんなに詳しく知ることはできませんでしたが、この作品をやらせていただいたことが勉強をするいい機会になりました。
――共演者の皆さんとのエピソード教えてください
1か月間、北海道の白糠町に滞在したのですがナイターシーンが少なかったものあり、基本夕方には終了。白糠町は飲み屋やご飯を食べるところは限られていて、夕飯を食べに行ったらスタッフや演者の誰かしらがいるという状況でした。本当に町でみんなで暮らしていたという感覚でしたね。毎日みんなと食べて飲んでました(笑)。
――白糠町での暮らしで印象的だったのは?
北海道は全体的にそうかもしれませんが、気候が素晴らしいんです。撮影は真夏でしたが、涼しいし湿度も低くてカラッとしていて、ものすごく良い環境でロケが出来たなと思います。
寛一郎、自己分析をすると「あまのじゃくな人」
――ご自身の性格はどんな性格だと思いますか?
面倒くさいと思います(笑)。あまのじゃくだし、最近は緩和されてきたと思っていますが、本当に生意気ですし…、ああいえばこう言うし、好き嫌いも激しいんです。
――最近は緩和されてきたということですが、それは年齢を重ねてということですか?
アイヌの人たちを知っていく上で感じたんですが、共存していく力がすごいんです。そういう文化のもとに生きる人たちを見ていたら、自分がすごくちっぽけに感じて、それ以来あまり小さいことを気にしなくなったと思います。
――寛一郎さんは落ち込むことはありますか?
あると思いますよ。ちなみに、落ち込んだらみんなどうなるんでしょう?
――ずっと引きずっている人と、寝たら忘れちゃう人もいますよね
僕は寝ても忘れないですね。だから、落ち込んだ理由をちゃんと一から考えます。なんで忘れないのかと、落ち込んだ原因と解決策を考えて消化できればいいですね。たまに「ああ…」となる時もありますが、一つ一つ考えていって、解決しようとしています。
――ご自身の「ここはブレたくない」というモットーはありますか?
僕はあまりブレることもないし、ブレるつもりもないのでモットーはありません。何かを決めるときも、自分を持っていますし、他人の意見も聞きつつも決めることもありますが、最終的に何かを決断するのは自分ですから。
――仕事をする上で一番大切にされていることは?
難しいですね。なんだろう?(しばし考えて)純真ですかね。たまにそれが失われてしまうときもありますが、純真というか、感じようとする心みたいなものは大切にしています。いろいろなことを感じないといけないなと思いますし、感じる心をなくしたら終わりだなと思っています。
――感じる心、といえばどんな時に幸せを感じますか?
寝る時です(笑)。幸せだと感じようと思えば幸せを感じられますが、特に幸せだと思わなければ何も感じないこともできる。先ほどの話と重なりますが、どんなことでもそう感じようとしなければ、「まぁ、こんな感じか」というくらいなんですが、ひとつのことを嚙みしめることで幸せをより深く感じることができると思っています。
――寛一郎さんは子供の頃はどんなお子さんでしたか?
可愛かったですよ(笑) 。
――性格的には?
どうですかねぇ…幼い時の自分が何かを決断する時に、プライオリティが高かったのは、そこにきれいなお姉さんがいるかどうかだった気がするんです(笑)。何か習い事をするにしても、行動原理は“きれいなお姉さんがいる”ことだったんですよね。
――では、子供の頃の思い出で記憶に残ってることは?
なんだろうなぁ…。子供の頃はずっときれいなお姉さんを探していたんですけど…(笑)
――笑。ではご家族との思い出で記憶に残っているエピソードはありますか?
楽しい記憶って、残ってはいるんですがあまり鮮明ではないんですよね。どちらかというと悲しい思いをしたり、ひどいことを言われた時の方が残ってしまう気がします。もちろん毎日楽しかったんですよ。ただ、何か一つの嫌なこと、悲しいことが残ってしまうという。だからといって、親に完璧でいて欲しいというわけではないんです。でも、子供はそういった経験が意外と心に残っている。ふと言ったことが意外と脳裏にこびりついたりしてしまったり…。でも、基本僕は母親にすごく愛情をもらえていたので、楽しかった記憶しかありません。でも、何が楽しかったかは出てこないんですけど(笑)。嫌な言葉が残ってしまうことは悲しいことですが、逆にそれはいいことなのかなという気もしています。逆に、毎日が地獄のような日々を送っていたら、少しのことが幸せに感じていたはず。だから僕は幸せだったと、逆説的に言えますね!
――最後に、ご自身にとっての宝物を教えてください。
ベタなこと言ってもいいですか? 自分にとって大切な人達ですね。物に対してはあまり執着がないので。これを宝物と言っていいかは別としても、友人や家族は宝物のような気がします。
映画「シサㇺ」
江戸時代前期。北海道の南西部にある松前藩はアイヌとの交易品を主な収入源としていた。松前藩藩士の息子、孝二郎(寛一郎)は兄、栄之助とともにアイヌとの交易で得た品を他藩に売る仕事をしていたが、ある夜、使用人の善助の不審な行動を見つけた栄之助は善助に殺されてしまう。兄の敵討ちを誓った考二郎は善助を追って蝦夷地へと向かうー。
配給:NAKACHIKA PICTURES
PG12
©映画「シサㇺ」製作委員会
9/13(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
sisam-movie.jp
Profile
俳優 寛一郎
1996年8月16日生まれ、東京都出身。2017年に俳優デビュー。同年に公開された映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で、第27回日本映画批評家大賞<新人男優賞>を受賞。さらに翌年、映画『菊とギロチン』で第92回キネマ旬報ベストテン<新人男優賞>、第33回高崎映画祭<最優秀新進男優賞>、第28回日本映画批評家大賞<助演男優賞>などの映画賞を受賞。2023年には初舞台となる「カスパー」で主演を務めた。近年の主な出演作には、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22)、『月の満ち欠け』(22)、『せかいのおきく』(23)、『首』(23)、『プロミスト・ランド』 (24) 、『身代わり忠臣蔵』(24)など。 待機作として、映画「ナミビアの砂漠」、TBS SPドラマ「グランメゾン東京」映画「グランメゾン・パリ」配信ドラマ「HEART ATTACK」など。